日本でも報道されたらしい、ニューヨークのリッチとプアで入り口を分けたマンション。新築のマンションに意図的に高所得者と低所得者を入居させ、ただし入り口は別、館内のジムなども高所得者しか使えないという処置に、非難の声が上がったのだ。
こちらでは低所得者用の入り口が「Poor Door」と呼ばれ、揶揄されている。本来の名称は「Affordable Entrance」(手頃な価格の入り口)と言うらしいからなかなか笑えたが、Poor Doorを使う当人たちにはシャレになっていない。入り口はひとつにするべきである。
その理由の前に背景説明を。このマンションはニューヨーク市と民間開発業者の共同事業。開発業者側には低所得者を入れることで税制上の優遇が、市側には低所得者への住宅供給というメリットがある。ニューヨーク市、特にハーレムやブロンクス、ブルックリンの低所得者地区(=マイノリティ地区)では異なる所得層を同じ賃貸アパートに混ぜて入居させることを何年も前から進めている。もっとも、場所が場所だけに今回のPoor Doorマンションのように高所得者は含まれておらず、超低所得と低所得の2階層、物件によっては中流も含めた3階層を混ぜる。入居応募の時点でそれぞれ年収枠を定め、家賃を変える。そうしないとゲトーとはいえ新築または改装物件なので家賃が上がり、低所得者は住めない。
所得階層を意図的に混ぜるのは、低所得者専用物件には弊害があるからだ。戦後に大量に作られた通称プロジェクトと呼ばれる公団アパートの大失敗をみれば分かる。低所得者だけを集めると、そこは犯罪を筆頭に貧困による弊害が次々と積み重なる場所となり、改善することがほとんど無理となる。なぜなら貧困のライフスタイルがそこでの基準となり、貧困のメンタリティが定着する。子どもたちはそのライフスタイルとメンタリティだけを見て育ち、中流以上の生活を知る機会のないまま、自分はプアだという絶対的な自覚を持って大人になる。その意識を払拭するのはとても難しい。
今回のPoor Doorがダメなのは、そこが理由だ。ちょっと想像してみると分かる。低所得者である自分が、本来なら有り得ないきれいな新築物件に住めるとあって応募し、当たって入居してみると、「あなたは貧乏だから、お金持ちとは別の入り口を使ってください」と言われる。マンションの入り口。毎日毎日一日に少なくとも2度、人によっては一生使う入り口。そこで「貧乏人」とカテゴライズされ、目視できる形で他人からも認識され、自身も再確認させられ続けるのだ。最悪のケースはやはり子どもだ。「どうしてあの入り口から入れないの? あの子は使ってるよ」 この問いに答えられる大人はいないだろう。これが人間の自尊心に影響しないわけはない。開発業者と市行政は1960年代まで南部にあった「白人専用ドア」「黒人専用ドア」が今はもう廃止されていることを忘れたのだろうか。
先日、ミズーリ州のファーガソンで起った暴動も、18歳の黒人少年マイケル・ブラウンが白人警官に射殺されたことで起ったわけだが、背景には長年に亘る白人警官から黒人低所得住人たちへの執拗な嫌がらせと抑圧があった。住人の積み重なったフラストレーションが射殺をきっかけに爆発したのだった。今のニューヨークでPoor Doorが理由で暴動が起るとはもちろん思わない。けれど優位者から下位者への同根のメンタリティがそこに見て取れる。Poor Doorは低所得マイノリティを静かに、しかし執拗に叩き続けるハンマーに成り得るのである。
※アメリカでは物件の高級度に関係なく、賃貸はアパートメント、分譲はコンドと言いますが、この記事では日本流に表記しました
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