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トランプ「ムスリム入国禁止」を生んだ黒人フォビア

■「すべてのイスラム教徒をアメリカ入国禁止に!」


「すべてのイスラム教徒をアメリカ入国禁止に!」 12月2日に起こったカリフォルニア州でのテロ事件を受けての共和党大統領候補ドナルド・トランプの発言だ。今、アメリカはこの件で上を下への大騒ぎとなっている。

リベラルなアメリカ人にとって、これはアメリカという国の理念を根底から覆すものであり、到底、受け入れられない。トランプを「レイシスト」「ファシスト」と呼び、非難が巻き起こっている。

厳しい移民政策を基本とする共和党も、さすがにたじろいだ。共和党員で下院議長のポール・ライアンが「本来は大統領選に口を出すことはしないが」と前置きした上で、トランプ発言は「コンサバティズム(保守主義)ではない」と断罪した。他にもトランプ発言を非難する声が続々と上がり、トランプは立候補当初に「やらない」と約束した、共和党を抜けて独立候補に切り替える可能性を仄めかしている。


■ “ガンに罹っている” 共和党


しかし、トランプというモンスターは、実は共和党が生み出したものだ。

CNNの連邦議会担当レポーターのダナ・バッシュが、ある人物の発言の引用として「共和党はガンに罹っている」と言った。まさにそのとおり。ガンの発症は7年前。「黒人」がアメリカ合衆国第44代大統領となった2008年以来の長患いだ。

史上初の黒人大統領の誕生に多くの共和党員と支持者はショックを受け、思考をマヒさせてしまった。以後、共和党は国政を止めてしまい、党の唯一の目的は黒人を大統領の座から引きずり降ろし、「国を取り戻す 」(I want my country back.)こととなった。

それでも常識や思慮のある層は、オバマ大統領の「政策」を批判し続けている。保守派がリベラルの政策を批判するのは当然だ。しかし、彼らは純粋に政策のみを批判しているのだろうか。実のところ、無意識下で大統領が黒人であることを、いまだに乗り越えられていないのではないか。

ネットでちょっと検索してみれば、オバマ大統領を醜い猿にフォトショした類いの画像がいくらでも出て来る。政策など理解しない、しようともしない、単なる黒人アレルギーの人種差別主義者によるものだと信じたいところだが。ちなみに、かつて隆盛を誇った白人至上主義団体KKKのような人種差別グループが、オバマ大統領の当選後にまた増えているという調査結果もある。

いずれにせよ、オバマ大統領の政治能力など気にも掛けず、そもそもバラク・オバマを人格を持ついち個人、もしくは人間とも看做していない層が少なからず存在する。そうした層にとってオバマは顔も名前もない単なる黒人であり、その黒人が自分の国を治めていることが許せないのだ。

過去2回の大統領選に於ける共和党の醜態は、それが理由だった。候補者たちの目的は優れた国政を目指すことではなく、「打倒・黒人大統領」だった。だからこそ2008年にはサラ・ペイリンを担ぎ出し、2012年の代表候補はミット・ロムニーとなった。大統領選が恐ろしくレベルの低い「見せ物小屋」となったのだった。

そして今回の大統領選。共和党支持者は党の過去2回の失敗で党を信頼できなくなっている。そこへ“彗星”のごとく現れたのがドナルド・トランプだった。トランプは政治家ではない。当選しなければ不動産業に戻るだけ。したがって他の候補者と違い、どんなことも口に出せる。選挙資金を自腹で賄えるので共和党本部の不興を買うことも気にしない。そんなトランプの度を超した「言いたい放題」に、トランプ支持者たちは大いなるカタルシスを得、興奮状態に陥っている。暴走するトランプと支持者を、共和党はすでに制御出来なくなっている。


■敵はテロリストか? 黒人大統領か?


折しもイスラム過激派によるテロがアメリカ国内でも起り、アメリカ人も騒然とし、関心はそこに集中した。視野が狭く、政治や社会を理解しない層、人種差別主義者たちは、トランプの「イスラム教徒の入国禁止」を「よくぞ言った!」と支持している。

そのトランプ発言を、先に書いたようにライアン下院議長が非難した。いまや米軍にはイスラム教徒/アラビア語話者の兵士が必須であり、対アラブ・ビジネスもある。そもそも特定の宗教の禁止など民主国家として世界に公言出来ることではない。

すると、途端に以下のフォトショ作品が登場した。白人のライアン下院議長を黒人化したものだ。

Paul Ryan

ライアン下院議長が批判したのはイスラム教徒および移民問題であり、黒人についてではない。しかしコラージュ戯画を作った人物はライアンを黒人として描いた。脊髄反射的にオバマ大統領とダブらせたのだろう。

コラージュ戯画の作者が誰に対して最も深い怒りと不信感を抱いているかの表れだ。テロリストを恐れているのは事実だろう、しかし、根の部分では今も「黒人大統領」を受け入れられず、怒りを燻らせ続けているのだ。こうした層を作り上げたのは、繰り返しになるが、過去7年間の共和党だ。オバマ政権との歩み寄りを一切拒否し、国政を妨げ続け、その責任を全てオバマ大統領になすりつけてきた共和党だ。

黒人を心理的にどうしても受け入れることが出来ず、しかし、それを立場上(少なくとも表立っては)口に出来ない者の集まりである政党と、黒人を受け入れられない事実を露骨に表明する党の一般支持者。「ガン」と表された、この二者のこじれた関係の隙間で大暴れを続ける、自身も人種差別主義者のドナルド・トランプ。

アメリカの人種問題はことほど深い。


■3歩進んでは2歩下がる


しかし、これらは全て歴史の転換期の一部だと考えたい。400年かかって黒人が大統領となった。それ自体は大いなる進歩だ。大きな変化には常に揺り戻しがある。黒人問題は3歩進んでは2歩下がる。そこには1歩の進歩がある。

イスラム教徒問題も同じだ。これも今後、長引くだろう。けれどアメリカは少なくとも問題を抱え、葛藤し続け、少しずつ道を見つけていく度量だけは持つ国なのである。




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author:堂本かおる, category:アメリカ文化・社会, 00:58
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