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『ルポ トランプ王国〜もう一つのアメリカを行く』金成隆一(著)を読む。
『ルポ トランプ王国〜もう一つのアメリカを行く』金成隆一(著)を読む。

 この本は「アメリカ人こそ読むべき」だ。昨年11月8日の大統領本選でトランプが勝利を収めた瞬間から全米はもちろん、世界中が「なぜ???」を連発した。アメリカの大手メディアが戦況をまったく読めていなかったことにメディア自身がショックを受け、改めて様々な分析が行われた。その結果、「貧しい白人」がトランプを勝利に導いたという結論が出され、そこに落ち着いた。

 本書は朝日新聞ニューヨーク支社勤務の記者、金成隆一氏が大統領選の1年間、2015年の12月から本選日まで、その「貧しい白人」が集中するラストベルト(中西部のさびれた工業地帯)とアパラチア地区(全米きっての貧困地区と言われる)に通い詰め、なんと150人を優に超える人々をインタビューしたリポートだ。朝日新聞のサイトで連載されて評判となり、大幅加筆の上、新書化された。



■150人へのインタビュー

 アメリカのメディアが完全に見落としていた巨大なうねりを、ひとりの日本人記者が黙々と追い続けていたのである。

 本書には、すでに閉鎖された製鉄所や炭坑に勤めていた男性たち、潰れてしまったホットドッグ・レストランに勤めていたり、今はバーで働いている女性たちが登場する。彼らが生活の窮状や将来への大きな不安を語る。

 皆、真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャンたちだ。

 金成氏はニューヨークから6時間も7時間も車を運転してオハイオ州やペンシルバニア州に通い、可能な限り多くの人の話を聞いた。ニューヨークやロサンゼルスのような都会ではなく寂れた田舎町に暮らすこうした人々は、自分たちの声など誰も聞いてくれないと思っている。だからこそ、どこからともなくひょっこり表れた日本人ジャーナリストに自分の人生、心情、行き詰まった現状を打破してくれると信じているトランプへの熱い思いの丈をいくらでも話し続けた。自分の言葉が日本の新聞に載ることによって暮しが良くなったり、トランプが有利になるとはさすがに思っていなかっただろう。それでも話さずにはいられなかったのだ。とは言え、これは誰にでもできることではなく、金成氏のインタビュアーとしての天性の資質と鍛錬の賜物でもある。本書を読めば分かるが、インタビュー相手に「話したい」と思わせるインタビュアーなのである。

 そうやって聞き集めた中から、似たような話がいくつも出て来る。そこがキーだ。同じエリアで、多くの人が、驚くほど似た「良い時代」と「凋落の時代」を経験している。それぞれの話は個々人の個別の人生なのだが、背後にはアメリカの大きな歴史の流れが潜んでいる。彼らは歴史に翻弄された人々なのだ。同じ時代に同じ背景の中で生きてきた人々が同じ理由で同じ苦労・不安・絶望を背負わされた。だからこそ彼らが見い出した解決策も同じだった。それがトランプだった。

 この本は私たち日本人が読んでもおおいに役立つ。近い将来の備えになるだろう。しかし、今トランプに翻弄されているアメリカ人こそが読むべき内容だ。英訳してアメリカでこそ出版すべき書籍なのである。





■トランプ支持者と"人種"

 ここから先、『ルポ トランプ王国』の内容そのものからは逸脱する。

 オバマ大統領の初戦、2008年に対立候補ジョン・マケインの選挙キャンペーンを追った『Right America: Feeling Wronged』というドキュメンタリー映画がある。タイトルは「正しい(はずの)アメリカだが、不当な扱いを受けていると感じる」といった意味だ。ドキュメンタリー映像作家のアレクサンドラ・ペロシ(民主党下院院内総務ナンシー・ペロシの娘)がマケイン本人ではなくマケイン支持者、つまりアンチ・オバマの有権者たちにインタビューを行っている。

 カメラは『ルポ トランプ王国』と同じく、白人しか住まない小さな町に分け入って行く。カメラの前で悪びれもせず「黒人には投票しない」と言い切る者がいる。さらには「Nワード」さえも飛び出す。当時、米国初の黒人大統領が誕生しそうな気配に心底怯え、怒り、動顛していた人々だ。彼らがオバマ大統領当選後の8年間に抱えた憤怒は、多くの日本人には到底理解できないレベルのものだった。

 このドキュメンタリーに登場した人々の多くが、今回の選挙ではトランプに票を投じたはずだ。

■1950年代の白人と黒人

 『ルポ トランプ王国』を読んでいて、あることに思い当たった。ナフタ(北米自由貿易協定)によって仕事を無くしたと言う、製造業に携わっていた高齢者たち。彼らは1950年代のアメリカ華やかなりし頃を懐かしむ。今、彼らは「エスタブリッシュメント(既得権層、富裕層)が自分たちを搾取している」と考える。

 彼らが経済的に頂点を極め、豊かなアメリカ中流ライフを満喫していた1950年代に、彼らは黒人の生活状況を考えたことがあるだろうか。黒人の権利獲得のための公民権運動は1950年代半ばから盛り上がり、1964年にようやく公民権法が制定されたが、その後にキング牧師もマルコムXも暗殺されている。

 今年のアカデミー賞で話題となった実話に基づく映画『ラビング 愛という名前のふたり』(原題:Loving)も1950〜60年代が舞台だ。当時、南部では黒人と白人の婚姻は違法であり、夫妻は逮捕、勾留さえされた。2人の間に生まれた赤ん坊は、生まれてはならない子だった。やはり黒人と白人の両親を持つバラク・オバマは1961年生まれであり、ラビング夫妻の子どもたちと同世代である。幸いなことに、バラク・オバマが生まれたハワイ州では異人種間結婚は違法ではなかったのである。

 当時、白人しか住まない小さな町の住人であれば、黒人と接する機会は無かっただろう。公民権運動が盛り上がってメディアが取り上げ始めると、最初は何やら不穏なことが起こっていると不安に感じ、やがて憤りを感じた者もいたことだろう。中には、自分の子どもが通う学校に黒人を入学させないために怒号を飛ばした者もいるだろう。

 しかし、彼らは皆 "真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャン" だった。

 その彼らが今、経済的に凋落し、将来を憂えてトランプに投票した。トランプも "自称" 真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャンなのである。実のところ、トランプはニューヨークという大都市に生まれ、親の代から極めて豊かであり、労働者階級の生活など知る由もない「エスタブリッシュメント」なのだが。

