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書評:黒人ハイスクールの歴史社会学 アフリカ系アメリカ人の闘い 1940-1980
書評『黒人ハイスクールの歴史社会学 アフリカ系アメリカ人の闘い 1940-1980』

初出:週刊読書人2017年1月13日号

 本書はまず、21ページもある「訳者あとがき」から読むといいかもしれない。本文はタイトルが語るように、アメリカに於ける黒人ハイスクールの1940年代から1980年代にかけての歴史と社会事象との関係であり、理解には多少のアメリカ史が必要となる。

 言うまでもなく、アメリカの黒人は400年前に奴隷としてアフリカから強制連行された人々であり、奴隷解放から150年経つ今も人種差別の対象のままだ。差別には直接的なもの以外に“社会構造的分離”も含まれ、これがハイスクール事情と密接にかかわっている。したがって黒人史や当時のアメリカの事象にあまり詳しくない読者はあとがきを先に読むことにより、本書の内容の背景が掴めるはずだ。

 ただし、3人の訳者のうち本書の邦訳版出版を企画したメインの訳者、石倉一郎氏によるあとがきは単なる背景解説ではない。本文はカンザス大学の教育学部および歴史学部のジョン・L・ルーリー教授と、社会学部のシェリー・A・ヒル教授の共著による、当時者へのインタビューやデータからなる緻密な研究書だ。訳者は教授たちの黒人教育問題への真摯な取り組みと驚くべき当時の事情をひたすら忠実に訳している。

 しかし京都大学大学院の人間・環境学研究家准教授である石倉氏もまた、日本で長年、部落や在日といったマイノリティへの教育問題にひとかたならぬ情熱を傾けてきた人物である。訳文では抑えていた自身の知識と熱意があとがきに満ち満ちている。このあとがきを読むことによって、マイノリティ教育の専門家である石倉氏が本書をどれほど高く評価しているかが分かる。

 1940年代当初、多くの黒人は南部諸州の田舎に暮しており、ハイスクールへのアクセスが無かった。やがて白人の学校とは比べ物にならないほどつつましいながらも黒人用のハイスクールが徐々に作られ、通学する生徒も増えた。後に多くの黒人が都市部に移り、貧しいマイノリティ・コミュニティを形成。都市部でも白人と黒人の学校はきっぱりと分かれていたが、黒人のハイスクール進学率は格段に上がった。学歴を得たことによって収入が上がり、その後も白人と黒人の格差は相変わらず存在するものの、学校の人種統合も進み、1980年代までに格差は驚くほどに縮小した。



 本書はこの50年間に亘る一連の流れを生徒の性別、親の職業や学歴、持ち家の有無、母子家庭か否かなど数多くのデータと、黒人が白人の学校に通おうとすると激烈な反対運動が起り、連邦部隊が出動しなければならなかった事例、黒人が平等の権利を求めて繰り広げた公民権運動など、数値からは知る由もない当時の人種事情を付き合わせ、最終的にはハイスクール教育の浸透が黒人の生活向上にいかに貢献したかを解明していく。

 ニューヨークの黒人地区ハーレムに暮し、7年生(中学2年生に相当)の息子を持つ筆者には非常にリアリティのある内容だった。現在の黒人の生活環境は本書の終末1980年代に比べてもさらに向上しているが、白人と黒人の生徒の学力、親の経済力にはまだ大きな格差がある。

 ニューヨーク市では改善しない学校を閉校し、小規模校を開校して生徒を分散させるなど大胆な策も採られたが、それでも縮まらない学力格差を縮めるために、今はチャータースクールという壮大な実験のまっただ中だ。公立として授業料は無料、入試もないが、カリキュラムを民間に任せる半官半民の学校だ。従来の公立校より長い授業時間と厳しい規律で生徒を大学まで進学させることを目的としている。また、ある地域では隣接する公立校の一校は黒人とヒスパニックの生徒のみ、他校はほぼ白人となっており、成績格差が凄まじい。そこで二校の生徒を混ぜる策が発表されたが、今、白人の学校の保護者が強硬な反対運動を繰り広げている最中である。

 人種が原因のこうした事象はアメリカ特有に見えるかもしれないが、人種を「所得」に置き換えると日本でもすでに起きていることだ。したがって数十年前の黒人ハイスクールの成功を綿密に研究した本書は、今の日本の教育者の必読書と言えるのである。




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author:堂本かおる, category:ブラックカルチャー, 10:16
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