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『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』渡辺由佳里(著)を読む。
『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』渡辺由佳里(著)を読む。

 日本の人がとっくにトランプに飽きているのは承知だが、トランプは今後もいろいろと騒動を起こすと断言できる。しかも、次のアメリカ大統領選はすぐにやってくる。というか、もう始まっている。すでに何人か、立候補するつもりだろうと思える政治家がいる。彼らはまだはっきりと立候補宣言はしていない。時期尚早だ。しかし、読めないトランプの動向、混乱の極みにある共和党内部の動向、政権奪回を賭けた民主党の動向、今回の選挙で思わぬ動きを見せた有権者の動向、そして立候補しそうな他の政治家の動向を無理矢理に読みつつ、日々戦術を練っているはずだ。


『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』渡辺由佳里(晶文社)

 『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』は米国マサチューセッツ州在住のエッセイスト/洋書レビュアー/翻訳家の渡辺由佳里氏が2016年の大統領選を描いた一冊だ。とはいえ、トランプのことのみが書かれているわけではない。

 前半はアメリカ大統領選の複雑な仕組み、過去の大統領と大統領選時の出来事が分かりやすく書かれており、今回のトランプ vs. ヒラリー戦に興味を持った人には次回2020年大統領選をより深く理解する助けになるだろう。

 著者はマサチューセッツ州レキシントンという歴史あるリベラルな街に暮しており、そこで一般の人々が自宅の「リビングルーム」で民主主義を大切に育んでいる様子を、住人ならではの体験談として描いている。まさにアメリカン・デモクラシーの根っこの描写であり、日本の民主主義との違いが分かって興味深い。

 同時に、著者も書いているようにアメリカは人種、所得、政党、思想などの組み合せが非常に複雑で、かつ似た背景を持つ者が固まって暮す国ゆえ、高学歴・高所得の白人が多いレキシントンの事情と、他の州、他の都市の事情はまったく異なる。

 だからこそ著者はトランプの政治集会に足を運び、数千人の中低所得白人支持者に囲まれ、トランプ熱に浮かされての攻撃的な態度に居心地の悪い思いを敢えてする。予備選期間中はサンダースの集会にも飛び、そこでは「バーニー・ブロ」と呼ばれた若い白人男性の革命熱を目の当たりにしている。良くも悪くも強烈な個性を放つトランプとサンダースに挟まれ、ヒラリーの選挙キャンペーンはどれほど波瀾万丈となったことか。

 そして、派手な選挙選の陰にはコーク兄弟やウィキリークスのアサンジが暗躍していた。

 後半は著者がそれそれの候補者と社会背景を分析し、良く言えば「多様性」、悪く言えば「分断」が進むアメリカの未来を占う。

 つまり本書に書かれているのは「すでに終った話」ではない。もうすぐそこ、目の前に迫っている2020年大統領選の本格的なスタートを迎える前に「準備」として読めば、きっと役立つ一冊である。





同作の中で紹介されているアメリカのベストセラー『ヒルビリー・エレジー〜アメリカの繁栄から取り残された白人たち』J.D.ヴァンス

連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第15回「オバマ大統領が書いた絵本『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 」+(バックナンバー)






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author:堂本かおる, category:トランプ, 19:35
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2017年 アメリカ:「黒人である」という理由で殺される。

2017年 アメリカ:「黒人である」という理由で殺される。

 ニューヨークのマンハッタン。ある黒人男性が、白人至上主義者による「黒人狩り」の結果、殺された。

 以下は事件直後から4日後の現在に至るまでに複数のメディアが報じた内容をまとめたもの。いまだ全容は分かっておらず、事件の大筋として読んでいただきたい。

 容疑者ジェームズ・H・ジャクソン(28)はメリーランド州ボルティモア在住。3月17日(金)に「黒人を殺すため」に格安バスに乗ってニューヨークにやってきた。当初はボルティモアからほど近いワシントンD.C. での犯行を考えたが、メディアの耳目が集まることを期待して行き先をニューヨークに変えたとのこと。

