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2017.02.21 Tuesday
トランプが観るべき難民ミュージカル『ア・マン・オブ・グッドホープ』
ニューヨークのブルックリンにて5日間限定で上演されたミュージカル『ア・マン・オブ・グッドホープ』を観た。南アフリカ共和国の劇団による、あるソマリア難民の人生を描いた作品だ。
マリンバを多用した南アフリカの牧歌的な音楽
足を踏み鳴らすダンス
独特の「アルルルルル!」という掛け声
アフリカの歌唱とオペラの融合
段ボールを切り抜き、ダクトテープを巻いただけの機関銃
男が抱えるタイヤと運転ハンドルはトラック
ドア枠だけで表す国境の入管
皺だらけの黒いビニールシートをくぐるのは不法入国
凹んだバケツとたらいは貧困の象徴
アメリカの豊かさを表すのは「GOLD」と書かれたプラカード
A Man of Good Hope
Isango Ensemble / Young Vic
この作品は南アフリカ共和国の作家ジョニー・ステインバーグが実在の人物アサド・アブダラヒへのインタビューを元に書き上げた小説「A Man of Good Hope」を原作とする。
アサドはソマリア人。1991年の内戦時、8歳の時に目の前で武装集団に母親を殺され、命からがらケニアへ逃亡。幸いにも親戚に巡り会い、その女性が母親のように面倒をみてくれる。しかし、その女性もやはり混乱の中で重症を追い、幼いアサドは動けなくなった女性の下の世話、生理の始末まですることになる。なぜなら天涯孤独のアサドにとって、この女性が唯一の頼れる大人だったからだ。
その後も幾多の苦難があり、アサドと女性は離ればなれになる。以後、アサドはエチオピア、タンザニア、ジンバブエ、南アフリカ共和国と移動し続ける。国から国へと、時にはパスポートを持って合法移民として、時には不法入国者として密かに国境を渡る。
だが、アサドが幼い頃から常に夢見ているのは「世界一でっかいトラックがある」豊かな国、アメリカだ。幸運な同胞は飛行機に乗り、渡米して行くが、アサドにそのチャンスは巡って来ない。アサドは成長し、アメリカ行きの希望を捨てないままエチオピアで結婚し、南アでは商店を経営するに至る。
だが、南ア人は「外国人ヘイト」を吹き出し始め、「外国人は我々の仕事を奪う」「移民は犯罪を犯す」と呪う。アサドも店員を殺され、身を粉にして得た商店と大切な搬送トラックを無くしてしまう。
この後、アサドは果たしてアメリカ行きのチケットを手にすることが出来るのか……
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非常に重い物語だが、全体のトーンは沈鬱でも重厚でもなく、むしろ軽やかで、コミカルにすら感じるシーンも。傾斜を付けたステージの両脇にマリンバと他の楽器が置かれ、俳優は複数の役をこなし、楽器の演奏も行う。歌は時にオペラ調となり、アフリカ音楽との違和感のない融和に驚く。セリフは英語。アフリカ人の英語は日本人には聞き取りやすい。
主人公アサドは年齢に応じて子ども、若者、成人と4人の俳優が演じるが、一人は女性だ。実在の主人公も原作者も男性だが、女性の生理、女性割礼のエピソードが出ることにやや驚いた。
■
親を亡くした幼いアサドに祖国に残る道は無かった。命を賭けて何ヶ国を渡り歩かなければならなかった。落ち着いた生活を手に入れたと思った国も安住の地では無かった。
アサドがアメリカに渡っても幸福になれる確証はない。しかし、少なくとも死ぬことはほぼ無くなるだろう。人間が「明日にでも死ぬかもしれない」国から、「死ななくて済む」国に渡りたいと願うのは自然なことだろう。
人間としての生きる権利。
国境を守らねばならない国家の義務。
どちらが優先されるべきなのか。
連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第14回「オバマ大統領は私にも『同胞なるアメリカ人』と呼びかけた」+(バックナンバー)
ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)
- オバマ大統領は私にも「同胞なるアメリカ人」と呼びかけた。〜ヒューマン・バラク・オバマ第14回
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2017.02.10 Friday
オバマ大統領は私にも「同胞なるアメリカ人」と呼びかけた。〜ヒューマン・バラク・オバマ第14回
■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■
オバマ前大統領は演説の最初に聴衆に向ってよく「My fellow Americans,」と呼びかけた。fellow は「同胞の」「仲間の」といった意味を持つ。つまり「私の同胞たるアメリカ人の皆さん」。
多種多様な人々で構成され、米国籍を持たない人も多いアメリカ。オバマ大統領の言う「アメリカ人」とは、いったい誰を指すのだろうか。
ここで言うアメリカ人とはアメリカ生まれの米国籍者だけを特定しているのではなく、全米人口3.2億人のすべてを含み、「アメリカに住んでいる人」の意だ。
■アメリカ人? 移民?