 つまるところ、経済の凋落が「貧しい白人」を引き付けたと言われる今回の選挙も、その根底にはアメリカの根深い人種問題が横たわっているのである。



連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第14回「オバマ大統領は私にも『同胞なるアメリカ人』と呼びかけた」+(バックナンバー)





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ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

 

 

author:堂本かおる, category:ブラックカルチャー, 11:53
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トランプが観るべき難民ミュージカル『ア・マン・オブ・グッドホープ』

トランプが観るべき難民ミュージカル『ア・マン・オブ・グッドホープ』



ニューヨークのブルックリンにて5日間限定で上演されたミュージカル『ア・マン・オブ・グッドホープ』を観た。南アフリカ共和国の劇団による、あるソマリア難民の人生を描いた作品だ。

マリンバを多用した南アフリカの牧歌的な音楽
足を踏み鳴らすダンス
独特の「アルルルルル!」という掛け声
アフリカの歌唱とオペラの融合

段ボールを切り抜き、ダクトテープを巻いただけの機関銃
男が抱えるタイヤと運転ハンドルはトラック

ドア枠だけで表す国境の入管
皺だらけの黒いビニールシートをくぐるのは不法入国

凹んだバケツとたらいは貧困の象徴
アメリカの豊かさを表すのは「GOLD」と書かれたプラカード


A Man of Good Hope
Isango Ensemble / Young Vic





この作品は南アフリカ共和国の作家ジョニー・ステインバーグが実在の人物アサド・アブダラヒへのインタビューを元に書き上げた小説「A Man of Good Hope」を原作とする。

アサドはソマリア人。1991年の内戦時、8歳の時に目の前で武装集団に母親を殺され、命からがらケニアへ逃亡。幸いにも親戚に巡り会い、その女性が母親のように面倒をみてくれる。しかし、その女性もやはり混乱の中で重症を追い、幼いアサドは動けなくなった女性の下の世話、生理の始末まですることになる。なぜなら天涯孤独のアサドにとって、この女性が唯一の頼れる大人だったからだ。

その後も幾多の苦難があり、アサドと女性は離ればなれになる。以後、アサドはエチオピア、タンザニア、ジンバブエ、南アフリカ共和国と移動し続ける。国から国へと、時にはパスポートを持って合法移民として、時には不法入国者として密かに国境を渡る。

だが、アサドが幼い頃から常に夢見ているのは「世界一でっかいトラックがある」豊かな国、アメリカだ。幸運な同胞は飛行機に乗り、渡米して行くが、アサドにそのチャンスは巡って来ない。アサドは成長し、アメリカ行きの希望を捨てないままエチオピアで結婚し、南アでは商店を経営するに至る。

だが、南ア人は「外国人ヘイト」を吹き出し始め、「外国人は我々の仕事を奪う」「移民は犯罪を犯す」と呪う。アサドも店員を殺され、身を粉にして得た商店と大切な搬送トラックを無くしてしまう。

この後、アサドは果たしてアメリカ行きのチケットを手にすることが出来るのか……



非常に重い物語だが、全体のトーンは沈鬱でも重厚でもなく、むしろ軽やかで、コミカルにすら感じるシーンも。傾斜を付けたステージの両脇にマリンバと他の楽器が置かれ、俳優は複数の役をこなし、楽器の演奏も行う。歌は時にオペラ調となり、アフリカ音楽との違和感のない融和に驚く。セリフは英語。アフリカ人の英語は日本人には聞き取りやすい。

主人公アサドは年齢に応じて子ども、若者、成人と4人の俳優が演じるが、一人は女性だ。実在の主人公も原作者も男性だが、女性の生理、女性割礼のエピソードが出ることにやや驚いた。



親を亡くした幼いアサドに祖国に残る道は無かった。命を賭けて何ヶ国を渡り歩かなければならなかった。落ち着いた生活を手に入れたと思った国も安住の地では無かった。

アサドがアメリカに渡っても幸福になれる確証はない。しかし、少なくとも死ぬことはほぼ無くなるだろう。人間が「明日にでも死ぬかもしれない」国から、「死ななくて済む」国に渡りたいと願うのは自然なことだろう。

人間としての生きる権利。
国境を守らねばならない国家の義務。
どちらが優先されるべきなのか。




連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第14回「オバマ大統領は私にも『同胞なるアメリカ人』と呼びかけた」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:ブラックカルチャー, 15:06
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オバマ大統領は私にも「同胞なるアメリカ人」と呼びかけた。〜ヒューマン・バラク・オバマ第14回

オバマ大統領は私にも「同胞なるアメリカ人」と呼びかけた。〜ヒューマン・バラク・オバマ第14回

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


 オバマ前大統領は演説の最初に聴衆に向ってよく「My fellow Americans,」と呼びかけた。fellow は「同胞の」「仲間の」といった意味を持つ。つまり「私の同胞たるアメリカ人の皆さん」。

 多種多様な人々で構成され、米国籍を持たない人も多いアメリカ。オバマ大統領の言う「アメリカ人」とは、いったい誰を指すのだろうか。

 ここで言うアメリカ人とはアメリカ生まれの米国籍者だけを特定しているのではなく、全米人口3.2億人のすべてを含み、「アメリカに住んでいる人」の意だ。


■アメリカ人? 移民?

 アメリカでは人種も民族も宗教も、親の出身国も関係なく、アメリカで生まれた子はアメリカ国籍者であり、つまり法的にアメリカ人だ。親が外国籍、さらに不法滞在者であってもそこは変わらない。

 外国で生まれ、後にアメリカにやってきた移民は米国市民権を取得すれば法的にアメリカ人となる。市民権を取得せずとも永住権を取れば外国籍のまま永住できる。今回のトランプのムスリム7ヶ国民入国禁止令で最も問題とされたのは、永住権保持者も対象としたことだった。アメリカに永住する権利がある者を入国させなかったのである。

 ある程度の年齢以後に移住すると英語に母国語の訛りが残り、人によっては服装や立ち居振る舞いからも外国生まれだろうと推測できる。しかし幼い時期に移住した人たちの多くは訛りが無く、外観からも外国生まれとは分からない。彼らは家庭で親から祖国の文化や言葉を受け継いではいても教育をアメリカで受けているため、中身はアメリカ人だ。アメリカではこうした人々の中にも市民権保持者、永住権保持者、そして不法滞在者がいる。

 オバマ前大統領が救おうとしていたのが通称ドリーマーと呼ばれる、幼い時期に自分の意思ではなく不法滞在者としてアメリカにやってきて、アメリカで教育を受けて育った若者たちだった。

