RSS | ATOM | SEARCH
NY:アフリカからの不法滞在少年アマドゥのケース 〜 タイ強制退去ウティナン君の件に寄せて
NY:アフリカからの不法滞在少年アマドゥのケース 〜 タイ強制退去ウティナン君の件に寄せて

日本で生まれ育ったタイ国籍の高校生、ウォン・ウティナン君(16)のタイ強制退去の判決が覆らずのニュースを読み、10年ほど前にニューヨークのイーストハーレムでよく似た件があり、話題となったことを思い出した。

セネガル生まれで違法滞在者だった男子高校生があわや強制送還となり、しかし違法滞在となった成り行きと成績優秀であることが考慮され、地元ニューヨークの政治家たちが立ち上がり、少年は短期間の滞在許可を得るに至った。

その後、少年がどうなったのか気になり調べてみたところ、なんと、大ヒット映画『トワイライト・サーガ』に出演する俳優になっていた! まったくもって驚いた。いったい何がどうなってそうなったのか。

当初からの成り行きも改めて読み直し、まとめたものが以下だ。


Amadou Ly

アマドゥ・リーは西アフリカのセネガルで1988年に生まれている。2001年9月10日、つまり911同時多発テロの前日に母親と共にニューヨークにやって来ている。13歳。英語はまったく話せなかった。母親はアマドゥにアメリカで教育を受けさせるために観光ビザを取得して渡米したとある。日本人や先進ヨーロッパ諸国人は3ヶ月以内の滞在ならビザ不要だが、多くの国はビザが必要だ。アメリカは貧しい国からの不法滞在者を防ぎたいのだ。

渡米から約1年後に母親は単身セネガルに帰国。母親はアマドゥをインディアナ州の知人に預ける手配をし、アマドゥはひとり長距離バスに乗り、インディアナに移った。この時点でビザの期限はすでに切れており、アマドゥは違法滞在者となっていた。

2004年の夏、知人がアマドゥの面倒をみられなくなり、アマドゥはまたひとりバスに乗りニューヨークに戻る。16歳。身寄りもなく、ビラ巻きなどでなんとか衣食を賄い、やがて親の知人宅に身を寄せ、マンハッタンの貧困地区イーストハーレムの高校に通う。

その年の11月、ペンシルベニア州で助手席に乗っていた車が事故を起こし、駆け付けた州兵に身分証明書を求められ、違法滞在者であることが発覚。移民局に通報され、ここから「強制送還」を賭けて法廷との闘いとなる。弁護士を雇う資金は無く、あれこれと時間を費やしているうちに18歳となり、未成年のみ対象のグリーンカード(永住権)など、いくつかの法的恩恵が受けられなくなる。

強制送還の危機にありながらも高校にはそのまま通った。アメリカでは義務教育はすべての子どもに提供することとなっている。ニューヨークの場合、17 歳までが義務教育年限だが、いったん入学すれば卒業まで義務教育扱いとなる。また、ニューヨークには学校側に本人の国籍やアメリカ滞在資格の有無を告知しない「聞かない、答えない」ルールがある。

アマドゥは学校でコンピュータを使ったロボット組み立てコンテストのチームに所属。2006年、貧困地区の学校ゆえに満足な資材も揃えられないにもかかわらず、トップ校を凌いで州代表となる。4月にジョージア州で開催される全米大会に出場するためチームメイトと共に空港に赴き、身分証明書が無いことから搭乗を断られる。チームメート18人は「アマドゥ無しでは行かない」とし、アマドゥも含めて全員が18時間かけて列車でジョージア州へ。この費用はブルームバーグ社が拠出。

この件がニューヨーク・タイムズに掲載され、アマドゥの存在が全米に知れ渡る。アマドゥに法廷費用や大学費用の支援を申し出る人々、自分の養子になれば米国滞在が可能になるのであれば、そうしてもいいという人さえ出た。

これによりニューヨーク州選出のチャック・シューマー上院議員、同じく当時は上院議員だったヒラリー・クリントン、当時のニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグが動き、同年7月にアマドゥは高校を終えるための学生ビザを手にする。



アマドゥの学生ビザはブルックリンにあるコミュニティ・カレッジ(公立の短期大学)に在学する間も有効で、卒業後は就労に基づくビザの取得も可能だった。当初はコンピュータ・エンジニアを目指していたアマドゥだが、自身のシャイな立ち居振る舞いを矯正するために演技のクラスを受けた途端、演技に開眼し、専攻をパフォーミングアーツに変更。

外国籍の学生の就労は週20時間以内と定められていることから、アマドゥは経済的に苦労する。演技を認められてテレビの人気ドラマ『ロウ&オーダー』出演のチャンスを得るが、これも外国人学生は学内か学校に関連した仕事にしか就けず、断念。

2009年に大学を卒業したアマドゥは俳優を目指してニューヨークからハリウッドに移る。インディ作品に2本出演した後の2002年、大ヒット『トワイライト』シリーズの第5作『トワイライト・サーガ/ブレイキング・ドーン Part2』にヘンリーという名のヴァンパイア役で出演。そして今年、自身が脚本と主役を兼ねた短編『Attempts』と『Justice Turner』を発表している。


『トワイライト・サーガ』出演時のインタビュー。移民問題で苦労したことも語っている


これが2001年から現在に至る、アマドゥ・リーの15年間だ。あちこちの記事を読み、時系列で繋いでみたが、メディアには語られていない部分も多いことと思う。インディアナからニューヨークにひとりで舞い戻り、ビラ配りで食いつないだとあるが、当時16 歳。そんなふうにひと言で済む生活ではなかったと思われる。親の知人宅に身を寄せるまではホームレスだったのではないだろうか。そもそも14歳で母親が祖国に戻ってしまい、異国にひとり取り残された時、いったいどんな心情だったのだろうか。インディアナの知人は当時、中学生のアマドゥにどれほどよくしてくれたのだろうか。

今、アマドゥは「自分はアメリカに属していると感じる」と語っている。同時に自分が夢中になり、結果的に自分の存在を世間に知らしめることとなったロボット組み立てコンテストを祖国セネガルの子どもたちのために開催したいとも語っている。アマドゥが俳優や脚本家として成功すれば、必ず実行するだろう。いや、そうでなくとも道を見つけて開催にこぎつけるのではないだろうか。

移民は移住先の国に身を落ち着け、貢献し、文化を豊かにする。同時に祖国との文化や経済の架け橋にも成り得る。かつて未成年の不法滞在者、違法移民だったアマドゥ・リーは、それを身を以て実践しているのである。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ヒューマン・バラク・オバマ
第1回:父親としてのオバマ大統領〜「私はフェミニスト」
第2回:バラク・オバマは「黒人」なのか〜人種ミックスの孤独
第3回:マイ・ブラザーズ・キーパー〜黒人少年の未来のために
第4回:“二重国籍疑惑”の大統領候補たち〜「生まれつきのアメリカ人」とは?
第5回:ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由
第6回:大統領はクリスチャン〜米国大統領選と宗教





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

 

author:堂本かおる, category:アメリカ文化・社会, 15:19
comments(0), trackbacks(0)
Comment









Trackback
url: http://nybct.jugem.jp/trackback/1198