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アメリカの絵本『ヘイ、ユー!カミヤ〜ポエトリー・スラム』
American Picture Book Review #5
『ヘイ、ユー!カミヤ〜ポエトリー・スラム』
Hey You! C'mere! A Poetry Slam


著:Elizabeth Swados
画:Joe Cepeda

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/8/25号



 本作のタイトルを訳すと『おい、おまえ!こっち来いよ〜詩の対決』と、非常に活きの良い「詩」の絵本であることがわかる。すべて見開きで全16篇の詩が、カラフルなイラストとともに詰まっている。詩のテーマは友だちとのケンカ、“大人の話”を電話でするお母さん、長い長いスパゲッティ、オバケ、どしゃぶりの天気など、子供のリアルな日常生活を切り取ったものばかりだ。

 多くの詩が擬音語、擬態語であふれている。アイクスクームを舐める音は「Slurp, slurp(スラープ、スラープ)」、溶けてしたたり落ちる音は「Drip, drip(ドリップ、ドリップ)」、それを犬が舐める音は「Lick, lick(リック、リック)」、コーンを齧る音は「Crunch, crunch(クランチ、クランチ)」。子供たちが真夏の日差しの中でアイクスリームを楽しそうに舐め、犬にもおすそ分けしている風景がシンプルな言葉で見事に表されている。

 いじめっ子のセリフは日常会話の発音どおりのスペルで書かれている。タイトルにもなっている「C'mere(カミヤ)」は"Come here."、「Whatsa matter withcah(ワツァ・マタ・ウィチャ)」は"What's the matter with you?"(なんか問題あんのかよ?)という具合。

 アメリカでは詩が子供にとっても文学の1ジャンルとして確立しており、筆者の息子も小学1年生から国語(=英語)の授業で詩を学んでいる。幼い子供にとって詩は文法をそれほど気にする必要がなく、長文である必要もなく、なにより想像力に満ちた思考があちこちに飛んでも構わないために書きやすのかもしれない。

 本作のサブタイトルの「ポエトリー・スラム」とは、「詩の朗読コンテスト」または「詩の朗読対決」を指す。講堂などで開催されるコンテスト形式のものもあれば、ポエトリー・カフェで観客の前に二人の詩人が立ち、詩でバトルするものもある。どちらもアカデミックな詩を朗々と読むのではなく、まさにバトル式に激しく詠み上げる。テーマは社会的なものが多い。その緊張感たるや。そう、詩はまさに生きているのである。しかしこの絵本はバトルではなく、子供のための溌剌とした詩を収めたびっくり箱だ。黙読ではなく、大きな声で元気良く音読すべき絵本なのである。

Hey You! C'mere! A Poetry Slam




 



ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(ハーレムの北側、スペイン語の街!)

 

 

 



author:堂本かおる, category:アメリカの絵本, 15:00
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アメリカの絵本:『ウェン・ゴッド・メイド・ユー』

American Picture Book Review #4
『ウェン・ゴッド・メイド・ユー』
 When God Made You


著:Matthew Paul Turnery
画:David Catrow

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/7/28号



 『When God Made You』(神さまがあなたをお創りになった時)に登場するのは、溢れんばかりの絵の才能を持つ幼い少女と神。少女に名前はなく、絵本の語り手は少女を「You」と呼び、なぜ「God」が少女をこの世に送り出したかを繰り返し語る。

 ある日、自転車で街に出た少女は公園で嘆き悲しむ青年を見掛ける。見知らぬ青年を元気づけるために少女は絵筆を握り、空間を色彩で染め上げてゆく。少女は神から授かった才能を青年のために惜しみなく使い、かつ自身を自然界に解き放ち、どこまでも描き続ける。やがて少女と青年は少女が描いた鳥の背に乗り、空想の旅に出る。

 少女は自分の才能を人にふるまうことに疑問を抱かない。なぜなら人はお互いに愛し合わねばならないと知っているからだ。同時に神に与えられた才能を自覚する少女は自信と確信に満ち、強く、勇敢でもある。神は細心の注意をはらって創り上げた創造物を所有し、コントロールすることは目的とせず、少女が少女自身であることこそが望みなのだ。

 冒頭には少女の自宅シーンがあり、まだ赤ん坊の妹やペットの犬や猫がいる。室内のインテリアは温かい色彩だ。少女の両親は登場しないが、少女が両親に慈しまれて育っていることは見て取れる。しかし、この物語は少女を物理的に生み出した両親ではなく、森羅万象を司る神と「You」、つまり読者の子ども一人ひとりの絆の物語なのである。