 ドリーマー擁護の理由は、まず彼らは先にも書いたように文化的にアメリカ人であること。生活の基盤がすべてアメリカにあること。不法滞在者ゆえに母国に戻ったことがなく、ごく幼い時期に渡米した者は母国の記憶すら無い。また、アメリカの税金で教育を施した若者を出身国に戻すのは頭脳や才能、労働力の流出でもある。

 家族離散の問題もある。親子で違法に国境を渡った一家もアメリカで次の子どもが生まれると、その子はアメリカ市民だ。何らかの理由で一家が強制送還になる場合、親はアメリカ生まれで米国籍の子も祖国に連れ帰るか、もしくはアメリカで教育を受けさせるために合法滞在の親戚や知人に預ける選択を迫られる。後者を選んだ場合、ドリーマーと弟妹は離ればなれになるのである。

 こうした若者たち、ドリーマーの問題は政権が移った今、宙ぶらりんのままだ。彼らは今、突然の強制送還策施行をとても恐れている。


オバマ大統領、最後の演説。2017/1/10
"My fellow americans" のフレーズは1'20"あたり。




■3つの国旗を持つアイデンティティ

 移民もアメリカ生まれの二世もアイデンティティは複雑だ。アメリカと祖国の二重国籍者も多い。多くの場合、祖国の文化を内包している。あるラティーナ女性は「私の第一言語はスペイン語!」と英語で説明してくれた。ニューヨーク生まれだがヒスパニック・コミュニティで育ったため、家庭内はもちろんコミュニティ内でもスペイン語が使われ、スペイン語が第一言語だった。小学校から英語とのバイリンガル教育が始まり、子どもたちはバイリンガルとなる。中には英語に傾き、祖国語がおぼつかなくなるケースもある。それを防ぐために今はデュアルリンガル教育もある。英語とスペイン語、英語と中国語……どちらも第一言語として卒業まで学び続けることを言う。

 ニューヨークには年間を通じてたくさんのエスニック・パレードやフェスティバルがある。プエルトリカン・デイ・パレード、カリビアン・アメリカン・デイ・バレード(ジャマイカやハイチなどカリブ海諸国)は規模も大きく有名だが他にもイスラエル、インド、ドミニカ共和国、アフリカ諸国 ……数え切れないほどある。

 そうしたパレードに行くと、祖国とアメリカの2つの旗を降っている人たちを見掛ける。例えば「ドミニカ人であり、アメリカ人でもある」と自覚している人たちだ。アメリカ生まれ、アメリカ市民権取得者、永住権保持者、不法滞在者のどれであるかは関係ない。中には3つの旗を持つ人もいる。「父はジャマイカ人、母はトリニ人、そしてボクはアメリカ生まれ」のように。

 アメリカでは人のアイデンティティに無数の組み合せがある。オバマ大統領自身、アメリカ、ケニア、インドネシアの3つのバックグラウンドを持つ。オバマ大統領はさまざまな法的ステイタス、アイデンティティを持つすべての人々に向って「My fellow Americans,」(私の同胞たるアメリカ人の皆さん)と呼びかけ続けていたのである。


連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
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スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 14:09
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スーパーボウル2017〜多様性を訴えたCM:アンチ・トランプに声を上げた企業

スーパーボウル2017〜多様性を訴えたCM:アンチ・トランプに声を上げた企業

 2月4日に開催されたスーパーボウル。白熱の試合とは別にCMも大きな注目を集めた。トランプ政権のムスリム禁止令、メキシコ国境の壁建設令に危惧を抱いた大手企業数社が、非常に高価なCM放映枠でアメリカの多様性を訴えるCMを流した。中にはメキシコからの違法移民を歓迎する内容のものさえあった。

 CMを再度観るためにアクセスが集中し、サイトが一時的にダウンした企業もあれば、トランプ支持層からのボイコット運動の対象となった企業もある。以下はそのCMである。いずれも英語に不案内でもほぼ内容が分かる構成となっている。


コカ・コーラ Coca Cola
アメリカの愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」を多言語で歌ったもの。そもそもは2014年にオンエアされ、その時も批判が起り、今回はコカコーラ・ボイコットのハッシュタグが作られた。


バドワイザー Budweiser


ドイツからアメリカへの移民であったバドワイザーの設立者が「よそ者」として差別され、苦労しながらもアメリカでのビール醸造を目指す物語。このCMもバドワイザー・ボイコットを引き起こした。


84ランバー 84 Lumber (オンエア・バージョン)


内装施行と建材の会社。メキシコからアメリカに不法移民として入国しようと長く辛い旅をする若い母親と少女の物語。トランプが建設しようとしている「壁」を描写したオリジナル・バージョンはスーパーボウルの中継局フォックスから許可が降りず、有刺鉄線の柵のみが写っているバージョンをオンエア。

オンエア・バージョンの最後に「結末はウエブサイトにて」と書かれており、アクセスが集中してサイトは一時ダウン。


84ランバー 84 Lumber (オリジナル・バージョン)


「壁」の建設労働者と「壁」が登場。6分近いミニムービーの赴き。最後に「ここでは成功への意思は常に歓迎される」のメッセージが現れる。保守系の新聞は「この会社はいったい何を考えているんだ?」という記事を掲載した。


エアビーアンドビー Airbnb


さまざまな人種・民族の顔を写し、「あなたが誰であれ、どこから来ようが、誰を愛そうが、または何を信仰しようが、私たちは皆、属すると信じます。世界はあなたが受け入れるほど、より美しくなります」

エアビーアンドビーはアップル、フェイスブック、マイクロソフト、ツイッター社などと共にトランプの政策に反する提訴を行っている。2月6日現在、提訴には97社が参加。


グーグル Google


直接的なメッセージは含まれないが、多種多様な人々の楽しい日常生活の風景を描いている。レインボーフラッグ、ユダヤ教徒が家の入り口に取り付けるメズーザーと呼ばれる祈りのための小さな門柱が意図的に写されている。


ミシュラン Michelin


これも政治的なメッセージはないが、さまざまな人種・民族・言語が現れ、同社のキャラクター、ミシュランマンが手でハートマークを形作っている。

 各企業がこうしたCMを流した理由はそれぞれだろう。企業理念、もしくは設立者の個人的な理念として「アメリカは誰でも受け入れる」を信望しているケースもあれば、ほとんどのIT企業がそうであるように移民や非キリスト教徒なしでは成り立たない業種もある。また、マイノリティ排除の保守性がユーザーに嫌われる業種もあるだろう。

