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2017年 アメリカ:「黒人である」という理由で殺される。

2017年 アメリカ:「黒人である」という理由で殺される。

 ニューヨークのマンハッタン。ある黒人男性が、白人至上主義者による「黒人狩り」の結果、殺された。

 以下は事件直後から4日後の現在に至るまでに複数のメディアが報じた内容をまとめたもの。いまだ全容は分かっておらず、事件の大筋として読んでいただきたい。

 容疑者ジェームズ・H・ジャクソン(28)はメリーランド州ボルティモア在住。3月17日(金)に「黒人を殺すため」に格安バスに乗ってニューヨークにやってきた。当初はボルティモアからほど近いワシントンD.C. での犯行を考えたが、メディアの耳目が集まることを期待して行き先をニューヨークに変えたとのこと。

 ジャクソンはタイムズスクエアのホテルに泊まり、ターゲットとなる黒人を探し歩いた。異人種カップル(おそらく黒人男性と白人女性)も目にしたらしいが、タイムズスクエアは人が多過ぎ、なかなか犯行に及べなかった。

 20日(月)の午後11時頃、ジャクソンはタイムズスクエアに隣接するヘルズキッチンと呼ばれるエリアで、レストランのゴミから缶やビンを回収していた黒人男性ティモシー・カウフマン(66)を見つけ、背後からナイフで刺した。ナイフは特殊な形状で、全長26インチ(66cm)、刃渡り18インチ(46cm)。



刃渡り46cmのナイフ -NYPD

 ジャクソンは刺した後に現場を歩き去り、大きなナイフで刺されたカウフマンは胸から血を流しながら最寄りの警察署まで自力で歩き助けを求めたが、後に死亡。

 事件から24時間少々が経過した22日の真夜中過ぎ、容疑者ジャクソンはタイムズスクエアの警察署に自首。当初は複数の黒人を殺すつもりであったこと、自分の思想を文章にまとめてあり、それをニューヨークタイムズに送るつもりであったこと、2本のナイフを持っていたこと、警官の銃を奪って犯行に使うことも考えたなどと供述している。悪びれた様子は全く無く、報道のカメラから顔を背けることもしなかった。


■白人の女に手を出すな。

 ジャクソンは2007年にボルティモアのクウェーカー学校の高等部を卒業。クウェーカーはキリスト教の教派のひとつであり、同校は小さく豊かな私学。同校のウエブサイトには現在の学費は年間28,650ドル(約320万円)とある。2009年に軍隊に入隊し、約1年間アフガニスタンに派兵。軍では何度か表彰されている。2012年の除隊後の動向は不明であり、後に家賃未払いでアパートの立ち退きを迫られている。当時の大家によると、ジャクソンは近所付き合いを一切せず、まったく生気のない人物だったとのこと。はっきりした時期は不明ながら、10代の頃より白人至上主義者となり、ヘイト・グループに属していたともある。黒人を嫌い、特に白人女性と付き合う黒人男性を憎んだとある。

 これは昔から人種差別主義者によく見られる傾向だ。「劣性な黒人が、優性な自分たち白人の女に手を出した」という人種差別、支配欲、所有欲、そしてコンプレックスがない交ぜになった怒り。それを利用し、情事が発覚した白人女性が「黒人男性に襲われた」と嘘を付くこともある。つい先日もテキサス州で白人女性(18)が半裸で礼拝中の教会に現れ、「3人の黒人男性に誘拐され、輪姦された」と訴える事件があった。警察によって虚偽であることが証明され、女性は逮捕。動機は不明ながら「白人男性に襲われた」より「黒人男性に襲われた」とするほうが信憑性があると考えてのことだったと思われる。


■犠牲者ティモシー・カウフマンの人生

 犠牲となったティモシー・カウフマンは事件現場付近にある一種のシェルターに、もう20年も住んでいたという。若い頃は大学に通い、地元ニューヨーク市クイーンズ区で若者に仕事を斡旋するNPOに長く務め、熱心に働いた。その後、コンサート・プロモーターの仕事をしたこともあると言うが、なぜシェルター住まいとなったのかは不明。

 しかしカウフマンのツイッター・アカウントを見ると、彼の生活や人柄が見えてくる。プロフィールには「缶とビンのリサイクラー。ニューヨーク市で(セレブの)サイン蒐集家で、カリフォルニアに行ってみたい。優れたビジネスマン」とある。服装はこざっぱりとしている。


殺害されたティモシー・カウフマン、昨年11月の大統領選日のツイート「投票の列に並んでいる。アメリカが好きだ」

 最近ではチャック・ベリーの訃報に触れており、あぁ、あの時はまだ元気に生きていたんだ……と驚かされた。もしかするとタイムズスクエア界隈ですれ違ったことがあるかもしれない。

 カウフマンは他にもビヨンセ、クイーン・ラティファ、リアーナ、アイス・キューブなどブラックミュージック・アーティストについての記事をよくリツイートしている。ワイクリフ・ジョンなど通りで見掛けたセレブとのツーショットもある。ボブ・ディラン、ビル・プルマン、デビー・レイノルズなど白人のエンターテイナーについてもRTがなされている。関心の幅が広い人だったようだ。オバマ大統領やオバマケア撤廃問題(66歳で無職のカウフマンには重要な問題だっただろう)、ヒラリー・クリントンについてのRTもある。

 読書家だったらしく、「セント・パトリック・デイに読むのに最適な本のリスト」をRTしている。(容疑者ジャクソンは奇しくもセント・パトリック・デイにニューヨークにやって来ている)

 自閉症についての記事が何度もRTされている。身近な誰かが自閉症だったのだろうか。

 昨年11月の大統領選の日には自撮りをアップし、「投票の列に並んでいる。アメリカが好きだ」と、珍しく自身のコメントを書き添えている。このツイートは事件後に5,500RTされ、18,000を超える「♥」が付いている。

 翌日には「おぉ、神様、なぜこんなことが起こったのですか?」と題されたトランプ当選の記事をRT。

 選挙の3日後には「トランプ当選後、米国でヘイトクライム急増」の記事をRT。あの時期、全米がトランプ当選のショック下にあった。カウフマンも黒人として自分も嫌がらせをされることがあるかもしれないくらいは考え、同時に自国の行く末を大いに憂慮したのではないかと思う。しかし4カ月後に、まさか命まで奪われることになろうとは、ついぞ考えなかったに違いない。

 犠牲者、容疑者、共に複雑な人生を送ってきたようだ。しかし犠牲者カウフマンは苦労をしながらも人生を楽しんでいたことが分かる。それがある日突然、「黒人である」というだけの理由で殺されてしまった。現場目撃者によると、刺された直後にカウフマンは容疑者に向って、信じられないといった様子で「君は何をしているんだ?」と言ったと言う。自分が刺された理由を思い付く時間もなく、カウフマンはこと切れたのではないだろうか。

 西暦2017年。今もアメリカでは「黒人である」というだけの理由で殺されてしまうのである。今、出来ることは容疑者の背景を詳しく調べ、同様の事件の再発を防ぐために役立てることだ。

 ちなみにトランプはロンドン・テロのアメリカ人犠牲者へのコメントは出しているが、カウフマンについては触れていない。

 犠牲者ティモシー・カウフマン氏に心からの哀悼の意を捧げる。





連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第15回「オバマ大統領が書いた絵本『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:人種問題, 14:43
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