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NY:隣り合う小学校の「人種・所得・学力」格差〜今も黒人と白人は同じ学校に通えない実態

パワーと多様性の都市をサバイバル〜ニューヨークを生きる 第70回
隣り合う小学校の「人種・所得・学力」格差
初出:インサイト2017年5月号


ニューヨーク市は全米で最も公立学校の生徒の人種が分断している都市だ。人種別に地区を住み分けるため自ずとそうなるが、人種の分断は所得格差と学力格差に繋がる。マンハッタンのある地区では裕福な白人の集まる学校と貧しい黒人の多い学校を融合させる試みが行われ、1年以上にわたって文字どおり怒号飛び交う論争が繰り広げられた。

■公団と高層マンション

 第191小中学校は「汚水溜めだ!」と、ある親が叫んだ。昨年9月、マンハッタンの校区変更に関する説明会でのことだった。豊かな家庭の白人とアジア系の生徒が多く、成績優秀な第199小学校(以下J校)と、貧しい黒人とヒスパニックが多く、成績の低い第191小中学校(以下A校)の生徒を混在させる案にJ校の保護者が激怒したのだった。

 マンハッタンのセントラルパーク西側はアッパーウエストサイドと呼ばれる裕福な地区だ。オーケストラやオペラなどクラシック文化の総本山であるリンカーンセンターもここにあり、高層マンションが建ち並ぶ。しかし、大通りからは見えない一角に通称プロジェクトと呼ばれる古い低所得者用公団住宅アムステルダム・ハウスがある。

 第二次世界大戦直後、この辺りが貧しい地区だった時期に建てられ、今では築70年。黒ずんだレンガ造りの13棟に2,300人が住み、ほとんどが黒人だ。後に周囲のスラム街が取り壊され、リンカーンセンターの建築が始まった。12,000人が入居する高層マンション群、リンカーン・タワーズも建てられることとなったが、この地区を舞台としたミュージカル『ウエストサイド物語』映画版の撮影終了を待ち、1960年の建設開始となった。その後もどんどんと古い建物が取り壊されては高級マンションとなり、裕福な白人、ついてアジア系が流入。やがてリンカーン・タワーズ脇にあるJ校にはリッチな白人とアジア系の生徒、徒歩10分ほど離れたアムステルダム・ハウス前にあるA校には貧しい黒人とヒスパニックの生徒と、人種と所得がきっぱり分かれた。成績にも大きな差が出、J校は入学希望者が殺到、A校は定員割れとなって久しい。

 そこでとうとう市教育庁が現状緩和のために大胆な案を出した。(1)リンカーン・タワーズとアムステルダム・ハウス、それぞれの敷地内に校区の境界線を引き、生徒を分割、混在させる (2)A校を丸ごと、新築の高級高層マンションにテナントとして引越しさせる これに対し、A校に編入させられるリンカーン・タワーズの住人から猛烈な反発が起きた。説明会は怒号が飛び交い、「他の校区に引越しする」「私学に転校させる」、さらには「法的手段に訴える」という者まで表れた。校舎が変わっても生徒の多数はA校からやってくる。そこに自分の子を通わせたくないのだ。

■100万ドルを集めるPTA

 J校の親たちがA校をここまで嫌うには複数の理由がある。まず、ニューヨークでは豊かな層は良い校区を求めて転居する。そのため優秀な学校がある校区は不動産価値が上がる。子供を優れた学校に通わせるために150万ドル(1.6億円)のマンションを購入した親は当然、憤る。学校のレベルが下がれば物件の価値も下がるため売却も不利になり、これにも強い憤りを感じている。

 何より子供の教育を第一義に人生設計を行ってきた家庭が、突然レベルの低い学校への編入を言い渡されたことへの反発がある。裕福なアメリカ人は自分の人生を自分でコントロールすることを善しとするため、行政からの一方的な通告を極度に嫌う。

 行政の関与を嫌う層はDIY(自分で行う)は厭わない。こうした家庭の親はPTA活動を非常に熱心に行う。寄付や資金集めによって、この地区にはPTAが年間100万ドル(1.1億円)を集める学校があり、J校も80万ドル(8,800万円)を得ている。この巨額の資金はコンピュータなど学校の備品購入、課外活動費用、さらにはシェフや体操コーチなど教職員雇用にさえ充てられる。「公立校でありながら私学」と呼ばれる所以だ。PTAがここまで出来るのは豊かな生徒の保護者から多額の寄付を集められることに加え、PTAメンバー自身も富裕層であるため、資金集めのコネクションや管理運営のスキルを持っていることを意味する。

 また、同じ地区にある他の学校のPTAは生徒の保護者に一律1,300ドル(14万円)の寄付を依頼する。全500家庭が拠出すると65万ドル(7,100万円)だ。この地区の私学の学費は年間5万ドルをやや下回る程度(500万円前後)だが、無料の公立校に通いながら14万円の寄付で非常に充実した教育が受けられることになる。他方、低所得者が多いA校のPTAが昨年集めることができたのは数千ドルに過ぎず、A校の80万ドルとは雲泥の差。J校から編入することになる生徒の親は、校舎こそ新築高層マンションであっても備品や教職員の数や質がJ校とは比較にならないと予測している。

 公の場では決して話し合われない「人種問題」も絡んでいる。校区変更反対の理由としてJ校の親は「成績格差」「資産価値の減少」「コミュニティの消滅」を挙げ、「黒人やヒスパニックと一緒になりたくない」と口にする者はいない。現在のアメリカ、特にニューヨークのようなリベラルな都市部では絶対的なダブーだからだ。

■富める者がさらに富む「構造的差別」

 アメリカではかつて黒人と白人は同じ学校に通えず、1954年にようやく人種によって学校を分けることが違憲とされた。しかし、その後も黒人が白人の学校に通おうとすると強硬な反対運動が起き、州兵隊が出動して黒人の生徒を守らなければならないことすらあった。当時「黒人はこの学校に来るな」と叫んでいた白人たちは、黒人との共学は自分の子にとって不利益であり、人は不利益から自分を守る権利を有すると固く信じていたのだ。

 今、裕福で優秀な自分の子と貧しく低成績の黒人やヒスパニックの生徒が混じることに反対する親は、自分の子の利益を守ろうとしている。親が子の教育に心血と資金を注ぐのは当然であり、だからこそJ校の親はPTAで80万ドルを集め、公立とは到底思えない豊かな教育環境を自分の子に与えている。同時にA校の親が校区変更について「声を上げない」ことを批判もする。裕福な層が当たり前に持つ動機やスキルを貧困層が持てないことに気付かないのだ。こうした無意識化の制度化された差別を「構造的差別」と呼ぶ。資本主義と個人主義の国アメリカ、しかもその最たる都市ニューヨークでは構造的差別は大きな所得格差を招き、貧困は低成績に直結する。

 市教育庁は校区変更だけでなく、公立校のPTA資金について何らかのルールを設け、各校の「収入格差」を縮める必要がある。トランプ政権が公教育の民営化をほのめかす今こそ、改めて「公」教育の意味を問い直すべきなのである。

 

 



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author:堂本かおる, category:ニューヨーク, 07:24
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