 同時にアメリカ・ファースト派には彼らが思うアメリカの姿がある。

 ふたつの異なるアメリカは今、それぞれが信じる「アメリカの理想像」を掲げているのである。
 




連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
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author:堂本かおる, category:トランプ, 10:50
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NY:ムスリム・コミュニティに広がる恐怖〜神の手にゆだねる
NY:ムスリム・コミュニティに広がる恐怖〜神の手にゆだねる

トランプによる大統領令「シリア難民受け入れ停止+イスラム7ヶ国民の米国入国禁止」について、ニューヨークのハーレムに暮らすマリ人の友人に聞いた。マリは西アフリカの国。マリ人も含め、ニューヨークにはアフリカ諸国からのムスリム移民が多く暮し、ハーレムにもアフリカ人コミュニティがある。友人は合法滞在者だが、コミュニティの人々は事態を非常に恐れていると言う。

「皆、このことについて話し続けている。多くの者が恐れている。マリは7ヶ国に含まれていないが、次に何が起こるか誰にも分からないと皆、言っている。

違法滞在者についてどういった決定がなされるか待っている状態だ。残念なことに多くの不法滞在者がいる。その多くはアメリカに何年も暮し、働き、税金を払っている。ビザの期限が切れた後も滞在していることを除けば、多くは法を守る犯罪歴の無い者で、中にはアメリカ生まれの子を持つ者もいる。

しかし運命は神の手にゆだねると彼らは言う。イスラム教徒として、起こるべきことは何であれ起こるものだと考えている」



西アフリカ人コミュニティにある確定申告も行う事務所/セネガルの魚料理/アフリカン・レストラン/民族衣装用の生地屋(いずれもハーレム)(時計回り)




連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:トランプ, 10:43
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ハーレムのイスラム教徒〜私の隣人たち

ハーレムのイスラム教徒〜私の隣人たち

■イエメンからの男性

 先日、TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』に電話出演し、10分ほど荻上さんの質問に答える形式で「イスラム7ヶ国民の米国入国禁止」の大統領令が出された後のニューヨークの状況を説明した。その時に話したイエメン系の男性の話を補足したい。

 番組出演にあたって7ヶ国からの移民の話を聞きたかったが知り合いにはいなかった。ニューヨーク市内のイスラム団体に電話をすれば話は聞けるはずだが、できれば直接会って話をしたかった。そこで「ボデガ」に行くことにした。

 ボデガとはニューヨークに無数にある食品と雑貨を売る店だ。ダウンタウンではデリと呼ばれるが、ここハーレムではボデガと呼ばれる。経営者はドミニカ系か中東系。ハーレムでの密集度は日本のコンビニよりはるかに高い。だから家の近所で数軒回れば7ヶ国の人に一人くらいは当たるだろうと思った。

 さっそく家を出て角を曲がり、まずは自宅にいちばん近いボデガに入った。レジカウンターにいるオーナーらしき年配の男性は携帯で熱心に話し込んでいる。アラビア語ではないかと思う。電話が終るまで待とうと思ったが、おそらく現状について語りあっているのだろう、長くなりそうな気配だった。

 その時、背後からアラブ系の訛りのある英語で「グリーンカード(米国永住権)が〜」という会話が聞こえた。若い店員だった。これはチャンスと思い、日本のライターです、大統領令について話を聞いていいですかと尋ねた。

 その店員はいぶかしげな顔付きで「日本人なのになぜ?」と聞き返してきた。もっともだ。今回の大統領令は日本でも大きな話題になっているし、私自身アメリカに暮らす移民であり、アメリカには戦時下に日系収容所を作った歴史があると説明すると、「へぇ、なるほど」と彼自身の状況を話してくれた。

 その青年は7ヶ国のひとつ、イエメンの出身だが、すでに市民権を取得していた。大統領令が出されたちょうどその日、親戚一家が里帰り中の故郷からアメリカへのフライトに乗っていたと言う。ワシントンD.C.の空港に到着した際、一家の両親は市民権保持者で大丈夫だったが、子ども二人はグリーンカード保持者だったので勾留されているとのこと。

 その日の朝、連日のデモと法律家たちの抗議に屈したトランプ政権は「グリーンカード保持者は禁止令から除外」の発表を行っていた。朝から店で働いてたらしい青年にそのことを告げると、「それは良かった!」と喜んだ。

 途中で録音してもいいかと尋ねると予想どおり、「ほら、分かってると思うけど僕たちはプレッシャー下にあって、家族とかいるし……」。もちろん理解している。だから青年の名前も親戚一家の詳細も敢えて聞かなかった。



イスラムの祝日に着飾った少女たち。ハーレム


■甘いコーヒー

 これが今のハーレムだ。中東出身のムスリムがたくさんいる。他にも西アフリカ諸国からの移民とその子どもたち、南アジア諸国からの移民とその子どもたち、そしてマルコムXのようにどこかの時点でキリスト教から改宗したアメリカ黒人とその子どもたち。

※ハーレムに住んでいるのはアメリカ黒人とアフリカ移民。中東系と南アジア系はそれぞれのコミュニティに暮し、ハーレムに“通勤”している

 だからハーレムの日常生活では当たり前にイスラム教徒と接する。買物に行く店の店員だけでなく、ダンキンドーナツの店員(ほとんどが南アジア系だ。砂糖抜きのコーヒーはコーヒーではないらしく、入れないでと言っても入れる人がいる)、道ですれ違う通行人(ヒジャブを被っていればおのずと分かる)、露天商の中には歩道に小さな絨毯を敷いてお祈りをする人もいる。息子の小学校のクラスメイトにも何人かいた。あるお父さんはPTAのイベントによく来ていた。

 私のハーレムツアーで立ち寄る店にもイスラム教徒が経営するものがある。彼らとは普通に雑談する。宗教の話は滅多にしない。かなり以前、「君、宗教はなに?」と聞かれて「無い」と答え、見事にどん引きされたことはある。別の店で店員の男性に日本のお菓子をお裾分けした時、「ポークは入ってないよね?」と念押しされたことはある。(ラマダンの時期だったが、その人は「やってないんだよね〜」と笑っていた)

 息子の遠足に付き添い、教会見学の際に中に入ろうとしないイスラム教徒の生徒と、ちょっとした話をしたことはある。ヒジャブを被った女の子から「断食を少しずつ練習してるの」と聞いたこともある。

 そういえば、以前勤めていたハーレムYMCAでの同僚だったバングラデシュからの移民で当時大学生だった女性は、ムスリム女性のファッションや、親の世代との宗教観の違いについていろいろ教えてくれた。

 しかし普段はそうした違いを気にすることはほとんどなく、皆、普通の隣人たちだ。そんな人々が今、一週間前と同じように当たり前に働き、学校に通いながらも心の底には大きな恐怖を抱えているのである。



