RSS | ATOM | SEARCH
南軍リー将軍の銅像はなぜ撤去されねばならないか〜ヴァージニア州の騒乱と悲劇のルーツ奴隷制

南軍リー将軍の銅像はなぜ撤去されねばならないか〜ヴァージニア州の騒乱と悲劇のルーツ 奴隷制

 先週末にヴァージニア州シャーロッツヴィルで起こった事件(前回の記事へのリンク)の発端は、南北戦争時の南軍の将軍、ロバート・E・リーの銅像だ。市議会で決まった公園からの銅像撤去に反対する白人至上主義者が州外から大挙してシャーロッツヴィルに押しかけ、それに対する抗議グループ(カウンター)との間に非常に暴力的な衝突が繰り返され、死者、重軽傷者が出た。

 この事態を受け、全米各地にあるリー将軍を含む南軍由来の銅像や記念碑などが次々と撤去、または撤去の検討がなされている。理由は奴隷制を旗頭に挙げた南軍を英雄視することへの異議と、シャーロッツヴィルと同様の事態が起こることを避けるためと思われる。


奴隷市場でセリにかけられる奴隷一家(ヴァージニア州)
家族バラバラに売られることもあった



 今となっては到底受け入れることのできない奴隷制だが、アメリカの史実である。史実を象徴する銅像を撤去することへの疑問の声が漏れ聞こえてくる。

 南軍由来の銅像や南軍旗を撤廃しなければならない理由は、奴隷制が実はまだ終わっていないからだ。

 もちろん奴隷制自体は約150年前に終わっている。(逆に言えば、たかだか150年前までこの国に奴隷が存在していたことに驚かされるわけだが。)しかし、人間性を根底から覆す奴隷制が何世代にもわたって続くと、廃止されても当事者の人間性と社会的な地位を回復することは困難になる。しかも外観から容易に識別できる黒人種に限定されていることが重なり、アメリカの黒人は今も奴隷制の影の中に生きることを強いられている。


1619:ジェームズタウン(ヴァージニア州)に20人のアフリカ人が搬送される

  (↑244年間↓)

1863:奴隷解放宣言 1865:リンカーン暗殺 KKK結成

  (↑101年間↓)

1964:公民権法制定

  (↑53年間↓)

2017:ヴァージニア州シャーロッツヴィルの騒乱



 黒人奴隷制はカリブ海諸島でかなり早い時期に始まっているが、ここでは現在のアメリカ合衆国に限定して話を進める。

 240年間にわたる奴隷制が終わった途端にKKKが結成されているのである。目的は自由人となった黒人を抑圧、加虐し、白人の優位性を保つことだ。以後、黒人たちへの厳しい差別、リンチ、殺害が続き、黒人は差別から派生する貧困にもあえぎ続ける。そのため多くの黒人が南部を出て都市部に大移動。1950年代以降、黒人たちは人種による学校の住み分け、異人種間の婚姻禁止なども含め、黒人へのいわれなき差別を撤廃するための公民権運動を展開する。繰り返されるデモ、収監、嫌がらせ、暗殺などを乗り越え、1964年に公民権法が成立する。奴隷解放宣言から実に100年後のことである。しかし、その後も差別と貧困は解消せず、全米各地で黒人暴動が起こっている。



鞭打たれた奴隷


 以下は奴隷解放宣言から154年、公民権法制定から53年を経た現在の黒人と白人の格差。


大卒率(2年制含む)
白人ー62.0%(2010年に入学した163万人のうち)
黒人ー38.0%(2010年に入学した34万人のうち)



刑務所収監率(人口10万人あたり) 2010
白人ー385人
黒人ー2,304人



世帯年収中央値 2015(貧困率は2010-1011)
白人ー60,325ドル(貧困率10%)
黒人ー35,439ドル(貧困率26%)



 貧しさゆえに良い教育が受けられず、すると進学が難しくなる。学歴がないと良い職に就けず、貧困のままとなり、犯罪率も上がる。そうした若者や大人から生まれた子供たちも貧困の中で育ち……黒人は何世代にもわたって、この負のサイクルにはめ込まれてしまっている。

 鍵となるのは教育だが、教育は文化と直結する。貧困地区に生まれ、教育や勉強の文化も習慣もなく育った子供に、のちになって奨学金を与えても手遅れなことが多い。「家庭の貧富の差により、3歳までに耳にする単語の総数に3000万語の違い」が発表され、教育界に衝撃を与えたが、4歳でPre-K(幼稚園)に入園した時点ですでに存在するこの違いを克服することがいかに困難か。白人と黒人の小中学生の読み書き能力には4学年分の差があるとも言われている。

 また、人種別に居住区が分かれるため、黒人地区に生まれ育った子供が通う学校の生徒はほぼ黒人のみである。白人の大人も黒人居住区を訪れる必然性がないため、黒人社会の実情を知る機会はほとんどない。

 現在、黒人の全米人口比率は13%(4,300万人)。国家的にみて決して少なくない人口の年収が白人の6割に満たず、4人にひとりが貧困。貧困率は子供に限定するとさらに高くなる。この事態は当事者の黒人だけでなく、白人もふくめて国全体にマイナスの影響を及ぼしている。しかし人種間の断絶から、その実態はなかなか理解されずにいる。

 断絶、無理解は警官や政治家、司法制度にも及ぶ。だからこそ今も黒人が警官に射殺され続けている。警官は無罪となり続けている。そしてまた、警官による新たな黒人射殺事件が起こる。

 それを見て高揚しているのが白人至上主義者だ。今回のヴァージニア州の事件を時系列でまとめた以下の映像を見ると、白人至上主義者は「必要とあれば俺たちはファッキン・ピープル(黒人、ユダヤ系、移民など)を殺す」「俺たちがコトを成し遂げるまでに、さらに人が死ぬだろう」と語っている。


Charlottesville: Race and Terror – VICE News Tonight on HBO




 こうした現状の根にあるのが奴隷制だ。奴隷制が大国アメリカの経済基盤を作ったことは事実だが、修復しようのない大きな禍根を残した。アメリカは今も過去の奴隷制ゆえに揺らぎ続け、市民がお互いを傷付けあっている。だからこそ南軍由来の銅像は公共の場から撤去されるべきなのだ。人々が平和に集う公園に置かれるべきではない。博物館と教科書の中にのみ存在すべきものなのである。

 

 

 

 



ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

author:堂本かおる, category:ブラックカルチャー, 09:43
comments(0), trackbacks(0)
Comment









Trackback
url: http://nybct.jugem.jp/trackback/1233