アメリカでは人種も民族も宗教も、親の出身国も関係なく、アメリカで生まれた子はアメリカ国籍者であり、つまり法的にアメリカ人だ。親が外国籍、さらに不法滞在者であってもそこは変わらない。
外国で生まれ、後にアメリカにやってきた移民は米国市民権を取得すれば法的にアメリカ人となる。市民権を取得せずとも永住権を取れば外国籍のまま永住できる。今回のトランプのムスリム7ヶ国民入国禁止令で最も問題とされたのは、永住権保持者も対象としたことだった。アメリカに永住する権利がある者を入国させなかったのである。
ある程度の年齢以後に移住すると英語に母国語の訛りが残り、人によっては服装や立ち居振る舞いからも外国生まれだろうと推測できる。しかし幼い時期に移住した人たちの多くは訛りが無く、外観からも外国生まれとは分からない。彼らは家庭で親から祖国の文化や言葉を受け継いではいても教育をアメリカで受けているため、中身はアメリカ人だ。アメリカではこうした人々の中にも市民権保持者、永住権保持者、そして不法滞在者がいる。
オバマ前大統領が救おうとしていたのが通称ドリーマーと呼ばれる、幼い時期に自分の意思ではなく不法滞在者としてアメリカにやってきて、アメリカで教育を受けて育った若者たちだった。
ドリーマー擁護の理由は、まず彼らは先にも書いたように文化的にアメリカ人であること。生活の基盤がすべてアメリカにあること。不法滞在者ゆえに母国に戻ったことがなく、ごく幼い時期に渡米した者は母国の記憶すら無い。また、アメリカの税金で教育を施した若者を出身国に戻すのは頭脳や才能、労働力の流出でもある。
家族離散の問題もある。親子で違法に国境を渡った一家もアメリカで次の子どもが生まれると、その子はアメリカ市民だ。何らかの理由で一家が強制送還になる場合、親はアメリカ生まれで米国籍の子も祖国に連れ帰るか、もしくはアメリカで教育を受けさせるために合法滞在の親戚や知人に預ける選択を迫られる。後者を選んだ場合、ドリーマーと弟妹は離ればなれになるのである。
こうした若者たち、ドリーマーの問題は政権が移った今、宙ぶらりんのままだ。彼らは今、突然の強制送還策施行をとても恐れている。
オバマ大統領、最後の演説。2017/1/10
"My fellow americans" のフレーズは1'20"あたり。
■3つの国旗を持つアイデンティティ
移民もアメリカ生まれの二世もアイデンティティは複雑だ。アメリカと祖国の二重国籍者も多い。多くの場合、祖国の文化を内包している。あるラティーナ女性は「私の第一言語はスペイン語!」と英語で説明してくれた。ニューヨーク生まれだがヒスパニック・コミュニティで育ったため、家庭内はもちろんコミュニティ内でもスペイン語が使われ、スペイン語が第一言語だった。小学校から英語とのバイリンガル教育が始まり、子どもたちはバイリンガルとなる。中には英語に傾き、祖国語がおぼつかなくなるケースもある。それを防ぐために今はデュアルリンガル教育もある。英語とスペイン語、英語と中国語……どちらも第一言語として卒業まで学び続けることを言う。
ニューヨークには年間を通じてたくさんのエスニック・パレードやフェスティバルがある。プエルトリカン・デイ・パレード、カリビアン・アメリカン・デイ・バレード(ジャマイカやハイチなどカリブ海諸国)は規模も大きく有名だが他にもイスラエル、インド、ドミニカ共和国、アフリカ諸国 ……数え切れないほどある。
そうしたパレードに行くと、祖国とアメリカの2つの旗を降っている人たちを見掛ける。例えば「ドミニカ人であり、アメリカ人でもある」と自覚している人たちだ。アメリカ生まれ、アメリカ市民権取得者、永住権保持者、不法滞在者のどれであるかは関係ない。中には3つの旗を持つ人もいる。「父はジャマイカ人、母はトリニ人、そしてボクはアメリカ生まれ」のように。