連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
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author:堂本かおる, category:トランプ, 06:43
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トランプと黒人社会の戦争が始まる〜ヒューマン・バラク・オバマ第13回

トランプと黒人の戦争が始まる〜ヒューマン・バラク・オバマ第13回

 今回の大統領選で投票した黒人女性のうち、トランプに票を投じたのはわずか「4%」だった。黒人女性たちは歴史・経験・知性・本能によってトランプを回避しようとした。その願いもむなしくトランプが大統領となった今、黒人社会は今後4年間の在り方を模索し始めている。


■アメリカの大虐殺

 トランプの就任演説は日本語訳もなされたが、アメリカ社会の背景抜きでは伝わり切らない部分がある。

 「都市の中心部(インナーシティ)では母親と子供たちが、貧困に囚われている」

 「インナーシティ」とは都市部のゲトーを指す。住人の多くは黒人とラティーノ。「母親と子供たち」はそこで圧倒的多数を占める貧しいシングルマザー家庭を指す。

 「犯罪とギャングと麻薬があまりにも多くの命を奪い」「このアメリカの大虐殺は正にここで今、終わる」

 同じ段落の中で工業が衰退して貧困化した中西部のラストベルト地帯にも言及しているが、大筋では黒人ゲトーの犯罪を示唆し、それを「アメリカの大虐殺」と言い表している。


■シカゴに連邦軍を!

 1月24日にトランプは以下のツイートをした。

 「シカゴが酷い “大虐殺” が続いているのを止めないのであれば、2017年に228件の発砲事件で42人死亡(2016年から24%増加)、オレは連邦軍を送り込むぞ!」

 相変わらずのぎこちない文章で「!」付きであることはさておき、メディアはさっそく「トランプがシカゴに連邦介入と脅す」の見出しで報じている。

 アメリカ第3の都市であるシカゴは近年、犯罪の悪化に苦しんでいる。ミシェル・オバマの出身地で、若き日のバラク・オバマが地域奉仕家として働いたサウスサイドと呼ばれる地区も含め、大きな黒人インナーシティがあり、そこが手に負えない状況となっている。

 トランプ当選後の昨年12月、トランプの強硬な移民政策を危惧した全米14都市の市長が連名で手紙を書き、シカゴのラーム・エマニュエル市長が代表としてニューヨークのトランプタワーまで届けた。その際、市長はシカゴの状況についても説明した。

 こうした経緯があるにもかかわらず大統領が一市長に対してツイッターで軍隊を送ると唐突に脅迫したのである。ちなみにトランプがいきなりシカゴの件をツイートしたのは、昨日フォックスニュースがシカゴの犯罪率アップを報じた直後。相変わらずの衝動性である。


■ブラック・ライブズ・マター壊滅策

 ホワイトハウスの公式ウェブサイトはトランプの就任と同時にすべて書き換えられた。

 「我らの法執行機関のために立ち上がる」と題されたページに「米国のアンチ警察の空気は危険であり、間違っている。トランプ政権はこれを終らせる」とある。黒人への警察暴力に対抗するために起こったブラック・ライブス・マター運動を指しているのは明らかだ。「トランプ政権は法と秩序(警察が取り締り、法で裁く)の政権となる」ともあり、アンチ警察運動を厳しく取り締まることを示唆している。

 トランプが司法長官に指名したジェフ・セッションズ(現アラバマ州選出上院議員)は人種差別主義者として知られる人物だ。1986年、レーガン政権下で連邦判事に指名された際、Nワードを使った、KKKについてのジョークを発したなど数々の問題発言が公聴会で証言され、非常に稀な指名却下となった経緯を持つ。

 オバマ政権下の二人の司法長官、エリック・ホールダーとロレッタ・リンチは共に黒人への警察暴力問題と闘ったが、セッションズが司法長官になれば全く異なる道行きとなる。


■バラク・オバマへの恨み

 残念ながらシカゴ市民とエマニュエル市長はイバラの道を行くこととなるだろう。

 まずトランプ自身が大変な人種差別主義者である。すでに何度か書いたことだが、1989年にニューヨークのセントラルパークで若いエリート白人女性がレイプの上、瀕死の重傷を負わされ、ハーレムの5人の少年が誤認逮捕される事件があった。この時、トランプは自費で新聞に「ニューヨークは死刑を復活すべし」との一面広告を出した。全員が未成年、最年少14歳に対しての死刑である。また、トランプは経営するアパートに黒人の入居を拒んだこと、カジノの黒人従業員への差別対応などで何度も訴訟を起こされている。

 以下は筆者の主観だが、トランプは執拗な人間だ。「オバマはアフリカ生まれでイスラム教徒」と何年も言い続け、ついに自身も招待されたホワイトハウスの晩餐会でオバマ大統領から大きなしっぺ返しを衆人環視、テレビ中継もなされていた場で喰らった。トランプはこの時の恨みを一生忘れないだろう。

 シカゴはオバマ夫妻の故郷である。市長のラーム・エマニュエルはオバマ政権の初代大統領首席補佐官であり、個人的にもオバマ前大統領の親しい友人だ。トランプはシカゴを徹底的に攻撃し続けるであろう。

 シカゴだけでなく、全米で司法から黒人社会への強硬策、抑圧が善しとされる空気が生まれ、警察暴力が増え、これまで以上に人が死ぬだろう。しかし警官は起訴されず、無罪放免となり、警察と黒人コミュニティの関係はさらに悪化するだろう。子供を持つ母親たち、夫や恋人を持つ女性たちの直感は正しかった。女性たちは闘い続けていかねばならないのである。




連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」(バックナンバー)




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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 00:05
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「You are cool.」子どもたちから大統領への手紙〜ヒューマン・バラク・オバマ第12回

「You are cool.」子どもたちから大統領への手紙〜ヒューマン・バラク・オバマ第12回

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■

「ありがとう。そして楽しんで、国を治めることを〜子どもたちからオバマ大統領への手紙」という本がある。2008年にオバマ大統領が初当選した直後にアメリカの子どもたちが書いた手紙、約100通をまとめたものだ。表紙のオバマ大統領の似顔絵も子どもが描いている。

8年前に書かれた子どもたちの手紙には、当時のオバマ大統領への社会の大きな希望が反映されている。

ある9歳の女の子は「私はあなたに投票しました/私と私の家族はあなたがマケインよりも助けになると思いました」と書いている。9歳に投票権はもちろん無い。親が大統領選について、バラク・オバマについて、子どもにいろいろと話したのだろう。「史上初の黒人大統領」の誕生に国中が盛り上がっていた。希望に溢れていた。親も教師もオバマ大統領について子どもに語り続けたのだ。

