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マイ・ブラザーズ・キーパー 〜 黒人少年の未来のために:ヒューマン・バラク・オバマ第9回
マイ・ブラザーズ・キーパー 〜 黒人少年の未来のために:ヒューマン・バラク・オバマ第9回
 

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


今から2年前、オバマ大統領は「マイ・ブラザーズ・キーパー」と名付けたプロジェクトを立ち上げた。"my brother's keeper" とは聖書の創世記にあるカインとアベル兄弟の物語からの言葉で、今では「同胞や同志を見守る者」の意味で使われている。その名のとおり、このプロジェクトの目的は教育や就職で不利な立場にある黒人とラティーノの男子青少年を成功に導くべく支援することだ。


オバマ大統領がこのプロジェクトを立ち上げるきっかけとなったのは、前号「第2回:バラク・オバマは『黒人』なのか〜人種ミックスの孤独」でも少し触れたトレイヴォン・マーティン射殺事件だった。


2012年2月、フロリダ州。当時17 歳の黒人少年トレイヴォンはジュースとキャンディを買いにコンビニに出掛け、帰りは雨が降っていためフーディ(パーカーのフード)を頭に被っていた。それを見掛けた自称自警団の男が「怪しい」とトレイヴォンの後を付け、揉み合いとなった挙げ句にトレイヴォンを射殺してしまった事件だ。


この事件は黒人社会に大きなショックを与えた。「コンビニ帰りの黒人高校生がフーディを被っていたために殺された」 - 全米の全ての黒人の若者にとって「明日は我が身」であり、親は「自分の息子にも起こり得る」と震撼した。


それはオバマ大統領も同じだった。事件後、オバマ大統領は「もし私に息子がいれば、トレイヴォンのようだっただろう」「この少年のことを考える時、私は自分の子どもたちのことを考えてしまう」と語った。オバマ大統領の長女マリアはトレイヴォンとわずか3歳違いだ。


この事件の裁判は翌2013年7月に行われ、証人喚問がテレビ中継されるなど全米が固唾をのんで見つめる中、犯人はまさかの無罪となった。黒人社会は再び大きく動揺し、人々は怒りを露にした。


無罪判決の翌週、オバマ大統領は再度のスピーチを行った。過去に「黒人として」の発言をほとんどせず、事件直後のスピーチでもトレイヴォン、自分自身と娘たちが黒人であることを敢えて「黒人」という言葉を使わずに表した大統領が、この時は黒人男性としての心情を露にした。過去に自身が受けた人種差別の例をい くつも挙げ、「トレイヴォン・マーティンは35年前の私だったかもしれない」と言い、「アフリカン・アメリカン・コミュニティ」「アフリカン・アメリカン・マン」「アフリカン・アメリカン・ボーイ」という言葉を繰り返した。「同じことが白人の少年に起こっていれば結果は全く違っていただろう」「貧しい黒人地区では暴力が蔓延し、貧困と機能不全は過去の困難な歴史(奴隷制)に繋がっている」とまで言い切った。


そのスピーチでオバマ大統領は多くの黒人少年がネガティブな環境にあり、彼らには支援が必要なこと、そのための方策をファーストレディのミシェルと盛んに話し合っていることも語っている。この時は誰も知る由もなかったが、この「支援」が翌2014年に発足した「マイ・ブラザーズ・キーパー」だったのである。


■大統領自らNPOを設立

「マイ・ブラザーズ・キーパー」が掲げる6つの指標
1)幼児への就学準備
2)小学3年生での学年に見合った読書力
3)高校卒業
4)大学または職業訓練
5)就職
6)暴力の抑止と犯罪歴を持つ若者の社会復帰

まさに「ゆりかごから墓場まで」の短縮バージョンとも言うべき、「4歳から20代まで」を対象としたプロジェクトだ。

1)早期幼児教育

アメリカでは小学校に1年だけのキンダーガーテン(5歳児対象の幼稚園)が付属していることが多く、義務教育ではないものの実質的には小学校の最年少学年の扱い。したがって4歳児対象のPre-K(プリ・キンダーガーテン)に通うかどうかで学校で勉強することへの慣れの有無が変わってくる。そこで最近は家庭の所得にかかわらず、全4歳児のPre-K入学を目指す風潮となっている。

しかし、後の学力の育成はPre-K 以前からすでに始まっている。オバマ大統領も引用したように、貧しい家庭の子どもが生まれてから3歳までの間に耳にする言葉の累計数は、豊かな家庭の子どもに比べて3,000万語も少ないというショッキングな調査結果がある。英語では「You」「are」「smart!」を3語と数えるので膨大な数となっているが、それを差し引いてもこの差を縮めるのは容易ではない。

