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『ルポ トランプ王国〜もう一つのアメリカを行く』金成隆一(著)を読む。
『ルポ トランプ王国〜もう一つのアメリカを行く』金成隆一(著)を読む。

 この本は「アメリカ人こそ読むべき」だ。昨年11月8日の大統領本選でトランプが勝利を収めた瞬間から全米はもちろん、世界中が「なぜ???」を連発した。アメリカの大手メディアが戦況をまったく読めていなかったことにメディア自身がショックを受け、改めて様々な分析が行われた。その結果、「貧しい白人」がトランプを勝利に導いたという結論が出され、そこに落ち着いた。

 本書は朝日新聞ニューヨーク支社勤務の記者、金成隆一氏が大統領選の1年間、2015年の12月から本選日まで、その「貧しい白人」が集中するラストベルト(中西部のさびれた工業地帯)とアパラチア地区(全米きっての貧困地区と言われる)に通い詰め、なんと150人を優に超える人々をインタビューしたリポートだ。朝日新聞のサイトで連載されて評判となり、大幅加筆の上、新書化された。



■150人へのインタビュー

 アメリカのメディアが完全に見落としていた巨大なうねりを、ひとりの日本人記者が黙々と追い続けていたのである。

 本書には、すでに閉鎖された製鉄所や炭坑に勤めていた男性たち、潰れてしまったホットドッグ・レストランに勤めていたり、今はバーで働いている女性たちが登場する。彼らが生活の窮状や将来への大きな不安を語る。

 皆、真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャンたちだ。

 金成氏はニューヨークから6時間も7時間も車を運転してオハイオ州やペンシルバニア州に通い、可能な限り多くの人の話を聞いた。ニューヨークやロサンゼルスのような都会ではなく寂れた田舎町に暮らすこうした人々は、自分たちの声など誰も聞いてくれないと思っている。だからこそ、どこからともなくひょっこり表れた日本人ジャーナリストに自分の人生、心情、行き詰まった現状を打破してくれると信じているトランプへの熱い思いの丈をいくらでも話し続けた。自分の言葉が日本の新聞に載ることによって暮しが良くなったり、トランプが有利になるとはさすがに思っていなかっただろう。それでも話さずにはいられなかったのだ。とは言え、これは誰にでもできることではなく、金成氏のインタビュアーとしての天性の資質と鍛錬の賜物でもある。本書を読めば分かるが、インタビュー相手に「話したい」と思わせるインタビュアーなのである。

 そうやって聞き集めた中から、似たような話がいくつも出て来る。そこがキーだ。同じエリアで、多くの人が、驚くほど似た「良い時代」と「凋落の時代」を経験している。それぞれの話は個々人の個別の人生なのだが、背後にはアメリカの大きな歴史の流れが潜んでいる。彼らは歴史に翻弄された人々なのだ。同じ時代に同じ背景の中で生きてきた人々が同じ理由で同じ苦労・不安・絶望を背負わされた。だからこそ彼らが見い出した解決策も同じだった。それがトランプだった。

 この本は私たち日本人が読んでもおおいに役立つ。近い将来の備えになるだろう。しかし、今トランプに翻弄されているアメリカ人こそが読むべき内容だ。英訳してアメリカでこそ出版すべき書籍なのである。





■トランプ支持者と"人種"

 ここから先、『ルポ トランプ王国』の内容そのものからは逸脱する。

 オバマ大統領の初戦、2008年に対立候補ジョン・マケインの選挙キャンペーンを追った『Right America: Feeling Wronged』というドキュメンタリー映画がある。タイトルは「正しい(はずの)アメリカだが、不当な扱いを受けていると感じる」といった意味だ。ドキュメンタリー映像作家のアレクサンドラ・ペロシ(民主党下院院内総務ナンシー・ペロシの娘)がマケイン本人ではなくマケイン支持者、つまりアンチ・オバマの有権者たちにインタビューを行っている。

 カメラは『ルポ トランプ王国』と同じく、白人しか住まない小さな町に分け入って行く。カメラの前で悪びれもせず「黒人には投票しない」と言い切る者がいる。さらには「Nワード」さえも飛び出す。当時、米国初の黒人大統領が誕生しそうな気配に心底怯え、怒り、動顛していた人々だ。彼らがオバマ大統領当選後の8年間に抱えた憤怒は、多くの日本人には到底理解できないレベルのものだった。

 このドキュメンタリーに登場した人々の多くが、今回の選挙ではトランプに票を投じたはずだ。

■1950年代の白人と黒人

 『ルポ トランプ王国』を読んでいて、あることに思い当たった。ナフタ(北米自由貿易協定)によって仕事を無くしたと言う、製造業に携わっていた高齢者たち。彼らは1950年代のアメリカ華やかなりし頃を懐かしむ。今、彼らは「エスタブリッシュメント(既得権層、富裕層)が自分たちを搾取している」と考える。

 彼らが経済的に頂点を極め、豊かなアメリカ中流ライフを満喫していた1950年代に、彼らは黒人の生活状況を考えたことがあるだろうか。黒人の権利獲得のための公民権運動は1950年代半ばから盛り上がり、1964年にようやく公民権法が制定されたが、その後にキング牧師もマルコムXも暗殺されている。

 今年のアカデミー賞で話題となった実話に基づく映画『ラビング 愛という名前のふたり』(原題:Loving)も1950〜60年代が舞台だ。当時、南部では黒人と白人の婚姻は違法であり、夫妻は逮捕、勾留さえされた。2人の間に生まれた赤ん坊は、生まれてはならない子だった。やはり黒人と白人の両親を持つバラク・オバマは1961年生まれであり、ラビング夫妻の子どもたちと同世代である。幸いなことに、バラク・オバマが生まれたハワイ州では異人種間結婚は違法ではなかったのである。

 当時、白人しか住まない小さな町の住人であれば、黒人と接する機会は無かっただろう。公民権運動が盛り上がってメディアが取り上げ始めると、最初は何やら不穏なことが起こっていると不安に感じ、やがて憤りを感じた者もいたことだろう。中には、自分の子どもが通う学校に黒人を入学させないために怒号を飛ばした者もいるだろう。

 しかし、彼らは皆 "真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャン" だった。

 その彼らが今、経済的に凋落し、将来を憂えてトランプに投票した。トランプも "自称" 真面目に働き、家族を大切にし、愛国心の強い、白人のクリスチャンなのである。実のところ、トランプはニューヨークという大都市に生まれ、親の代から極めて豊かであり、労働者階級の生活など知る由もない「エスタブリッシュメント」なのだが。

 つまるところ、経済の凋落が「貧しい白人」を引き付けたと言われる今回の選挙も、その根底にはアメリカの根深い人種問題が横たわっているのである。



連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第14回「オバマ大統領は私にも『同胞なるアメリカ人』と呼びかけた」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:ブラックカルチャー, 11:53
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