 ジャクソンはタイムズスクエアのホテルに泊まり、ターゲットとなる黒人を探し歩いた。異人種カップル(おそらく黒人男性と白人女性)も目にしたらしいが、タイムズスクエアは人が多過ぎ、なかなか犯行に及べなかった。

 20日(月)の午後11時頃、ジャクソンはタイムズスクエアに隣接するヘルズキッチンと呼ばれるエリアで、レストランのゴミから缶やビンを回収していた黒人男性ティモシー・カウフマン(66)を見つけ、背後からナイフで刺した。ナイフは特殊な形状で、全長26インチ(66cm)、刃渡り18インチ(46cm)。



刃渡り46cmのナイフ -NYPD

 ジャクソンは刺した後に現場を歩き去り、大きなナイフで刺されたカウフマンは胸から血を流しながら最寄りの警察署まで自力で歩き助けを求めたが、後に死亡。

 事件から24時間少々が経過した22日の真夜中過ぎ、容疑者ジャクソンはタイムズスクエアの警察署に自首。当初は複数の黒人を殺すつもりであったこと、自分の思想を文章にまとめてあり、それをニューヨークタイムズに送るつもりであったこと、2本のナイフを持っていたこと、警官の銃を奪って犯行に使うことも考えたなどと供述している。悪びれた様子は全く無く、報道のカメラから顔を背けることもしなかった。


■白人の女に手を出すな。

 ジャクソンは2007年にボルティモアのクウェーカー学校の高等部を卒業。クウェーカーはキリスト教の教派のひとつであり、同校は小さく豊かな私学。同校のウエブサイトには現在の学費は年間28,650ドル(約320万円)とある。2009年に軍隊に入隊し、約1年間アフガニスタンに派兵。軍では何度か表彰されている。2012年の除隊後の動向は不明であり、後に家賃未払いでアパートの立ち退きを迫られている。当時の大家によると、ジャクソンは近所付き合いを一切せず、まったく生気のない人物だったとのこと。はっきりした時期は不明ながら、10代の頃より白人至上主義者となり、ヘイト・グループに属していたともある。黒人を嫌い、特に白人女性と付き合う黒人男性を憎んだとある。

 これは昔から人種差別主義者によく見られる傾向だ。「劣性な黒人が、優性な自分たち白人の女に手を出した」という人種差別、支配欲、所有欲、そしてコンプレックスがない交ぜになった怒り。それを利用し、情事が発覚した白人女性が「黒人男性に襲われた」と嘘を付くこともある。つい先日もテキサス州で白人女性(18)が半裸で礼拝中の教会に現れ、「3人の黒人男性に誘拐され、輪姦された」と訴える事件があった。警察によって虚偽であることが証明され、女性は逮捕。動機は不明ながら「白人男性に襲われた」より「黒人男性に襲われた」とするほうが信憑性があると考えてのことだったと思われる。


■犠牲者ティモシー・カウフマンの人生

 犠牲となったティモシー・カウフマンは事件現場付近にある一種のシェルターに、もう20年も住んでいたという。若い頃は大学に通い、地元ニューヨーク市クイーンズ区で若者に仕事を斡旋するNPOに長く務め、熱心に働いた。その後、コンサート・プロモーターの仕事をしたこともあると言うが、なぜシェルター住まいとなったのかは不明。

 しかしカウフマンのツイッター・アカウントを見ると、彼の生活や人柄が見えてくる。プロフィールには「缶とビンのリサイクラー。ニューヨーク市で(セレブの)サイン蒐集家で、カリフォルニアに行ってみたい。優れたビジネスマン」とある。服装はこざっぱりとしている。


殺害されたティモシー・カウフマン、昨年11月の大統領選日のツイート「投票の列に並んでいる。アメリカが好きだ」

 最近ではチャック・ベリーの訃報に触れており、あぁ、あの時はまだ元気に生きていたんだ……と驚かされた。もしかするとタイムズスクエア界隈ですれ違ったことがあるかもしれない。