この女の子の親は、もしかするとこの子を投票所に連れていったのかもしれない。投票所にもよると思うが、投票ブースに子どもを連れて入っても差し支えはない。だからこの女の子は自分自身がバラク・オバマを次期大統領にふさわしいと判断し、自分も投票したのだと感じているのだろう。この子にとってオバマ大統領はアメリカ人がよく言うように「マイ・プレジデント」なのだ。


Thanks and Have Fun Running the Country: Kids' Letters to President Obama
Edited by Jory John



手紙はワシントン州シアトルの学童保育所の指導者が思い付き、子どもたちに書かせたもの。他州にある同じ系列の学童保育所にも声を掛けたため、手紙はニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ボストン、サンフランシスコなどからも寄せられている。地名と手紙の内容から察するに、どれも都市部にあり、それほど豊かではない家庭の子どもが多いように思える。人種的マイノリティ、移民の子どもも多く含まれている。

多くの子どもが「大統領に当選しておめでとう」に続いて、「大統領として●●をしてください」と、なんらかの社会問題を持ち出している。そこに挙げられている問題は個々の子どもたちが実際に直面しているものであることが多く、子どもたちは親や先生が満面の笑顔で語る新大統領なら、きっと解決してくれるに違いないと大きな期待を寄せていたことが文面から伺える。


■リーマンショックのまっただ中で

「物価を下げるように言ってください。ボクのお母さんとお父さんは働いてなくて、あまりお金がありません」(10歳)

リーマン・ショックは2008年9月15日に起こった。多くの人々が家や職を失い、アメリカは混沌状態となった。大統領選は直後の11月4日。バラク・オバマが勝ち、翌2009年1月20日の大統領就任式を経て第44代アメリカ合衆国大統領となった。就任の瞬間から厳しい経済問題が待ち構えていた。

子どもたちは手紙の中で「増税」「医療保険」「奨学金」について大統領に支援を願っている。4年後に大学に行きたいと言う13歳にとっては、まさに切実な問題だ。子どもたちはまた、街頭で見掛けるホームレスの救済も願っている。「国民全員に毎日10ドルずつ配る」提案がある。ベーシック・インカムを、そうとは知らずに考えついているのだ。(アイスクリームを配る提案もある!)

イラク/アフガン戦争も続いていた。ある少年は「イトコが戦争に行っていた時、とても心配でした」と綴っている。アメリカの子どもにとって戦争は家族が派兵する、ごく身近な事象だ。

移民問題もある。自身はアメリカ生まれだが中南米の祖国に残っている家族をアメリカに呼び寄せる支援をオバマ大統領に願う子ども。家族がキューバ出身で、キューバの当時の窮状を連綿と訴える子ども。

少なくない子どもが自分が大統領であれば何をするかを書いている。「悪い麻薬」を根絶したい7歳児がいる。近所の犯罪を無くしたい子どもがいる。「世界中から好かれていないアメリカ」をなんとかするためにオバマ大統領の手助けをしたい子どもがいる。長官か補佐官に子どもを任命してはどうかと提案する子どもがいる。環境問題を憂い、「水で走る車」を思い付いた子どももいる。

難題を抱えた新米のオバマ大統領を応援する子どももいた。「心配しないで。私と、私の家族と、私の友だちと、私の学校が応援します」(13歳)


■「You are cool.」

子どもたちは自分とオバマ大統領の共通点を見つけようと一生懸命だ。ある7歳の男の子は「ボクもシカゴ出身で、人種ミックスで、カーリーヘアです」と書いている。ある女の子は自分はアラブ系で、オバマ大統領も「半分アラブ系」だと聞いたと書いている。残念ながら、これは大統領選中に広まった誤解なのだが。

他にも「学校に来てください」「子どもと大統領が話せる電話を作ってほしい」など、子どもたちはオバマ大統領をとても身近に感じている。5歳の女の子は「あなたのお家で会えますか?」と書いている。当時11歳と8歳だったオバマ大統領の娘マリアとサーシャに触れたものも多い。年齢が近いだけに、なおいっそうの親近感があったのだろう。オバマ大統領が当選の暁に娘たちに飼うと約束した犬について尋ねるものもある(後にポルトガル・ウォーター・ドッグ種のボーとサニーが飼われることとなった)。ミシェルがあなたを助けますというものも何通かあった。

オバマ大統領は全国民から寄せられる手紙を毎日10通ずつ読んでいる。出先で市民に歓待される際、必ずといっていいほど幼い子どもを抱き上げる。ホワイトハウスで毎年子どもの科学フェスティバルを開催し、子どもたちの発明品を見て回る。黒人とラティーノの少年支援プロジェクトを開始している。

オバマ大統領は子どもに夢と希望を抱かせることが出来る人物だった。子どもたちに「自分もああなりたい」と思わせる大統領だった。子どもたちはオバマ大統領を「Cool」だと思った。子どもたちはオバマ大統領と躊躇なく言葉を交わせた。

だからこそ子どもたちは手紙の中で率直に「ボクの家族は貧しいです」と言い、助けを求めることができた。彼らが手紙で訴えた問題は、今も重要な課題であり続けている。それらを全て解決できれば、アメリカと世界は今よりはるかに良くなるはずだ。冗談でもなんでもなく、大統領と政府は子どもの声にもっと耳を傾けるべきなのかもしれない。

8年前に手紙を書いた5歳から13歳の子どもたちは今13歳から21歳となっている。彼らにもう一度、オバマ大統領への手紙を書いてほしい。過去8年間に何を思い、何をして、これから先、大統領ではなくなるバラク・オバマに何を望み、トランプが大統領となる今後のアメリカをどう考えているのか。ぜひ聞かせて欲しい。

「あなたはぜったいに悪い言葉を使わないと思います」(7歳)




連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」(バックナンバー)




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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 22:08
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黒人の街ハーレムとゴスペル教会〜映画『ザ・バース・オブ・ア・ネイション』

黒人の街ハーレムとゴスペル教会〜映画『ザ・バース・オブ・ア・ネイション』

 ハーレムには教会が約180軒ある。密集度は日本のコンビニどころではない。ハーレム中のあちこちで教会が向かい合わせに、または隣り合わせに建っている。規模も建築様式もいろいろだ。大きく美しく荘厳で「これぞまさに教会!」という外観ゆえに映画のロケに使われるものもあれば、“ストアフロント・チャーチ”と呼ばれる、店舗だったところを借りて教会として使っているささやかなものもある。