アメリカでは人のアイデンティティに無数の組み合せがある。オバマ大統領自身、アメリカ、ケニア、インドネシアの3つのバックグラウンドを持つ。オバマ大統領はさまざまな法的ステイタス、アイデンティティを持つすべての人々に向って「My fellow Americans,」(私の同胞たるアメリカ人の皆さん)と呼びかけ続けていたのである。
連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)
ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
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- スーパーボウル2017〜多様性を訴えたCM:アンチ・トランプに声を上げた企業
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2017.02.07 Tuesday
スーパーボウル2017〜多様性を訴えたCM:アンチ・トランプに声を上げた企業
2月4日に開催されたスーパーボウル。白熱の試合とは別にCMも大きな注目を集めた。トランプ政権のムスリム禁止令、メキシコ国境の壁建設令に危惧を抱いた大手企業数社が、非常に高価なCM放映枠でアメリカの多様性を訴えるCMを流した。中にはメキシコからの違法移民を歓迎する内容のものさえあった。
CMを再度観るためにアクセスが集中し、サイトが一時的にダウンした企業もあれば、トランプ支持層からのボイコット運動の対象となった企業もある。以下はそのCMである。いずれも英語に不案内でもほぼ内容が分かる構成となっている。
コカ・コーラ Coca Cola
アメリカの愛国歌「アメリカ・ザ・ビューティフル」を多言語で歌ったもの。そもそもは2014年にオンエアされ、その時も批判が起り、今回はコカコーラ・ボイコットのハッシュタグが作られた。
バドワイザー Budweiser
ドイツからアメリカへの移民であったバドワイザーの設立者が「よそ者」として差別され、苦労しながらもアメリカでのビール醸造を目指す物語。このCMもバドワイザー・ボイコットを引き起こした。
84ランバー 84 Lumber (オンエア・バージョン)
内装施行と建材の会社。メキシコからアメリカに不法移民として入国しようと長く辛い旅をする若い母親と少女の物語。トランプが建設しようとしている「壁」を描写したオリジナル・バージョンはスーパーボウルの中継局フォックスから許可が降りず、有刺鉄線の柵のみが写っているバージョンをオンエア。
オンエア・バージョンの最後に「結末はウエブサイトにて」と書かれており、アクセスが集中してサイトは一時ダウン。
84ランバー 84 Lumber (オリジナル・バージョン)
「壁」の建設労働者と「壁」が登場。6分近いミニムービーの赴き。最後に「ここでは成功への意思は常に歓迎される」のメッセージが現れる。保守系の新聞は「この会社はいったい何を考えているんだ?」という記事を掲載した。
エアビーアンドビー Airbnb
さまざまな人種・民族の顔を写し、「あなたが誰であれ、どこから来ようが、誰を愛そうが、または何を信仰しようが、私たちは皆、属すると信じます。世界はあなたが受け入れるほど、より美しくなります」
エアビーアンドビーはアップル、フェイスブック、マイクロソフト、ツイッター社などと共にトランプの政策に反する提訴を行っている。2月6日現在、提訴には97社が参加。
グーグル Google
直接的なメッセージは含まれないが、多種多様な人々の楽しい日常生活の風景を描いている。レインボーフラッグ、ユダヤ教徒が家の入り口に取り付けるメズーザーと呼ばれる祈りのための小さな門柱が意図的に写されている。
ミシュラン Michelin
これも政治的なメッセージはないが、さまざまな人種・民族・言語が現れ、同社のキャラクター、ミシュランマンが手でハートマークを形作っている。
