RSS | ATOM | SEARCH
アメリカの絵本:『ブルースカイ ホワイトスターズ』

 

American Picture Book Review #3
『ブルースカイ ホワイトスターズ』
Blue Sky White Stars

著:Sarvinder Naberhaus
画:Kadir Nelson

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/6/30号



7月4日はアメリカ独立記念日。全米に星条旗が翻る日だ。旗だけではない。多くの人が庭や公園でBBQを楽しむが、プラスチックのコップやビニールのテーブルクロスといった小物やTシャツまでが星条旗カラーの赤・白・青となる。日没後は各地で花火大会となり、筆者の住むニューヨークでも盛大に開催される。

アメリカ人は愛国心が強い。星条旗はその愛国心を視覚的に表す象徴。映画などでよく見掛ける、手を胸に当てて暗誦する「忠誠の誓い」の文言は、実は星条旗への誓いとなっている。本作のタイトル『ブルースカイ ホワイトスターズ』も星条旗の青い部分と、そこに並んで50州を表す白い星を指している。

各ページにはシンプルで短いフレーズがひとつだけ書かれている。その一言が素晴らしいイラストと相俟って読み手の想像力を最大限に引き出し、かつ祖国アメリカへの深い憧憬とプライドを静かに掻き立てる構成になっている。見開きの左ページには「Sea Waves(海の波)」とあり、青い海が描かれている。右ページには「See Waves(波を見よ)」とあり、風に煽られ、布地が波打つ星条旗が断ち切りで大胆に描かれている。韻を踏んだ言葉遊びだが、海の青さ、星条旗の赤の深さが同時に目に飛び込んで来る。他に西部開拓、南北戦争、公民権運動、月面着陸などアメリカ史の描写があり、そこには常に赤・白・青の3色がある。

著者のサルヴィンダー・ナバーハウスはインドで生まれ、3歳でアメリカに移住した児童文学作家だ。作画のカディール・ネルソンはアフリカン・アメリカン。アメリカでは共にマイノリティである2人が、自分の祖先がまだこの国に存在しなかった時代、もしくは市民としての待遇を与えられていなかった時代からの歴史を通じて自身をアメリカ人と強く自認かつアメリカを偉大なる祖国とし、その思いを星条旗によって表したのがこの絵本だ。

「Sew Together Won Nation(ひとつに縫い合わせ、国を勝ち取った)」と書かれたページでは18世紀の衣装を纏った白人女性が米国独立時の13州を表す星条旗を縫っている。対面のページには「So Together One Nation(皆で共に、ひとつの国家)」とあり、そこにはありとあらゆる人々〜黒人、アジア系、ヒスパニック、ネイティブ・アメリカン、イスラム教徒、白人〜が描かれているのである。


 



ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 



author:堂本かおる, category:アメリカの絵本, 07:18
comments(0), trackbacks(0)
アメリカの絵本:「シェイズ・オブ・ブラック」SHADES of BLACK - A Celebration of Our Children
American Picture Book Review #2
『シェイズ・オブ・ブラック』
SHADES of BLACK - A Celebration of Our Children

著:Sandra L. Pinkney
写真:Myles C. Pinkney

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/6/2号



 先日、日本では都立高校の『地毛証明書』が物議を醸したが、アメリカには存在し得ないものだ。ありとあらゆる人種民族の混合国家ゆえに髪も文字どおり十人十色。よって全校生徒の外観を一律に揃えるという概念は無い。


 しかし髪について、アメリカは多人種国家ならではの問題を抱えている。女性の美を象徴するのは今もブロンドだ。実際には白人にも様々な出自があり、アメリカでは生まれつきの金髪はそれほど多くないにもかかわらず。ハリウッド女優やCNNのキャスターから一般人まで含め、アメリカの金髪女性の大半は実は染めているのである。

 それでも白人であれば髪を染めれば「美の象徴」を象ることができる。より深刻な問題を抱えているのは黒人だ。奴隷時代から永年にわたって濃い肌の色、縮れた髪という外観をも蔑みの対象とされ、強い自己嫌悪、自尊心の欠如を抱えてしまった。それを覆すために生まれたのが、有名な「ブラック・イズ・ビューティフル」というフレーズだ。黒人生来の美を認め、強烈な自己肯定を意識的に促したのだった。