 こんなふうだから日曜の朝のハーレムは世界中からやってくるゴスペル教会目的の観光客で文字どおりに溢れてしまう。優れたゴスペル・クワイアを持つ大きな教会の前には長蛇の列ができる。観光シーズンの夏には並んでも入り切れないことすらある。


写真:K. Domoto

 ゴスペル教会にやってくる観光客は圧倒的にヨーロッパ人で、近年は特にフランス人が多いように感じる。クリスチャンも少なくないはずだが、黒人教会のゴスペル、そして礼拝そのものが自分たちの教会のそれとは全く異なるゆえに観光として成り立ってしまうのだ。

 ゴスペル歌唱は日曜礼拝の一部であり、礼拝の最重要部分は牧師による説教だ。しかし黒人教会の場合は音楽、つまりゴスペルも非常に重要であり、長い時間が割かれる。日本から訪れる人が驚くことのひとつが、ゴスペル・クワイアのバックバンドにドラムがあることだ。カトリック教会の静謐にして壮麗な聖歌をイメージしている人は不思議がる。だが、黒人教会の多くはカトリックではなくプロテスタントであり、そして黒人音楽はジャンルを問わず、リズムこそが命なのである。いったん演奏と歌が始まれば、あとは説明不要なのだが。

 それでもゴスペルとは、つまり賛美歌であって、歌詞はすべて神への賛辞。どの曲でも「神を讃えよう」「神は素晴らしい」「神は万能」「神は他の何ものにも代え難い」といったフレーズが繰り返され、合間に「ハレルヤ!」「エイメン!」の声が挟まれる。

 ちなみに日本に於けるカトリック教会と黒人教会ゴスペルの混同は、映画『天使にラブソングを!』によってもたらされた。あの映画はウーピー・ゴールドバーグ演じる黒人キャバレーシンガーが白人ばかりの厳格なカトリック教会の尼僧たちに黒人教会式のゴスペルを歌わせ、思いっきりの開放感を与えるという物語だった。


■映画『ザ・バース・オブ・ア・ネイション』

 私自身はクリスチャンではない。しかし黒人教会の在り方を知ることは黒人文化と黒人社会を理解するための大きな助けになると考えている。

 昨年、アメリカでは黒人とキリスト教のなれそめを描いた『The Birth of a Nation』という優れた映画が公開された。ナット・ターナー(1800-1831)という実在の奴隷の伝記映画だ。幼い頃から聡明だったターナーは黒人奴隷でありながら聖書を学んで熱心なクリスチャンとなり、奴隷たちにキリスト教の教えを説いた。奴隷主がターナーに説教をさせた目的は、「奴隷主の言うがままに働けば天国に行ける」と信仰を利用して奴隷を使うことだった。自身の意思とは異なる目的で説教を続けざるを得なかったターナーは、やがて白人への謀反を企てる。奴隷たちを組織し、大量の白人を殺害する。だが奴隷たちも瞬く間に殺され、ターナーも処刑されてしまう。

 劇中、ターナーの説教がどんどんと白熱するシーンがある。白人に命じられ、銃を持った白人の前で奴隷を奴隷のまま繋ぎ留めておくための説教だった。ターナーは黒人を苦しめ続ける悪魔のような白人たちへの報復の闘いの物語を祈りの言葉に忍ばせた。

 「私は祈り、あなたは歌う。神への新しい歌を!」

 奴隷たちはターナーの言葉に呼応し、精神を高揚させ、両手を天に差し出し、涙を流し、足を踏み鳴らして祈る。現代の黒人教会の祈りのシーンと全く同じだ。200年も昔のことであり、録音や記録が残っているわけでもなく、この祈りのシーンが実際のターナーと奴隷たちの様子にどれほど忠実なのかは知る由もないが、黒人教会特有の祈りのスタイルがこうして出来上がっていったであろうことは想像に難くない。黒人たちは奴隷解放後も現在に至るまで延々と続く人種差別と、それに基づく貧困などさまざまな困難を抱えている。信仰と教会は今も精神の寄りどころとして無くてはならない存在なのだ。



※『The Birth of a Nation』はサンダンス映画祭で絶賛されてアカデミー賞の呼び声も高かったたものの、主役・監督・原作・脚本のネイト・パーカーの過去のレイプ事件が報じられたことにより2016年10月の公開時には広告もほとんど為されず、興行成績も不振。賞レースからも漏れ、国外公開もキャンセルとなった。KKKを描いた1915年の映画『The Birth of a Nation』(邦題:国民の創世)と同じタイトルなのはパーカーの意図による。


■大統領からラッパーまで

 現代の黒人教会に足を運んでみると、当然だが至って平和的だ。教会員同士は笑顔で挨拶し、ハグや握手が繰り返される。ゴスペルが熱く、ソウルフルに、朗らかに、歓喜をもって歌われ、時にはシニア教会員によるダンスや子どもの合唱もある。牧師の説教があり、教会員へのお知らせもある。聖書の勉強会やイベントの告知だけでなく、教会員やその家族が亡くなったり、若い教会員が大学進学のために地元を離れるといったことが報告される。教会員たちはお互いを「ファミリー」と捉えている。

 牧師の話の内容は多岐に亘る。ある日、女性牧師が聖書の中の物語〜夫に先立たれた未亡人が息子まで亡くしてしまう〜を語った。牧師はこの話を現代の女性に置き換えた。

 「夫がアテにならなくて、息子までダメになっちゃって、そんな時に他人に『大丈夫よ』なんて言われてもどうしようもないですよね!でも、イエスは貴女を見ているのです!」

 ナット・ターナーと同じ手法だ。神の話、聖書の話を生身の信者に置き換え、リアリティをもって訴えかけていく。

 こうした礼拝中に気付くのが、幼い子どもたちの存在だ。親に抱っこされた赤ちゃんもいる。歌詞の内容は分からずとも、ゴスペルのリズムに合わせて身体を揺らしている。リズムを楽しんでいることが顔付きから分かる。そのうちに少しずつ言葉が分かるようになるとゴスペルの歌詞、牧師の話を理解していく。家庭でもクリスチャンの親からクリスチャンとしての価値観を日常生活の中で教わる。こうして子どもたちは自然とクリスチャンに育っていく。ある程度年齢が上がると教会に通わなくなる子どもも多いが、その時点ですでにクリスチャンだ。アメリカでは大統領バラク・オバマからラッパーたちまで、圧倒的多数の黒人がキリスト教徒なのである。(続く)