各企業がこうしたCMを流した理由はそれぞれだろう。企業理念、もしくは設立者の個人的な理念として「アメリカは誰でも受け入れる」を信望しているケースもあれば、ほとんどのIT企業がそうであるように移民や非キリスト教徒なしでは成り立たない業種もある。また、マイノリティ排除の保守性がユーザーに嫌われる業種もあるだろう。
同時にアメリカ・ファースト派には彼らが思うアメリカの姿がある。
ふたつの異なるアメリカは今、それぞれが信じる「アメリカの理想像」を掲げているのである。
連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)
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- NY:ムスリム・コミュニティに広がる恐怖〜神の手にゆだねる
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2017.02.04 SaturdayNY:ムスリム・コミュニティに広がる恐怖〜神の手にゆだねる
トランプによる大統領令「シリア難民受け入れ停止+イスラム7ヶ国民の米国入国禁止」について、ニューヨークのハーレムに暮らすマリ人の友人に聞いた。マリは西アフリカの国。マリ人も含め、ニューヨークにはアフリカ諸国からのムスリム移民が多く暮し、ハーレムにもアフリカ人コミュニティがある。友人は合法滞在者だが、コミュニティの人々は事態を非常に恐れていると言う。
「皆、このことについて話し続けている。多くの者が恐れている。マリは7ヶ国に含まれていないが、次に何が起こるか誰にも分からないと皆、言っている。
違法滞在者についてどういった決定がなされるか待っている状態だ。残念なことに多くの不法滞在者がいる。その多くはアメリカに何年も暮し、働き、税金を払っている。ビザの期限が切れた後も滞在していることを除けば、多くは法を守る犯罪歴の無い者で、中にはアメリカ生まれの子を持つ者もいる。
しかし運命は神の手にゆだねると彼らは言う。イスラム教徒として、起こるべきことは何であれ起こるものだと考えている」
西アフリカ人コミュニティにある確定申告も行う事務所/セネガルの魚料理/アフリカン・レストラン/民族衣装用の生地屋(いずれもハーレム)(時計回り)
連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)
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- ハーレムのイスラム教徒〜私の隣人たち
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2017.02.01 Wednesday
ハーレムのイスラム教徒〜私の隣人たち
■イエメンからの男性
先日、TBSラジオ『荻上チキ・Session-22』に電話出演し、10分ほど荻上さんの質問に答える形式で「イスラム7ヶ国民の米国入国禁止」の大統領令が出された後のニューヨークの状況を説明した。その時に話したイエメン系の男性の話を補足したい。
番組出演にあたって7ヶ国からの移民の話を聞きたかったが知り合いにはいなかった。ニューヨーク市内のイスラム団体に電話をすれば話は聞けるはずだが、できれば直接会って話をしたかった。そこで「ボデガ」に行くことにした。
ボデガとはニューヨークに無数にある食品と雑貨を売る店だ。ダウンタウンではデリと呼ばれるが、ここハーレムではボデガと呼ばれる。経営者はドミニカ系か中東系。ハーレムでの密集度は日本のコンビニよりはるかに高い。だから家の近所で数軒回れば7ヶ国の人に一人くらいは当たるだろうと思った。
さっそく家を出て角を曲がり、まずは自宅にいちばん近いボデガに入った。レジカウンターにいるオーナーらしき年配の男性は携帯で熱心に話し込んでいる。アラビア語ではないかと思う。電話が終るまで待とうと思ったが、おそらく現状について語りあっているのだろう、長くなりそうな気配だった。