 カウフマンは他にもビヨンセ、クイーン・ラティファ、リアーナ、アイス・キューブなどブラックミュージック・アーティストについての記事をよくリツイートしている。ワイクリフ・ジョンなど通りで見掛けたセレブとのツーショットもある。ボブ・ディラン、ビル・プルマン、デビー・レイノルズなど白人のエンターテイナーについてもRTがなされている。関心の幅が広い人だったようだ。オバマ大統領やオバマケア撤廃問題(66歳で無職のカウフマンには重要な問題だっただろう)、ヒラリー・クリントンについてのRTもある。

 読書家だったらしく、「セント・パトリック・デイに読むのに最適な本のリスト」をRTしている。(容疑者ジャクソンは奇しくもセント・パトリック・デイにニューヨークにやって来ている)

 自閉症についての記事が何度もRTされている。身近な誰かが自閉症だったのだろうか。

 昨年11月の大統領選の日には自撮りをアップし、「投票の列に並んでいる。アメリカが好きだ」と、珍しく自身のコメントを書き添えている。このツイートは事件後に5,500RTされ、18,000を超える「♥」が付いている。

 翌日には「おぉ、神様、なぜこんなことが起こったのですか?」と題されたトランプ当選の記事をRT。

 選挙の3日後には「トランプ当選後、米国でヘイトクライム急増」の記事をRT。あの時期、全米がトランプ当選のショック下にあった。カウフマンも黒人として自分も嫌がらせをされることがあるかもしれないくらいは考え、同時に自国の行く末を大いに憂慮したのではないかと思う。しかし4カ月後に、まさか命まで奪われることになろうとは、ついぞ考えなかったに違いない。

 犠牲者、容疑者、共に複雑な人生を送ってきたようだ。しかし犠牲者カウフマンは苦労をしながらも人生を楽しんでいたことが分かる。それがある日突然、「黒人である」というだけの理由で殺されてしまった。現場目撃者によると、刺された直後にカウフマンは容疑者に向って、信じられないといった様子で「君は何をしているんだ?」と言ったと言う。自分が刺された理由を思い付く時間もなく、カウフマンはこと切れたのではないだろうか。

 西暦2017年。今もアメリカでは「黒人である」というだけの理由で殺されてしまうのである。今、出来ることは容疑者の背景を詳しく調べ、同様の事件の再発を防ぐために役立てることだ。

 ちなみにトランプはロンドン・テロのアメリカ人犠牲者へのコメントは出しているが、カウフマンについては触れていない。

 犠牲者ティモシー・カウフマン氏に心からの哀悼の意を捧げる。





連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第15回「オバマ大統領が書いた絵本『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:人種問題, 14:43
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アンチ・トランプは、アメリカ式きっついユーモアで。

アンチ・トランプは、アメリカ式きっついユーモアで。

 アメリカではアンチ・トランプ運動が延々と続いている。と言うよりアンチを唱えねばならない発言・行動・政策「オバマに盗聴された」「オバマケア撤廃→最悪の改定案」「トランプとロシアの繋がり」「超ゴルフ三昧で税金大浪費」などなど連日留まることを知らずに飛び出し、アンチを唱えても唱えてもキリが無いのだ。

 硬派なジャーナリストは真っ向から挑む。MSNBCのアンカーマン、ローレンス・オドネルは今夜の番組で自身の背後に「TRUMP GUILTY」(トランプは有罪だ)の大きな文字を写し続けていた。

 1月の大統領就任式翌日に「ウィメンズ・マーチ」を主宰した4人の女性活動家(パレスチナ系、アフリカン・アメリカン、ラティーナ、白人)はその後も「女性のいない日」など大規模な抗議活動を企画、実践し続けている。