写真:K. Domoto



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author:堂本かおる, category:ブラックカルチャー, 18:37
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黒人の子どもにオバマ大統領が必要だった理由〜ヒューマン・バラク・オバマ第11回

黒人の子どもにオバマ大統領が必要だった理由〜ヒューマン・バラク・オバマ第11回

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


 オバマ大統領が無類の子ども好きなことはよく知られている。


 ホワイトハウスにはピート・ソウザという専属フォトグラファーがいて、ホワイトハウス内はもちろん、オバマ大統領が行くところどこでも同行し、大量の写真を撮ってはホワイトハウス公式ウエブサイトや公式インスタグラムにアップしている。各メディアもソウザ氏の写真を使うことが多い。政治的な緊張感が漂う写真も多いが、目を引くのは子どもとオバマ大統領の写真だ。



■オバマ大統領はホワイトハウス職員に子どもが生まれたと聞くや、「連れてきて」と頼むという。職員も激務のはずなのでそうそう簡単ではないと思えるのだが、それでも皆、連れてくる。赤ちゃんは大統領の執務室、オーバル・オフォスのカーペット敷きの床をハイハイし、オバマ大統領はスーツ姿のまま跪いて一緒に遊ぶ。時には床に寝転び、赤ちゃんを“高い高い”する。

●執務室の床で赤ちゃんと遊ぶ(写真)

●ホワイトハウス職員の赤ちゃんとご対面(写真)

●「いないいないばあ」(写真)




■オバマ大統領が全米各地、世界各国に出掛けると、必ず市民が歓迎のために集まる。オバマ大統領は人々と握手し、中に赤ちゃんを連れた人がいると必ずといっていいほど赤ちゃんを抱き上げる。過去8年間でオバマ大統領は世界中のいったいどれほどの赤ちゃんを抱っこしたのだろうか。

●赤ちゃんを抱き上げる(写真)

●プラハの米国大使館で赤ちゃんを抱っこ(写真)




■ソウザ氏によると、幼児は当然カメラなど気にせず思うままに行動する。ゆえにとても面白い被写体となる。

●お医者さんごっこ(写真)

●幼稚園で園児と共に(写真)

●時にはなついてもらえないことも(写真)




■子どもは大人が本気で自分を気に掛けているかどうかを本能的に知る。子どもたちにとっては大統領とはいえ、単に初めて会う“おじさん”に過ぎない。それでもオバマ大統領と共に撮影された子どもたちは全幅の信頼を寄せた表情で大統領に抱きついたり、大統領の目を見つめていたりする。


●男の子の頭をなでる(写真)

●リンカーンの肖像の前で(写真)

●ミネソタの学校にて、抱きつかれる(写真)




■もう少し年齢が上がり、大統領とはどういった立場の人かを理解している子どもになると、憧れと敬意の混じった眼差しでオバマ大統領を見つめている。

●オバマケアについての演説を聞く少年(写真)

●ホワウトハウス恒例の子ども科学フェアで大統領を撮影する少女(写真)

●サウスカロライナ州黒人教会乱射事件の犠牲者の娘たち(写真)




■オバマ大統領は人種もエスニックも関係なく、全ての子どもが好きだ。子どもたちも同じ。

●オバマ大統領のいちごパイをほうばる少年(写真)

●ローマ教皇に手紙を渡した不法移民の娘をホワイトハウスに招待(写真)

●マレーシアで難民の子どもたちと語る(写真)




■だが、奴隷制に基づく根強い黒人差別が今も残るアメリカゆえに、黒人の子どもにとって米国史上初の黒人大統領には格段の意味がある。それを象徴するのが、この写真だ。オバマ大統領が就任した2009年。ブッシュ政権に仕えていたホワイトハウス職員が「ホワイトハウスを去る前にぜひ大統領に謁見したい」と願い、実現した際のもの。

●オバマ大統領の髪をさわる5歳のジェイコブ(写真)

 以下は職員の息子で当時5歳のジェイコブとオバマ大統領の会話。

ジェイコブ「……ボクの髪が大統領の髪と同じか知りたいです」

大統領「自分で触ってみたら?」

ジェイコブ(ためらう)

大統領「触って、ほら!」(と頭を下げる)

ジェイコブ(触る)

大統領「どう?」

ジェイコブ「はい、同じです」

 黒人にとって肌の色だけでなく、髪の質も黒人であることの強い象徴であり、プライドとなることもあれば、白人優位の社会にあって大きなコンプレックスにもなる。オバマ大統領の存在は黒人の子どもに「自分と同じ外観の人が大統領なんだ!」という驚きと、「だったら自分も大統領になれるかもしれない」という希望(Hope)を与えた。歴史がもたらすダメージが今もあるからこそ、黒人の子どもには勇気付け、動機付けが必要となる。

 ホワイトハウスの壁に飾られているこの写真は、ワシントンD.C.のスミソニアン・アフリカン・アメリカン歴史文化博物館にも展示されることとなった。

 “大統領とファーストレディとして、バラクと私は同じ取り組み方をしています。なぜなら私たちの言葉と行動は私たちの娘だけでなく、アメリカ中の子どもにとって重要だからです。「テレビであなたたちを見ました。学校の作文であなたたちのことを書きました」という子どもたち。夫を尊敬の眼差しで見上げ、希望で大きく目を見開き、「僕の髪も大統領みたい?」と思うあの小さな黒人の男の子みたいな子どもたちにとって。”(ミシェル・オバマ)

●執務室で大統領とセルフィーを撮る黒人の兄弟(写真)

 大統領は政治的使命を果たせば子ども好きである必要はない。しかし、オバマ大統領の個人的な資質である子ども好きは、この国の多くの子どもに大きな夢と希望を与えた。子どもたちはやがて国の将来を担っていく。オバマ大統領8年間の最大の功績は、子どもという国の礎を培ったことかもしれない。

 

 

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ヒューマン・バラク・オバマ
第1回:父親としてのオバマ大統領〜「私はフェミニスト」
第2回:バラク・オバマは「黒人」なのか〜人種ミックスの孤独

第3回:マイ・ブラザーズ・キーパー〜黒人少年の未来のために
第4回:“二重国籍疑惑”の大統領候補たち〜「生まれつきのアメリカ人」とは?
第5回:ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由
第6回:大統領はクリスチャン〜米国大統領選と宗教
第7回:不法滞在者となってしまった子どもたち〜合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ
第8回:不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦〜法の不平等を正す
第9回:マイ・ブラザーズ・キーパー〜黒人少年の未来のために(全文掲載)
第10回:ミシェル・オバマを「サル」〜メディアを読まない医師・教師・町長





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 09:34
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