 アメリカはキリスト教の風土が非常に強い国だ。人口の7割がクリスチャンであり、2割を超える無信仰者や無神論者も多くはキリスト教家庭で育ち、のちに信仰を止めた層とみていいだろう。続くユダヤ教徒は2%、イスラム教徒は1%にも満たない。歴代大統領は全員がクリスチャンであり、政教分離も建前と言える。近年、子どもを学校に通わせず、自宅で親が教育するホームスクール人口が200万人に届こうとしているが、信仰が理由のケースも少なくない。信仰熱心な若者は信仰のメッセージをロックやラップにして歌う。外観は一般の若者たちとなんら変わらないが、歌詞には「God」がちりばめられている。

 こうしたキリスト教国アメリカを理解するにはやはりキリスト教の基礎知識が必要となるわけだが、アメリカに暮らすとなると日常で接するクリスチャンの思考法や信条を知ることがより必須となる。この絵本のテーマである神と個人の強い繋がりは、まさにその筆頭なのである。

 

 

 

 



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author:堂本かおる, category:アメリカの絵本, 10:10
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アメリカの絵本:『ブルースカイ ホワイトスターズ』

 

American Picture Book Review #3
『ブルースカイ ホワイトスターズ』
Blue Sky White Stars

著:Sarvinder Naberhaus
画:Kadir Nelson

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/6/30号



7月4日はアメリカ独立記念日。全米に星条旗が翻る日だ。旗だけではない。多くの人が庭や公園でBBQを楽しむが、プラスチックのコップやビニールのテーブルクロスといった小物やTシャツまでが星条旗カラーの赤・白・青となる。日没後は各地で花火大会となり、筆者の住むニューヨークでも盛大に開催される。

アメリカ人は愛国心が強い。星条旗はその愛国心を視覚的に表す象徴。映画などでよく見掛ける、手を胸に当てて暗誦する「忠誠の誓い」の文言は、実は星条旗への誓いとなっている。本作のタイトル『ブルースカイ ホワイトスターズ』も星条旗の青い部分と、そこに並んで50州を表す白い星を指している。

各ページにはシンプルで短いフレーズがひとつだけ書かれている。その一言が素晴らしいイラストと相俟って読み手の想像力を最大限に引き出し、かつ祖国アメリカへの深い憧憬とプライドを静かに掻き立てる構成になっている。見開きの左ページには「Sea Waves(海の波)」とあり、青い海が描かれている。右ページには「See Waves(波を見よ)」とあり、風に煽られ、布地が波打つ星条旗が断ち切りで大胆に描かれている。韻を踏んだ言葉遊びだが、海の青さ、星条旗の赤の深さが同時に目に飛び込んで来る。他に西部開拓、南北戦争、公民権運動、月面着陸などアメリカ史の描写があり、そこには常に赤・白・青の3色がある。

著者のサルヴィンダー・ナバーハウスはインドで生まれ、3歳でアメリカに移住した児童文学作家だ。作画のカディール・ネルソンはアフリカン・アメリカン。アメリカでは共にマイノリティである2人が、自分の祖先がまだこの国に存在しなかった時代、もしくは市民としての待遇を与えられていなかった時代からの歴史を通じて自身をアメリカ人と強く自認かつアメリカを偉大なる祖国とし、その思いを星条旗によって表したのがこの絵本だ。

「Sew Together Won Nation(ひとつに縫い合わせ、国を勝ち取った)」と書かれたページでは18世紀の衣装を纏った白人女性が米国独立時の13州を表す星条旗を縫っている。対面のページには「So Together One Nation(皆で共に、ひとつの国家)」とあり、そこにはありとあらゆる人々〜黒人、アジア系、ヒスパニック、ネイティブ・アメリカン、イスラム教徒、白人〜が描かれているのである。


 



ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
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author:堂本かおる, category:アメリカの絵本, 07:18
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アメリカの絵本:「シェイズ・オブ・ブラック」SHADES of BLACK - A Celebration of Our Children
American Picture Book Review #2
『シェイズ・オブ・ブラック』
SHADES of BLACK - A Celebration of Our Children

著:Sandra L. Pinkney
写真:Myles C. Pinkney

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/6/2号



 先日、日本では都立高校の『地毛証明書』が物議を醸したが、アメリカには存在し得ないものだ。ありとあらゆる人種民族の混合国家ゆえに髪も文字どおり十人十色。よって全校生徒の外観を一律に揃えるという概念は無い。


 しかし髪について、アメリカは多人種国家ならではの問題を抱えている。女性の美を象徴するのは今もブロンドだ。実際には白人にも様々な出自があり、アメリカでは生まれつきの金髪はそれほど多くないにもかかわらず。ハリウッド女優やCNNのキャスターから一般人まで含め、アメリカの金髪女性の大半は実は染めているのである。