 その一方でユーモアを武器にする人々がいる。以下は最近見掛けた「ちょっと欲しくなる」アンチ・トランプ・グッズたちだ。


■スーパーサイズ・ザ・レジスタンス



 3月16日、米国マクドナルドのツイッター公式アカウントにトランプをディスるツイートがなされた。

 「ドナルド・トランプ。実際、君はどーしようもない大統領だ。で、我々はバラク・オバマに戻ってきて欲しいわけ。あと、君の手は小さいよね」

 マクドナルド社は即刻このツイートを削除し、「何者かにハッキングされた」とコメントしたが、ネットでは「社内の誰かだよね」と囁かれている。

 このニュースを見たテキサスのある小さな会社が、マクドナルドのデザインを使ったアンチ・トランプ・グッズのブランド "Supersize the Resistance" (特大サイズの抵抗)をこれも速攻で立ち上げ、売り出した。ブランド名やTシャツに印刷されているフレーズはアメリカでのマクドナルドのキャッチフレーズや関連映画のタイトルに搦めたものだ。さらに「バラク・オバマに戻って欲しい」と書かれたトートバッグもある。

 レジスタンス(抵抗)を謳う割りにライトなデザインだが、収益は全額トランプ政権が廃止しようとして物議を醸している貧困層への食事配達サービス "Meals on Wheels" に寄付される。


■カボチャとパンツスーツ

 趣味の絵本をあれこれサーチしていて見つけたのが、この『The Pumpkin and The Pantsuit』(カボチャとパンツスーツ)だ。表紙には「実話に基づく」と書かれており、物語はこんなふうに始まる。

 「ごく最近のこと、それほど遠くはないところにカボチャとパンツスーツが暮していました」「ふたりは同じ輝く夢を持っていました」「ふたりとも大きくて白い家に住みたかったのです」…以下、ふたりが “白い家” を勝ち取るためにキャンペーンを繰り広げ…………


The Pumpkin and The Pantsuit


絵本のトレイラー。ビヨンセやファレルも登場

 この絵本はCNNのコメンテイター、ヴァン・ジョーンズの「今回の選挙を子どもにどう説明すればいいのだ?」という声に端を発して作られた。全米の(少なくとも半数の)家庭の親が同じ悩みを抱えていたのだ。


 収益はやはりNPOの "Children's Defense Fund" に寄付される。



大人向けにパロディ塗り絵も出ている。「ストレス解消にどうぞ」と書かれているが…



■ペットショップのウィンドゥに……

 この犬のオモチャを初めて見たのは昨年、大統領選真っ盛りの9月にワシントンD.C.に旅行した時だ。ホテルの近くのペットショップのウィンドウに飾られていた。その時はトランプとヒラリーだけだったが、後にニューヨークのペットショップでバーニー・サンダースを見掛けた。


写っていないがバーニー・サンダースもいる


 そして最近のこと、マンハッタンのチェルシーにあるペットショップでなんと新製品ビル・クリントンとプーチンを見掛けた。好評なのか、どんどんラインナップが広がっている。しかしオバマ大統領だけは無いようだ。犬に齧られてボロボロになるのが偲びなく、あえて作っていないのではないだろうか。(発売されれば買って、猫には与えず飾るのだが)


これは……


 メーカー "FUZZU" のウエブサイトには、哀れ犬や猫に弄ばれる政治家人形たちの写真がアップされている。


■怒れ、そして笑え。さらば道は開けん。

 今回のレジスタンス(抵抗)は長引く。眉間に皺を寄せ、拳を振り上げてアンチ行動を続けると同時に、こうして息抜きもしなければやっていられないではないか。だからこそトランプ、コンウェイ顧問、スパイサー報道官はもとよりイヴァンカ、2人の息子、果てはセッションズ司法長官のパロディまで続出する今シーズンの『サタデーナイトライブ』は記録的な高視聴率を稼ぎ出しているのである。民よ、怒れ、そして笑え。さらば道は開けん!