この大きな差の理由は、親や養育者が乳幼児に話しかける頻度だ。乳児院や託児所に入れた場合も月謝が高額なほど職員の数が多く、個々の子どもへの話しかけの数が増える。富裕層はナニーを雇うため、親は不在でも付きっきりの話しかけが行われる。

子どもへの話しかけの語数と内容は親の教育レベルによって異なる。例えば親子でテレビやタブレットなどを観ている時にクジラが写ったとする。無言で観続けるか、「大きいね!」だけで済ませるか、「クジラはお魚じゃなくて動物なのよ」と教えるか。

また、黒人社会では一人親家庭が過半数をはるかに超えており、家庭に大人が一人しかいないことも影響していると思われる。子どもは大人の会話も無意識に聞き、言葉を覚えていくため、大人同士、さらに言えば高学歴者同士による豊かなボキャブラリーと正しい文法の会話が豊富にある家庭の子どもが有利となる。

こうした一見些細な日々の事象が3年間繰り返され、積もりに積もった結果、3,000万語の差となる。つまりPre-K入学の時点ですでに差がついているのだが、その差を広げないためにPre-Kの完全普及が必要と考えられている。

2)小学校3年生での学年に見合った英語力

アメリカでは子どもの話す能力と読み書きの能力に大きな隔たりがあり、大人顔負けに話せても年齢相応のレベルで本が読めない子どもが多い。読めないと問題も解けず、ELA(英語の授業。日本の国語に相当)だけでなく、全ての教科の成績が上がらない。そこで読み書き能力のリカバリーが難しくなる小学4年生以前に学年相応の読む力を付けさせることを目指す。

小学4年生の「読む力」が学年相応またはそれ以上の生徒の割合(2015)
 白人:46%
 黒人:18%
 ヒスパニック:21%
 アジア系:57%


3)高校

アメリカでは高校入学の時点ではまだ義務教育年齢なので、所得も成績も関係なく全員が高校に進学する。しかし黒人やヒスパニックの生徒は上記のように基礎教育でのハンデがあるために優秀な高校に進む率は少なく、高校中退率も高い。

高校中退率(2014)
 白人男子:5.7%
 黒人男子:7.1%
 ヒスパニック男子:11.8%
 アジア系:2.5%(男女)

中退は免れても成績の低い者は留年する。ニューヨーク市の場合、高校を4年で卒業(アメリカの高校は4年制)する生徒は白人とアジア系では80%以上なのに対し、黒人とヒスパニックは64〜65%と出ている。

また、トップレベルの高校になると黒人の生徒が極端に少なくなる。ニューヨーク市のトップ公立校、スタイヴサント高校は全校生徒3,300人のうち黒人はわずか40人程度、比率にすると1%に過ぎない。ニューヨーク市の黒人人口比は26%、公立校に通う就学年齢人口に限ると32%を占めるにもかかわらず。


4)大学/職業訓練

高校の成績と卒業率は当然、大学進学率に大きく反映する。

大学進学率(2年制または4年制)(2014)

 白人男子:40.2%
 黒人男子:28.5%
 ヒスパニック男子:30.3%
 アジア系(男女):65.2%

黒人の学生は卒業率も低い。貧困から学費不足となるケースもあるが、優秀な大学に進むほど白人の学生に囲まれることとなり、文化的に馴染めないケースも少なくない。今年5月、オバマ大統領の母校でもあるコロンビア大学の黒人女子学生が行方不明となった。携帯電話と銀行口座が契約解除され、フェイスブックも閉鎖されていたために事件性が心配されたが、11日後に無事発見された。ケンタッキー州出身、科学専攻の全額奨学金生、つまり非常に優秀な学生だったが大学に馴染めず、「逃げ出してしまいたかった」のが理由だった。

大学卒業率(4年制を4年で終えた者の率)(2008入学生)
 白人男子:38.1%
 黒人男子:16.2%
 ヒスパニック男子:25.7%
 アジア系:42.5%

5)就職

黒人の失業率は白人の約2倍。
失業率(16歳以上)(2016年第2四半期)
 白人男性:4.2%
 黒人男性:8.3%
 ヒスパニック男性:5.6%
 アジア系男性:3.8%

