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『ワイルド・スピード』〜世界最大のエスニック映画

世界最大のエスニック映画『ワイルド・スピード』

 アメリカではいよいよい4月14日に待望のワイルド・スピード・シリーズ第8弾『The Fate of the Furious』が公開される。(邦題『ワイルド・スピード ICE BREAK』4/28公開)



 今回はニューヨークが舞台とあってハーレム民はこれまで以上に待ち切れない様子だ。とはいえ運転免許すら持たない私がこの作品を語るのは、あまりにおこがましい。(ちなみに "非運転免許証" というシロモノは持っているが、アメリカ特有の事情ゆえ、ここでは説明を省く)

 しかしながら『ワイルド・スピード』シリーズは、今や世界最大の “エスニック映画” なのだ。主役の9割がマイノリティでありながらシリーズが延々8作も作られ、興行収入も飛び抜けている。挙げ句にユニバーサル・スタジオにアトラクションまで作られてしまった。カーアクション映画だけに俳優のマイノリティ性が語られることは少ないが、以下に驚きのリスト挙げてみる。

1) ワイルド・スピード (2000年)
2) ワイルド・スピードX2 (2003年)
3) ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT (2006年)
4) ワイルド・スピード MAX (2009年)
5) ワイルド・スピード MEGA MAX (2011年)
6) ワイルド・スピード EURO MISSION (2013年)
7) ワイルド・スピード SKY MISSION (2015年)
8) ワイルド・スピード ICE BREAK (2017年)

1-6 の公式トレイラーを繋いだビデオ



7) ワイルド・スピード SKY MISSION (2015年)公式トレイラー



8) ワイルド・スピード ICE BREAK (2017年)公式トレイラー





●俳優名(役名)【出演作番号】
俳優のエスニック・バックグラウンド

●ポール・ウォーカー(ブライアン・オコナー)【1,2,4,5,6,7】
 アメリカ人(白人)R.I.P.

●ジョルダナ・ブリュスター(ミア・トレット)【1,4,5,6,7】
 パナマ生まれ。母=ブラジル人 父=アメリカ白人
 生後すぐにロンドンに移り、6歳でブラジル、10歳で米国に移住


●ヴィン・ディーゼル(ドミニク・トレット)【1,3,4,5,6,7,8】
 アメリカ人。母=白人、義父=黒人。
 実父については語らず、「オレは多義・曖昧なエスニックだ」と発言

●ミシェル・ロドリゲス(レティ・オルティス)【1,4,6,7,8】
 アメリカ人。ヒスパニック。母=ドミニカ系 父=プエルトリコ系
 米国生まれ。8〜17歳をドミニカ共和国とプエルトリコで過ごし、米国に戻る


●ドウェイン・ジョンソン(ルーク・ホブス)【5,6,7,8】
 アメリカ人。母=サモア系 父=アフリカ系アメリカ人

●エルサ・パタキー(エレナ・ネヴェス)【5,6,7,8】
 スペイン人


●サン・カン(ハン・ルー)【3,4,5,6】
 韓国系アメリカ人

●ガル・ガドット(ジゼル・ヤシャー)【4,5,6】
 イスラエル人


●タイリース・ギブソン(ローマン・ピアース)【2,5,6,7,8】
 アフリカ系アメリカ人

●クリス・リュダクリス・ブリッジス(テズ・パーカー)【2,5,6,7,8】
 アフリカ系アメリカ人


●ナタリー・エマニュエル(ラムジー)【7,8】
 イギリス人。母=ドミニカ系 父=セントルシア(カリブ海)と英国(おそらく白人)のミックス


 以上が「ファミリー」ことコア・メンバー。

 ラッパーやラテン・シンガーがゲスト参加することも多く、過去にジャ・ルール、バウワウ、リタ・オラ、イギー・アゼリア、ロメオ・サントスなどが顔を出している。最新作には【4,5】に出ていたプエルトリコのミュージシャン・コンビ、ドン・オマー(リコ・サントス)とテゴ・カルデロン(レオ・テゴ)も再登場らしい。


■黒人女性キャラクターの不在という問題

 これほどの大ヒット・シリーズになるとは誰も思わなかったであろう第1作目。主役は当然のように白人のポール・ウォーカー。第3作『トーキョー・ドリフト』のみ主役交代するも、やはり白人のルーカス・ブラック。脇をマイノリティ俳優のみが固めてもそこは譲れなかったわけで。