連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第15回「オバマ大統領が書いた絵本『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:トランプ, 17:01
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オバマ大統領が書いた絵本『むすめたちへの手紙』〜アメリカの多様性〜ヒューマン・バラク・オバマ第15回
オバマ大統領が書いた「絵本」
 『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』
   〜ヒューマン・バラク・オバマ第15回


■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


 バラク・オバマは大統領時代に絵本を一冊出版している。大統領となった翌年、2010年に出された『of THEE I SING - A Letter to My Daughters』だ。(日本語版『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』)

(注:以下、英語版を元に書いていますが、いわゆるネタバレとなります)





 2人の娘、当時12才だったマリアと9歳だったサーシャへの手紙の形式で、アメリカの13人の偉人を紹介している。分野・時代・人種・性別・信仰がそれぞれに異なる以下の人々だ。

・ジョージア・オキーフ(画家、白人)
・アルバート・アインシュタイン(物理学者、ドイツからの移民、白人)
・ジャッキー・ロビンソン(野球選手、黒人)
・シッティング・ブル(スー族の長、ネイティブアメリカン)
・ビリー・ホリデイ(ジャズ歌手、黒人)
・ヘレン・ケラー(社会福祉活動家、視覚聴覚障害者、白人)
・マヤ・リン(デザイナー・アーティスト、中国系二世)
・ジェーン・アダムス(社会事業家、白人)
・マーティン・ルーサー・キングJr.(牧師・公民権運動リーダー、黒人)
・ニール・アームストロング(宇宙飛行士、白人)
・シーザー・チャベス(農場労働運動家、メキシコ系二世)
・エイブラハム・リンカーン(第16代米国大統領、白人)
・ジョージ・ワシントン(初代米国大統領、白人)


 絵本は「君たちがどれほど素晴らしいか、お父さん最近言ったことあるかな?」と、父バラクから娘たちへの問いかけで始まる。

 以後、一人の人物につき見開き2ページずつを割いていく。ともすれば「偉人伝」から抜け落ちる黒人、ネイティブ・アメリカン、アジア系、ヒスパニックが含まれているのは意図的だろう。移民、移民の親を持つ二世、障害者も含まれている。オバマ大統領はアメリカ白人の母親、ケニア人である黒人の父親、インドネシア人の義父を持つ。自身はクリスチャンだが、父と義父はイスラム教徒だった。妹は白人とアジアのミックス。その夫はアジア系アメリカ人なのでオバマ大統領の姪っ子は外観は完全にアジア系。オバマ大統領はアメリカ中のどの子どもも親近感とプライドが持てるよう13人を注意深く選んだのだろう。

 13人の職業もバラエティに富んでいるが、憲法学者であるオバマ大統領がリンカーンを深く敬愛していることはよく知られており、ここは当人的に外せなかったのだろうと微笑ましく感じる。

 どのページも最初に必ず「君たちは勇気があると、お父さん言ったことあるかな?」「君たちがクリエイティヴだと、お父さん言ったことあるかな?」「君たちは親切だと、お父さん言ったことあるかな?」と、やはり父が娘たちの長所を語る。

 続いて、各偉人の成したことをわずか4〜6行程度で簡潔に説明する。

 ここにオバマ大統領の文才が表れている。ちなみにオバマ大統領は過去に2冊の自伝をゴーストライターを使わずに書き、ベストセラーとしている。かつては多忙にもかかわらず、演説の原稿を自ら書いていた。ロースクール時代には大学院内新聞の編集長だった。大統領任期中は激務からの解放感を得るために読書をしたと言い、昨年、高校を卒業した長女マリアにはキンドルにたくさんの本を詰めて贈っている。バラク・オバマは本読みであり、かつ優れた文章書きなのである。

 たとえば、1947年に黒人初の大リーガーとなったジャッキー・ロビンソンは他の選手や観客から激しい人種差別を受けた。しかしオバマ大統領の文には「黒人」「白人」「人種」「差別」といった言葉は見当たらない。絵本画家ローレン・ロングによる、ホームランを打った瞬間であろうロビンソンの絵に「バットを優美さと強さで振る」「恐れを敬意に変える」と書き添えてある。

