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書評『禁断の英語塾 WORD is YOURS』押野素子(著)
書評『禁断の英語塾 WORD is YOURS』押野素子(著) 丸屋九兵衛(編集)

 先日、押野素子氏がツイッターで「Nワード」に触れていた。ネットフリックス『The Get Down』の1シーンの画像が使われていた。白人エリート青年たちが図に乗って黒人をNワードで呼び、トイレでボコボコにされるシーンだ。

(『The Get Down』は1970年代のブロンクスを舞台にヒップホップ誕生の瞬間を再現した、非常に貴重かつおもしろいドラマ。ヒップホップやブラックミュージックに関心ある人はぜひ。)

 素子さんはブラックミュージック関連の翻訳が本業であり、スラングの達人だが、だからこそ日本人に対してNワードの使用を戒めている。そういえば素子さんの本『禁断の英語塾 WORD is YOURS』でもNワードについて書いていたなと思い出し、久々にパラパラとめくってみた。

 うん、面白いのだな、この本。



 本書は黒人音楽雑誌『bmr』(ブラックミュージックレビュー)に2006年から2011年にかけて素子さんが連載した「WORD is YOURS」68回分を一冊にまとめたものだ。連載時のキャッチコピーは「歌やラップで耳にする気になるフレーズを徹底解剖」。ブラックミュージック・ファンが歌詞を聞いても、読んでも、なんとも理解し難いフレーズや単語、スラングを文化的背景まで含めて解説する内容だ。

 例えば、こんな項目がある。それぞれの項目におもしろく&納得の解説がみっちり書き込まれている。

16) R Kelly's Word Greatest - Chapter 1
この男なしに、この講義は成立しない。
アメリカ音楽界が誇る性の巨人の軌跡!

02)Laffy Taffy
日本人よ、現実を直視せよ(いろんな意味で)。
「胸より尻」が、この世界の常識だ!

03)Fiend
フレンドじゃないよ、フィーンドだよ。
映画字幕でも混同される要注意単語について

↑ブラックミュージックに「セックス」「ドラッグ」は欠かせない。音楽ファンにはこうした項目は有り難い

05)Going Down
ダウンなのに盛り上がるのがパーティの掟。
思わぬベッドルーム用法にも開眼せよ!

09)Give It Up, Part 2
「一線を超える」だけでなく。
非ベッドルーム用語も伝授しよう

↑単語自体は基本中の基本。でもフレーズになると意味がさっぱり分からない。日本人には、これが結構ツラいのだ

19) Got Your Back
黒い同士愛、ここに開花!
背後をかばいあうのが仲間ってもんよ

↑おぉ、私が好きなフレーズもある! これを聞いたり、言われたりすると、じわっとくる

27) Run One's Mouth
「トークはチープ」が世界の真理。
おしゃべり野郎には鉄拳制裁だっ!

↑これってスラングだったのか! ひたすら喋り続ける息子を「Stop running your mouth!」と叱っていたよ……。非ネイティヴ英語話者の弱点。標準語とスラングの違いを知らずに耳で覚えたものを使ってしまう

18) How to deal with slang
若者たちよ、押野先生の経験から学べ。
黒人英語、そしてスラングとの接しかたを

68) The N-Word
最終回に収まり切らない超難題!
数百年のアメリカ黒人史が生んだ、あの言葉。

↑素子先生、実は真面目なのだ

 こうした言葉を日本人が用法ばかりか微妙なニュアンスまで理解し、日本語で解説するのがどれほど骨の折れる仕事か、素子さんと同様にアメリカに暮らす私にはよく分かる。いや、素子さんは日本で英検1級、TOEFLとTOEICほぼ満点を取った上でワシントンD.C.の名門黒人大学、ハワード大学に留学し、そのままD.C.に暮しながら翻訳業を続けている英語の専門家だ。加えてブラックミュージックへの愛情はそれこそ海よりも深い。『WORD is YOURS』はこうした背景を持つ素子さんだからこそ書き得た連載なのだ。かつ、素子さんは英語やスラングに関して強い信念を持っている。

 Nワードを含むスラングを日本人がどう使うか、あるいは使うべきでないかに関し、私は素子さんと近い考えを持っているが、異なる部分もある。各人考えが違うことは素子さんも本書の中で述べている。それは読者も同じだ。この本を読む人は素子さんならではの可笑しいエロ話に大笑いしながら知らずしらずのうちに黒人文化の背景も学んでしまえる。そこには黒人社会に於けるスラングの存在の意味・意義も含まれる。そこからブラックミュージック・ファンとして、非英語話者として、個々の人がそれぞれにスラングについての考えを巡らせてみてほしい。

※最後に出版社へのクレーム:68のフレーズの索引が無いのは何故だ!



以下は押野素子さんが翻訳を手掛けた本










連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第15回「オバマ大統領が書いた絵本『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 」+(バックナンバー)






ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

author:堂本かおる, category:ブラックカルチャー, 13:08
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