その時、背後からアラブ系の訛りのある英語で「グリーンカード(米国永住権)が〜」という会話が聞こえた。若い店員だった。これはチャンスと思い、日本のライターです、大統領令について話を聞いていいですかと尋ねた。
その店員はいぶかしげな顔付きで「日本人なのになぜ?」と聞き返してきた。もっともだ。今回の大統領令は日本でも大きな話題になっているし、私自身アメリカに暮らす移民であり、アメリカには戦時下に日系収容所を作った歴史があると説明すると、「へぇ、なるほど」と彼自身の状況を話してくれた。
その青年は7ヶ国のひとつ、イエメンの出身だが、すでに市民権を取得していた。大統領令が出されたちょうどその日、親戚一家が里帰り中の故郷からアメリカへのフライトに乗っていたと言う。ワシントンD.C.の空港に到着した際、一家の両親は市民権保持者で大丈夫だったが、子ども二人はグリーンカード保持者だったので勾留されているとのこと。
その日の朝、連日のデモと法律家たちの抗議に屈したトランプ政権は「グリーンカード保持者は禁止令から除外」の発表を行っていた。朝から店で働いてたらしい青年にそのことを告げると、「それは良かった!」と喜んだ。
途中で録音してもいいかと尋ねると予想どおり、「ほら、分かってると思うけど僕たちはプレッシャー下にあって、家族とかいるし……」。もちろん理解している。だから青年の名前も親戚一家の詳細も敢えて聞かなかった。
イスラムの祝日に着飾った少女たち。ハーレム
■甘いコーヒー
これが今のハーレムだ。中東出身のムスリムがたくさんいる。他にも西アフリカ諸国からの移民とその子どもたち、南アジア諸国からの移民とその子どもたち、そしてマルコムXのようにどこかの時点でキリスト教から改宗したアメリカ黒人とその子どもたち。
※ハーレムに住んでいるのはアメリカ黒人とアフリカ移民。中東系と南アジア系はそれぞれのコミュニティに暮し、ハーレムに“通勤”している
だからハーレムの日常生活では当たり前にイスラム教徒と接する。買物に行く店の店員だけでなく、ダンキンドーナツの店員(ほとんどが南アジア系だ。砂糖抜きのコーヒーはコーヒーではないらしく、入れないでと言っても入れる人がいる)、道ですれ違う通行人(ヒジャブを被っていればおのずと分かる)、露天商の中には歩道に小さな絨毯を敷いてお祈りをする人もいる。息子の小学校のクラスメイトにも何人かいた。あるお父さんはPTAのイベントによく来ていた。
私のハーレムツアーで立ち寄る店にもイスラム教徒が経営するものがある。彼らとは普通に雑談する。宗教の話は滅多にしない。かなり以前、「君、宗教はなに?」と聞かれて「無い」と答え、見事にどん引きされたことはある。別の店で店員の男性に日本のお菓子をお裾分けした時、「ポークは入ってないよね?」と念押しされたことはある。(ラマダンの時期だったが、その人は「やってないんだよね〜」と笑っていた)
息子の遠足に付き添い、教会見学の際に中に入ろうとしないイスラム教徒の生徒と、ちょっとした話をしたことはある。ヒジャブを被った女の子から「断食を少しずつ練習してるの」と聞いたこともある。
そういえば、以前勤めていたハーレムYMCAでの同僚だったバングラデシュからの移民で当時大学生だった女性は、ムスリム女性のファッションや、親の世代との宗教観の違いについていろいろ教えてくれた。
しかし普段はそうした違いを気にすることはほとんどなく、皆、普通の隣人たちだ。そんな人々が今、一週間前と同じように当たり前に働き、学校に通いながらも心の底には大きな恐怖を抱えているのである。
連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)
ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)