高校中退年齢に当たる16〜17歳に限ると差は大幅に広がる。
 白人男性:18.0%
 黒人男性:43.0%

2年制または4年制の大学を卒業直後の若者が含まれる20〜24歳の男性の場合も、やはり大きな差が出ている。
 白人男性:7.5%
 黒人男性:18.9%

黒人男性の中でも特に若者の就職が非常に難しいことがはっきりと出ている。

6)暴力の抑止+犯罪歴のある若者の社会復帰

学歴が無く、親や親族もまた学歴や職歴のないことから就職のコネも少ない黒人の若者たちは現金を得るために犯罪に走ることになる。

刑務所収監率(18歳以上、人口10万人当たり)(2014)
 白人男性:465人
 黒人男性:2,714人
 ヒスパニック男性:1,091人
 その他(アジア系男性を含む):968人


黒人男性100人中2.7人が刑務所に入っていることになるが、このデータは懲役1年以上のものであり、短期刑の者、裁判待ちの間に留置場にいる者、17歳以下は含まれていない。また、すでに出所済みの者を加えると膨大な数の黒人男性が犯罪歴を持っていることになり、就職の大きな障害となっている。

収監者も年齢別に見ると、やはり高校留年後の中退や卒業の直後に当たる18〜19歳で最も人種別の差が開き、なんと10倍となっている。この数値の高さは、これもオバマ大統領が示したように「司法の不平等」も理由となっている。同じ犯罪を犯しても白人と黒人では起訴/不起訴、有罪/無罪、そして量刑が変わってくる。

刑務所収監率(18〜19歳、人口10万人当たり)(2014)
 白人男性:102人
 黒人男性:1,072人


■負のサイクル

子どもの貧困率(2014)
 白人:12.3%
 黒人:36.0%
 ヒスパニック:31.9%
 アジア系:12.0%

幼児期からの基礎学力を上げて高校中退を防ぎ、大学の学費を支援すると同時に、黒人が精神的にも中央社会に入りやすいよう他人種との交流を広げる必要がある。大学卒業率を上げ、職業訓練も充実させることによって就職率を上げ、犯罪に加担する者を減らす。すでに犯罪歴のある者には職業訓練と就職斡旋を行う。これだけの支援を行って初めて黒人とヒスパニックの若者たちは貧困から脱することが出来る。しかし、そもそも貧困家庭では幼児期の基礎学力育成が難しく……

この負のサイクルを打ち破るためには、上記6つの指標達成を同時に進めていくしか道はない。


■生涯を通じての使命

「マイ・ブラザーズ・キーパー」設立1周年のイベントで、オバマ大統領はプロジェクト参加者のアレックスという少年を紹介した。

「アレックスは米領ブエルトリコで生まれ、ニューヨークのブルックリンとブロンクスという粗っぽい地区で育ちました。11歳の時、お母さんの親友で、アレックスが尊敬していた男性が射殺されるのを目撃してしまいました。アレックスの兄たちは高校を中退し、ドラッグと暴力に搦めとられてしまいました。アレックスは自分自身も人生の選択など無いと思い、より良い将来への道を思い描くことが出来ず、やがて学校を中退。しかし、お母さんが復学してGED(高校中退者対 象の卒業資格)を取得しました。このことが彼にも復学してGEDを取ろうと思わせたのです。『何が起ころうと人生にはセカンド・チャンスがあると母が教え てくれた』ー これがアレックスがお母さんについて語った言葉です」

オバマ大統領は自分にも父親がいなかったこと、しかしアレックス同様に母親がロールモデルであったこと、そしてアレックスは今、弟たちのロールモデルであることを付け加えている。

「マイ・ブラザーズ・キーパー」は設立2年目には600万ドルもの資金を集め、アメリカ全50州の250地域が参加。各地でそれぞれ生徒へのメンター手配、夏休み中の仕事/インターン手配、ギャングの暴力抑止プログラム、過剰な停学処分の緩和、そしてホワイトハウスでの科学フェアなど様々な活動を展開している。

「なぜ男子だけへの支援なのか」「しょせん焼け石に水」といった批判もある。しかし、誰かがどこかで始めな ければならない仕事だった。オバマ大統領は自身が持つパワーをフルに使い、このプログラムを開始した。きっかけはトレイヴォン・マーティンだった。トレイヴォンの死を無駄にはしないことをバラク・オバマは誓ったに違いない。オバマ大統領は「マイ・ブラザーズ・キーパー」を「生涯を通じての使命」と宣言して いる。 -END-

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連載ヒューマン・バラク・オバマ
第1回:父親としてのオバマ大統領〜「私はフェミニスト」
第2回:バラク・オバマは「黒人」なのか〜人種ミックスの孤独
第4回:二重国籍疑惑の大統領候補たち〜「生まれつきのアメリカ人」とは?
第5回:ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由
第6回:大統領はクリスチャン〜米国大統領選と宗教
第7回:不法滞在者となってしまった子どもたち〜合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ
第8回:不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦〜法の不平等を正す





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スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 21:14
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