 最後のページにはアメリカは異なる人種,宗教、思想を持つ人々で出来ているとある。

 その後に手をつなぐ父と娘たちの姿がある。現代のアメリカに生きる娘たちはこうした過去の偉人たちと繋がっており、それが娘たちの未来に反映すること、そして父バラクが娘たちを心から愛していることが綴られている。

 つまりこの絵本は単なる偉人伝ではなく、幾つもの目的がある。アメリカを形作った偉大な人々を讃え、その精神を子どもたちに伝える。同時にアメリカの多様性を訴え、そして何より、娘たちへの父の深い愛情を表した一冊なのである。


英語版


日本語版
※スペイン語版、中国語版、ドイツ語版、韓国語版もあり



連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第14回「オバマ大統領は私にも『同胞なるアメリカ人』と呼びかけた」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 02:53
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『ルポ トランプ王国〜もう一つのアメリカを行く』金成隆一(著)を読む。
『ルポ トランプ王国〜もう一つのアメリカを行く』金成隆一(著)を読む。

 この本は「アメリカ人こそ読むべき」だ。昨年11月8日の大統領本選でトランプが勝利を収めた瞬間から全米はもちろん、世界中が「なぜ???」を連発した。アメリカの大手メディアが戦況をまったく読めていなかったことにメディア自身がショックを受け、改めて様々な分析が行われた。その結果、「貧しい白人」がトランプを勝利に導いたという結論が出され、そこに落ち着いた。

 本書は朝日新聞ニューヨーク支社勤務の記者、金成隆一氏が大統領選の1年間、2015年の12月から本選日まで、その「貧しい白人」が集中するラストベルト(中西部のさびれた工業地帯)とアパラチア地区(全米きっての貧困地区と言われる)に通い詰め、なんと150人を優に超える人々をインタビューしたリポートだ。朝日新聞のサイトで連載されて評判となり、大幅加筆の上、新書化された。



■150人へのインタビュー

 アメリカのメディアが完全に見落としていた巨大なうねりを、ひとりの日本人記者が黙々と追い続けていたのである。

 本書には、すでに閉鎖された製鉄所や炭坑に勤めていた男性たち、潰れてしまったホットドッグ・レストランに勤めていたり、今はバーで働いている女性たちが登場する。彼らが生活の窮状や将来への大きな不安を語る。

 皆、真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャンたちだ。

 金成氏はニューヨークから6時間も7時間も車を運転してオハイオ州やペンシルバニア州に通い、可能な限り多くの人の話を聞いた。ニューヨークやロサンゼルスのような都会ではなく寂れた田舎町に暮らすこうした人々は、自分たちの声など誰も聞いてくれないと思っている。だからこそ、どこからともなくひょっこり表れた日本人ジャーナリストに自分の人生、心情、行き詰まった現状を打破してくれると信じているトランプへの熱い思いの丈をいくらでも話し続けた。自分の言葉が日本の新聞に載ることによって暮しが良くなったり、トランプが有利になるとはさすがに思っていなかっただろう。それでも話さずにはいられなかったのだ。とは言え、これは誰にでもできることではなく、金成氏のインタビュアーとしての天性の資質と鍛錬の賜物でもある。本書を読めば分かるが、インタビュー相手に「話したい」と思わせるインタビュアーなのである。

 そうやって聞き集めた中から、似たような話がいくつも出て来る。そこがキーだ。同じエリアで、多くの人が、驚くほど似た「良い時代」と「凋落の時代」を経験している。それぞれの話は個々人の個別の人生なのだが、背後にはアメリカの大きな歴史の流れが潜んでいる。彼らは歴史に翻弄された人々なのだ。同じ時代に同じ背景の中で生きてきた人々が同じ理由で同じ苦労・不安・絶望を背負わされた。だからこそ彼らが見い出した解決策も同じだった。それがトランプだった。