 それでも白人であれば髪を染めれば「美の象徴」を象ることができる。より深刻な問題を抱えているのは黒人だ。奴隷時代から永年にわたって濃い肌の色、縮れた髪という外観をも蔑みの対象とされ、強い自己嫌悪、自尊心の欠如を抱えてしまった。それを覆すために生まれたのが、有名な「ブラック・イズ・ビューティフル」というフレーズだ。黒人生来の美を認め、強烈な自己肯定を意識的に促したのだった。

 ところが黒人の肌と髪には驚くほどのバラエティがあり、中には白人と見紛うほどに色が薄く、直毛に近いことすらある。理由は、奴隷制時代に多くの黒人女性が白人男性にレイプされたことだ。この残酷な歴史により、現在アメリカに暮らす黒人はヨーロッパのDNAを持つ。黒人の子供たちは白人との外観の違いにコンプレックスを持つだけでなく、黒人社会内部においても「白人により近い肌の色、縮れのゆるい髪のほうが美しい」という概念に捉われてしまう。そのスティグマを防ぎ、黒人の外観の多様性を子供たちに伝えるための写真集が『シェイズ・オブ・ブラック〜私たちの子供のセレブレーション』である。

 モデルとなった黒人の子供たちの肌の色、髪の質は見事にバラバラだ。それぞれの肌の色とマッチした「バニラ・アイスクリーム」「クッキー」「チョコレート」を手にして写っている。フワフワしたアフロヘアの子は「コットンボール」、直毛の少年は「真っすぐでシャープな葉っぱ」、ドレッドロックの子は「羊さんのウール」だ。そして「どの髪もぜんぶグッド」「わたしは黒人・ボクはユニーク」「自分でいることを誇りに思う」と記されている。個の違いを尊重して子供のプライドとする、まさに『地毛証明書』の対極をなす写真集なのである。








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author:堂本かおる, category:アメリカの絵本, 18:54
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アメリカの絵本:「カボチャとパンツスーツ」The Pumpkin and The Pantsuit
American Picture Book Review #1
「カボチャとパンツスーツ」
The Pumpkin and The Pantsuit


著:Todd Eisner他
画:The Studio

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/5/5号






 『The Pumpkin and The Pantsuit』(カボチャとパンツスーツ)は、アメリカの子供たちが昨年の大統領選のドタバタ劇を通して選挙の仕組みと民主主義を学べる絵本だ。出版の動機は、米国選挙史上最悪のカオスとなった大統領選を全米の(少なくとも半数の)親が「子供に一体どう説明すればいいの?!」と困り果てたこと。勇志による自費出版だが、内容とタイミングにより注目を集めた。ただし表紙の絵で分かるようにヒラリー・クリントン支持のリベラルによって書かれたものであり、ドナルド・トランプ支持の親は絶対に買わない内容だ。

 トランプはオレンジ色の“パンプキン”(カボチャ)、クリントンは選挙戦中に愛用した“パンツスーツ”として描かれている。物語はカボチャとパンツスーツが揃って“大きな白い家”(ホワイトハウス)に住みたがるところから始まる。しかし大きな白い家には一人しか住めず、どちらが住むか“人々”が決めることになっている。そこで二人はどうすれば人々に選んでもらえるか一生懸命に考え、毎日テレビに出ては自分の意見を演説をする。ビヨンセ、ハルク・ホーガン、さらにはプーチンも支援者として登場する。そしていよいよ投票日、人々は紙に描かれた2人の顔のどちらかに○を付けるのだった。

 カボチャはとんでもない“いじめっ子”として描かれている。トランプの悪名高い言動の数々「女性器をワシ掴みにする」「イスラム教徒の入国禁止」「ロシアとの繋がり」などが子供に差し障りのない言葉にうまく置き換えてあり、大人は思わずニヤリとしてしまう。しかし選挙の結果を受け入れるのも民主主義だ。現実には当選の瞬間から「弾劾を!」の声が上がっているが、この絵本には描かれていない。

 実は、ここからが本作の要だ。選挙に敗れたパンツスーツは失意を味わうが、自分が多くの“小さなパンツスーツ”(少女たち)を勇気付けたことを知る。物語はいつか別のパンツスーツが大きな白い家に住むことを予言して終る。

 客観的に見るとカボチャがあまりにも醜く、表紙ですでに子供に先入観を与えることが気になるはずだ。アメリカのリベラルこそ本来ならそうした事態を避けたがる。しかし、今回ばかりはそんな悠長なことは言っていられないという、これは大人の側の非常事態宣言絵本でもあるのだ。

 ※本書の収益は児童支援団体に寄付される





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



author:堂本かおる, category:アメリカの絵本, 13:48
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