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- ハーレムを歩く(ハーレムツアー、ゴスペルツアー、ラティーノツアー)
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2017.07.09 Sundayハーレムを歩く(ハーレムツアー、ゴスペルツアー、ラティーノツアー)
ひさしぶりにハーレムの魅力について書いてみる。
■ハーレム
ハーレムの魅力とは、要するに「一言では語り切れない」複雑さにある。再開発が進んだ今も黒人の街であることは確か。過去100年間、黒人の街だっただけあり、あちこちに濃厚な黒人文化がある。昔はジャズクラブだった古い建物とか、マルコムXが演説をした交差点とか、刺されたキング牧師が搬送された病院とか、ヒップホップの歴史を描いた大きなグラフィティとか。
そうしたものを見て回るだけでもハーレムの、アフリカン・アメリカンの、文化と歴史に驚き、感銘を受けて、ため息が出ることと思う。けれどハーレムの魅力、本質は今、生きて、暮らしている人たちなのだ。
私のハーレム・ウォーキング・ツアーは3時間、ハーレムを歩く。途中、いろいろな人たちとすれ違う。若者、お年寄り、親子連れ、電動車椅子の人、アフリカの民族衣装を着た人、道を歩きながらラップする人、ツアーで歩いている私たちを迷っているのかと心配して声を掛ける人。稀には私の友人や知人とばったり会い、挨拶をすることもあるけれど、ほとんどの人は通行人であり、私はその人たちを知らない。けれど、それぞれの人にそれぞれの物語がある。そのひとつひとつの物語は、先に挙げたハーレムの、アメリカの、黒人史と大きく関わり、織り成されている。
ハーレムを3時間も歩くと、ここを初めて訪れる人であっても、最後にはなんとなくそうしたことを感じてくれているように思う。
ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
■ゴスペル
ゴスペルは教会の日曜礼拝で歌われる神への賛歌だ。黒人音楽としての素晴らしさは歌詞がわからずとも、クリスチャンでなくとも、必ず味わえる。それどころか感動で鳥肌さえ立ってしまう。
けれど、礼拝に参加して得られるのはそれだけではない。教会と地元信者のつながりが、なんとなく見えてくる。
この人たちはなぜ、こんなに熱心なキリスト教信者なのだろう? なぜ毎週、教会に通ってゴスペルを歌い、聴くのだろう? アメリカ黒人の圧倒的多数がクリスチャンなのはなぜだろう? オバマ大統領もクリスチャンだし、日本でも人気のあるR&Bシンガーやラッパー、黒人俳優も多くはクリスチャンだ。
アメリカという国の歴史、ハーレムというユニークな街の歴史、黒人音楽の歴史、そして個々のアフリカン・アメリカンたちの歴史。それらが渾然一体となっての黒人教会とゴスペルなのだ。
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
■スパニッシュハーレム
スパニッシュハーレムとは、黒人の街ハーレムの東側に広がるラティーノ/ヒスパニックの街。カリブ海にあるプエルトリコからの人々と、その二世、三世、四世が暮らしている。
アメリカのラティーノの過半数はメキシコ系だ。けれどニューヨークに住むラティーノの最大多数派はプエルトリカン。彼らはニューヨークになくてはならない存在であり、彼らの早口なスパングリッシュ(英語+スペイン語)はニューヨークというリアル・ダイヴァーシティ都市のサウンドの一部。
さらにプエルトリカンがいなければ、サルサもヒップホップも生まれなかった。そんなプエルトリカンの街、スパニッシュハーレムは巨大な壁画の宝庫でもある。まさに音楽とアートの街なのである。
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
■ワシントンハイツ
「ここ、本当にニューヨークなの?」初めて訪れる人が必ず口にするセリフだ。ハーレムの北に位置する街ワシントンハイツは、ドミニカ共和国系の街。ガイドブックの地図から完全に排除されているこの街は、誇張でなく「スペイン語しか聞こえてこない」街。
観光客が足を運ばないことから、店もレストランもすべてがスペイン語で回されている。けれどこの街で生まれ育った子供たちは、相手によってスペイン語と英語を見事に切り替える。
街はカラフルだ。ヨーロッパからの移住者が建てた巨大で壮麗な建物があり、夏はそこにトロピカルフルーツやジュースの屋台が出る。どこに行ってもパイナップルやマンゴがある。あちらこちらからバチャータやレゲトンが聞こえてくる。
古い欧州とカリブ海の空気が共に漂う街なのである。
ワシントンハイツ・ツアー(ここがNY?! スペイン語の街)
JUGEMテーマ:地域/ローカル
- アメリカの絵本:「シェイズ・オブ・ブラック」SHADES of BLACK - A Celebration of Our Children
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2017.07.07 FridayAmerican Picture Book Review #2
『シェイズ・オブ・ブラック』
SHADES of BLACK - A Celebration of Our Children
著:Sandra L. Pinkney
写真:Myles C. Pinkney
■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■
初出:週刊読書人 2017/6/2号
先日、日本では都立高校の『地毛証明書』が物議を醸したが、アメリカには存在し得ないものだ。ありとあらゆる人種民族の混合国家ゆえに髪も文字どおり十人十色。よって全校生徒の外観を一律に揃えるという概念は無い。
しかし髪について、アメリカは多人種国家ならではの問題を抱えている。女性の美を象徴するのは今もブロンドだ。実際には白人にも様々な出自があり、アメリカでは生まれつきの金髪はそれほど多くないにもかかわらず。ハリウッド女優やCNNのキャスターから一般人まで含め、アメリカの金髪女性の大半は実は染めているのである。
それでも白人であれば髪を染めれば「美の象徴」を象ることができる。より深刻な問題を抱えているのは黒人だ。奴隷時代から永年にわたって濃い肌の色、縮れた髪という外観をも蔑みの対象とされ、強い自己嫌悪、自尊心の欠如を抱えてしまった。それを覆すために生まれたのが、有名な「ブラック・イズ・ビューティフル」というフレーズだ。黒人生来の美を認め、強烈な自己肯定を意識的に促したのだった。
ところが黒人の肌と髪には驚くほどのバラエティがあり、中には白人と見紛うほどに色が薄く、直毛に近いことすらある。理由は、奴隷制時代に多くの黒人女性が白人男性にレイプされたことだ。この残酷な歴史により、現在アメリカに暮らす黒人はヨーロッパのDNAを持つ。黒人の子供たちは白人との外観の違いにコンプレックスを持つだけでなく、黒人社会内部においても「白人により近い肌の色、縮れのゆるい髪のほうが美しい」という概念に捉われてしまう。そのスティグマを防ぎ、黒人の外観の多様性を子供たちに伝えるための写真集が『シェイズ・オブ・ブラック〜私たちの子供のセレブレーション』である。
モデルとなった黒人の子供たちの肌の色、髪の質は見事にバラバラだ。それぞれの肌の色とマッチした「バニラ・アイスクリーム」「クッキー」「チョコレート」を手にして写っている。フワフワしたアフロヘアの子は「コットンボール」、直毛の少年は「真っすぐでシャープな葉っぱ」、ドレッドロックの子は「羊さんのウール」だ。そして「どの髪もぜんぶグッド」「わたしは黒人・ボクはユニーク」「自分でいることを誇りに思う」と記されている。個の違いを尊重して子供のプライドとする、まさに『地毛証明書』の対極をなす写真集なのである。
ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)