 この本は私たち日本人が読んでもおおいに役立つ。近い将来の備えになるだろう。しかし、今トランプに翻弄されているアメリカ人こそが読むべき内容だ。英訳してアメリカでこそ出版すべき書籍なのである。





■トランプ支持者と"人種"

 ここから先、『ルポ トランプ王国』の内容そのものからは逸脱する。

 オバマ大統領の初戦、2008年に対立候補ジョン・マケインの選挙キャンペーンを追った『Right America: Feeling Wronged』というドキュメンタリー映画がある。タイトルは「正しい(はずの)アメリカだが、不当な扱いを受けていると感じる」といった意味だ。ドキュメンタリー映像作家のアレクサンドラ・ペロシ(民主党下院院内総務ナンシー・ペロシの娘)がマケイン本人ではなくマケイン支持者、つまりアンチ・オバマの有権者たちにインタビューを行っている。

 カメラは『ルポ トランプ王国』と同じく、白人しか住まない小さな町に分け入って行く。カメラの前で悪びれもせず「黒人には投票しない」と言い切る者がいる。さらには「Nワード」さえも飛び出す。当時、米国初の黒人大統領が誕生しそうな気配に心底怯え、怒り、動顛していた人々だ。彼らがオバマ大統領当選後の8年間に抱えた憤怒は、多くの日本人には到底理解できないレベルのものだった。

 このドキュメンタリーに登場した人々の多くが、今回の選挙ではトランプに票を投じたはずだ。

■1950年代の白人と黒人

 『ルポ トランプ王国』を読んでいて、あることに思い当たった。ナフタ(北米自由貿易協定)によって仕事を無くしたと言う、製造業に携わっていた高齢者たち。彼らは1950年代のアメリカ華やかなりし頃を懐かしむ。今、彼らは「エスタブリッシュメント(既得権層、富裕層)が自分たちを搾取している」と考える。

 彼らが経済的に頂点を極め、豊かなアメリカ中流ライフを満喫していた1950年代に、彼らは黒人の生活状況を考えたことがあるだろうか。黒人の権利獲得のための公民権運動は1950年代半ばから盛り上がり、1964年にようやく公民権法が制定されたが、その後にキング牧師もマルコムXも暗殺されている。

 今年のアカデミー賞で話題となった実話に基づく映画『ラビング 愛という名前のふたり』(原題:Loving)も1950〜60年代が舞台だ。当時、南部では黒人と白人の婚姻は違法であり、夫妻は逮捕、勾留さえされた。2人の間に生まれた赤ん坊は、生まれてはならない子だった。やはり黒人と白人の両親を持つバラク・オバマは1961年生まれであり、ラビング夫妻の子どもたちと同世代である。幸いなことに、バラク・オバマが生まれたハワイ州では異人種間結婚は違法ではなかったのである。

 当時、白人しか住まない小さな町の住人であれば、黒人と接する機会は無かっただろう。公民権運動が盛り上がってメディアが取り上げ始めると、最初は何やら不穏なことが起こっていると不安に感じ、やがて憤りを感じた者もいたことだろう。中には、自分の子どもが通う学校に黒人を入学させないために怒号を飛ばした者もいるだろう。

 しかし、彼らは皆 "真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャン" だった。

 その彼らが今、経済的に凋落し、将来を憂えてトランプに投票した。トランプも "自称" 真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャンなのである。実のところ、トランプはニューヨークという大都市に生まれ、親の代から極めて豊かであり、労働者階級の生活など知る由もない「エスタブリッシュメント」なのだが。

 つまるところ、経済の凋落が「貧しい白人」を引き付けたと言われる今回の選挙も、その根底にはアメリカの根深い人種問題が横たわっているのである。



連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第14回「オバマ大統領は私にも『同胞なるアメリカ人』と呼びかけた」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:ブラックカルチャー, 11:53
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