 しかし、ヴィン・ディーゼルの存在感が凄まじく、いつしかディーゼル演じるドミニクが主人公になってしまう。それを補うためか第4作から白人女性のガル・ガドット(ジゼル・ヤシャー)、第5作からエルサ・パタキー(エレナ・ネヴェス)が加わるが、それぞれスペイン人、イスラエル人である。

 そして第6作、ついに強敵としてイギリスのバッドガイ、ジェイソン・ステイサム(白人)が登場し、第7作にも出演。しかしながら、なんとポール・ウォーカーが事故死してしまう。ファンにとっては涙無くして語れない出来事だが、ここではこのまま人種キャスティングの話を進める。

 ポール・ウォーカー不在となった最新作に白人主人公は追加されなかった。ヴィン・ディーゼルと、第5作から出ているドウェイン・ジョンソン(ザ・ロック)で突っ走っている。この2人はそれぞれ黒人と白人、黒人と南太平洋系のミックスであり、どの人種の観客にも人種的違和感、距離感を持たれない稀な存在なのである。

 それでもポール・ウォーカーのいない最新作では人種的バランスを取る必要があったと見え、最強最悪の敵を白人のシャーリーズ・セロンが演じている。もちろん金髪だ。前作から “ファミリー”に加わったナタリー・エマニュエル(ラムジー)のアフロヘアとのコントラストに気付く。ちなみにシャーリーズ・セロンは白人だが南アフリカ共和国出身、前作で悪役を演じたジャイモン・フンスーはアフリカのダホメ共和国(現ベナン)出身であった。

 残念なのは第6作を最後にサン・カン(ハン・ルー)が居なくなってしまい、アジア系が消えてしまったこと。なにより全8作を通してアフリカン・アメリカン女性の主要キャストがいないのはいかがなものか。

 黒人女性キャラクターの不在は以前より深刻な問題だ。黒人男優が主役でありながら黒人以外もターゲットとする映画では黒人色を強め過ぎないために、相手役の女優を非黒人とするケースがある。今、イギリスもこの問題で炎上中だ。イドリス・エルバが出演し、エグゼクティブ・プロデュースも務める英国の公民権運動を描いたTVミニシリーズ『Guerrilla』で、黒人男性の主人公の恋人で共に闘うヒロインがインド系なのだ。




■ハリウッドは現実の反映に

 『ワイルド・スピード』の生みの親は、第1作目を監督したロブ・コーエン(ユダヤ系アメリカ人)だ。しかし第2作の監督は『ボーイズン・ザ・フッド』『ハッスル&フロウ』のジョン・シングルトン(アフリカ系アメリカ人)に。第3作『トーキョー・ドリフト』から第6作までは『Better Luck Tomorrow』『スタートレックBEYOND』のジャスティン・リン(台湾生まれのアメリカ人)、第7作は『ソウSaw』シリーズの製作総指揮者ジェームズ・ワン(マレーシア生まれのオーストラリア人)、そして最新作は『フライデー』『ストレイト・アウタ・コンプトン』のF・ゲイリー・グレイ(アフリカ系アメリカ人)だ。

 どの監督も幅広く活躍し、自身が属するエスニックの映画に拘りはあっても固執はしていない。それでもマイノリティ監督の作品はキャスティングから細かい部分に至るまで、マイノリティでなければ出せないフレーバーが必ず滲み出る。

 アメリカでは黒人、アジア系、ラティーノなどそれぞれのエスニック性を深く追求した作品が必要不可欠であると同時に、観客の人種を問わないハリウッド大作にもマイノリティのさらなる進出が必要だ。日常生活で大量に目にするマイノリティがスクリーン上でもあらゆる職種に「普通」に存在する姿こそがナチュラルかつ現実の反映だからだ。マイノリティには犯罪者もいるが、警察官もいる。教師もいる。エンジニアもいる。ホームレスもいる。画家もいる。会計士もいる。デザイナーもいる。主婦もいる。人事課勤務もいる。商店主もいる。子供もいる。中高生もいる。年金暮しもいる。そして、大統領すら、いたのであるから。

 『ワイルド・スピード』第1作からすでに17年。当時20代だった主要キャストはすでに30代後半から40代だ。ポール・ウォーカーのためにも、全米はもとより世界中のマイノリティのためにも、全員元気でこのまま還暦を迎えるまで、ぜひとも車をナナメにぶっ飛ばし続けていただきたい。-end-



連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第15回「オバマ大統領が書いた絵本『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 」+(バックナンバー)






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author:堂本かおる, category:映画, 00:23
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