 ところが黒人の肌と髪には驚くほどのバラエティがあり、中には白人と見紛うほどに色が薄く、直毛に近いことすらある。理由は、奴隷制時代に多くの黒人女性が白人男性にレイプされたことだ。この残酷な歴史により、現在アメリカに暮らす黒人はヨーロッパのDNAを持つ。黒人の子供たちは白人との外観の違いにコンプレックスを持つだけでなく、黒人社会内部においても「白人により近い肌の色、縮れのゆるい髪のほうが美しい」という概念に捉われてしまう。そのスティグマを防ぎ、黒人の外観の多様性を子供たちに伝えるための写真集が『シェイズ・オブ・ブラック〜私たちの子供のセレブレーション』である。

 モデルとなった黒人の子供たちの肌の色、髪の質は見事にバラバラだ。それぞれの肌の色とマッチした「バニラ・アイスクリーム」「クッキー」「チョコレート」を手にして写っている。フワフワしたアフロヘアの子は「コットンボール」、直毛の少年は「真っすぐでシャープな葉っぱ」、ドレッドロックの子は「羊さんのウール」だ。そして「どの髪もぜんぶグッド」「わたしは黒人・ボクはユニーク」「自分でいることを誇りに思う」と記されている。個の違いを尊重して子供のプライドとする、まさに『地毛証明書』の対極をなす写真集なのである。








ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



author:堂本かおる, category:アメリカの絵本, 18:54
comments(0), trackbacks(0)
アメリカの絵本:「カボチャとパンツスーツ」The Pumpkin and The Pantsuit
American Picture Book Review #1
「カボチャとパンツスーツ」
The Pumpkin and The Pantsuit


著:Todd Eisner他
画:The Studio

■アメリカの絵本をとおしてアメリカを知る■

初出:週刊読書人 2017/5/5号






 『The Pumpkin and The Pantsuit』(カボチャとパンツスーツ)は、アメリカの子供たちが昨年の大統領選のドタバタ劇を通して選挙の仕組みと民主主義を学べる絵本だ。出版の動機は、米国選挙史上最悪のカオスとなった大統領選を全米の(少なくとも半数の)親が「子供に一体どう説明すればいいの?!」と困り果てたこと。勇志による自費出版だが、内容とタイミングにより注目を集めた。ただし表紙の絵で分かるようにヒラリー・クリントン支持のリベラルによって書かれたものであり、ドナルド・トランプ支持の親は絶対に買わない内容だ。

 トランプはオレンジ色の“パンプキン”(カボチャ)、クリントンは選挙戦中に愛用した“パンツスーツ”として描かれている。物語はカボチャとパンツスーツが揃って“大きな白い家”(ホワイトハウス)に住みたがるところから始まる。しかし大きな白い家には一人しか住めず、どちらが住むか“人々”が決めることになっている。そこで二人はどうすれば人々に選んでもらえるか一生懸命に考え、毎日テレビに出ては自分の意見を演説をする。ビヨンセ、ハルク・ホーガン、さらにはプーチンも支援者として登場する。そしていよいよ投票日、人々は紙に描かれた2人の顔のどちらかに○を付けるのだった。

 カボチャはとんでもない“いじめっ子”として描かれている。トランプの悪名高い言動の数々「女性器をワシ掴みにする」「イスラム教徒の入国禁止」「ロシアとの繋がり」などが子供に差し障りのない言葉にうまく置き換えてあり、大人は思わずニヤリとしてしまう。しかし選挙の結果を受け入れるのも民主主義だ。現実には当選の瞬間から「弾劾を!」の声が上がっているが、この絵本には描かれていない。

 実は、ここからが本作の要だ。選挙に敗れたパンツスーツは失意を味わうが、自分が多くの“小さなパンツスーツ”(少女たち)を勇気付けたことを知る。物語はいつか別のパンツスーツが大きな白い家に住むことを予言して終る。

 客観的に見るとカボチャがあまりにも醜く、表紙ですでに子供に先入観を与えることが気になるはずだ。アメリカのリベラルこそ本来ならそうした事態を避けたがる。しかし、今回ばかりはそんな悠長なことは言っていられないという、これは大人の側の非常事態宣言絵本でもあるのだ。

 ※本書の収益は児童支援団体に寄付される





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



author:堂本かおる, category:アメリカの絵本, 13:48
comments(0), trackbacks(0)