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「私の大統領」〜アメリカ人にとってトランプは大統領か否か
「私の大統領」〜アメリカ人にとってトランプは大統領か否か
(初出)インサイト2017年3月号 パワーと多様性の都市をサバイバル〜ニューヨークを生きる第69回 

ドナルド・トランプが第45代アメリカ合衆国大統領に就任以来、アメリカは大混乱に陥っている。就任式当日から連発される大統領令、政治経験皆無者の内閣指名……全米各地で抗議デモが頻発し、「トランプは私の大統領ではない」と宣言する者、「トランプこそ私の大統領だ」と熱烈に支持する者と、アメリカは大統領を巡ってまっぷたつに分断。この現象はアメリカにとって大統領が非常に大きな存在であることに由来する

■オルタナ・ファクト

 日本でもトランプ報道は加熱しているが、日本ではあまり伝えられないトランプおよび政権の言動を元に、アメリカにおける大統領の位置付けを考えてみたい。

 連日の大統領令の中で最も大きな混乱を招いたのが、シリア難民の受け入れ停止とイスラム教7ヶ国民のアメリカ入国禁止令だ。大統領令が出された瞬間にアメリカへ向う機上にいた該当国籍者は空港に到着するや勾留。祖国への里帰りからアメリカに戻ってきた家族の中には米国市民権(アメリカ国籍)、永住権、ビザと滞在資格が異なり、家族離散となったケースもある。大統領令の違法性が問われると同時に人道的にも大きな問題と捉えられ、瞬時に全米各地の空港で抗議デモが起こった。弁護士たちも駆け付け、無償で該当者支援を行った。同時に入国禁止令差し止め訴訟も起こされ、トランプ政権は2日後に「永住権保持者は除外」の通達を出した。文字どおりの朝令暮改となったのである。

 もうひとつの大統領令騒ぎは対メキシコ。トランプは当選前からメキシコとの3,000kmにわたる国境に壁を作り、莫大な建設費用はメキシコに払わせると言い続けてきた。折りも折、メキシコのペニャニエト大統領が訪米してトランプとの会談を行う調整のためにメキシコ政府高官が渡米している最中に「壁を造り、費用はメキシコ」とする大統領令に署名。メキシコ側は侮辱と受け取り、訪米をキャンセル。トランプは「メキシコからの輸入品に20%の関税をかけ、その歳入で壁を造る」と発言。

 こうした騒ぎも冷めやらぬ2月1日にトランプは“黒人史月間”を祝う談話を発した。その内容から黒人史にまつわる常識範囲の知識も持ち合わせていないことが露見した。1800年代に奴隷の身から奴隷解放運動家となったフレデリック・ダグラスの名を出しながらその功績内容には一切触れず、「素晴らしい活動を行ってきた」と、まるで生存する人物であるかのように結んだ。瞬く間に「ダグラスが誰で何をしたのか知らないのだろう」「もう死んでるって気付いてないよね」といった書き込みがSNS溢れた。

 政権チームの言動もメディアで大きく取り沙汰され続けている。ホワイトハウス報道官は就任式の一般参加者の数を史上最大と言い、事実ではないと批判されるとホワイトハウス顧問が「これはオルタナ・ファクト(別の事実)である」と釈明。その顧問がムスリム禁止令への批判に対して「オバマ大統領もボーリンググリーン虐殺後に同様のことをした」と架空の虐殺事件を使って反論。

 こうしたエピソードから分かるのは大統領と政権に他者への無関心と敬意の欠落、非難に対して即時に報復、または捏造で反論するパターンがあることである。

■マイ・プレジデント

 アメリカに於ける大統領の存在感には圧倒的なものがある。大統領は頻繁にメディアに登場する。重要な問題が起こればゴールデンタイムに演説を行い、全主要チャンネルが生中継する。他国の首脳を迎えた際には華麗な晩餐会を主宰し、春のイースターにはホワイトハウスにたくさんの子どもを招いて一緒に遊ぶ。ホリデーシーズンには貧者へのボランティア活動を行い、毎年恒例の特派員晩餐会ではジョーク演説で全米を笑わせる。その一方、メモリアルデイなど軍事関連の催事では軍人に囲まれ、大統領自身も敬礼を行い、大統領は“米軍最高司令官”でもあることを再認識させられる。

 歴代大統領はアメリカの歴史を形作ってきた最重要人物として子どもたちにも教えられる。中高生になると“建国の父”について学ぶが、ワシントンやリンカーンなど特に重要な大統領の偉人伝は低学年から読む。歴代大統領を一冊にまとめた児童書も多種出ている。1月には通称プレジデント・デイと呼ばれる祝日がある。4人の大統領の巨大な像が刻まれたラシュモア山もある。

 その一方で失策を犯した大統領には厳しい国でもある。ニクソンは盗聴により弾劾され、クリントンもインターンとの浮気によって弾劾寸前までいった。ジョージ・W・ブッシュは政策のマズさだけでなく、うたた寝してイスから転げ落ち、顔に痣を作るといった不注意さが揶揄されることも多かった。こうした大統領の言動は新聞雑誌、トーク番組でパロディにされ、徹底的に笑い者にされる。それでもそこには大統領への敬意から超えてはならない一線がある。国民自身がアメリカを優れた大国と自覚し、非常に篤い愛国心と大きなプライドを抱いていることが理由だ。大統領選が二大政党制ゆえの1対1対決、しかも1年半もの長期にわたることから有権者は否が応でもどちらかを支持せざるを得ない選挙の仕組みもあるだろう。

 ロイヤル・ファミリーへの憧れもある。王族も皇族も持たないアメリカだが、そうした存在への憧れは洋の東西や古今を問わずに共通するのかもしれない。かつてはケネディ一家がその役割を担っていた。今や名の知られた親族は先日まで駐日大使だったキャロライン・ケネディのみだが、今、アメリカでは故ジャッキー・ケネディの伝記映画『Jackie』が公開中であり、主演のナタリー・ポートマンはアカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。

 ケネディ家に変ってロイヤル・ファミリー的ポジションにあったのがオバマ前大統領一家だ。若くハンサムな大統領、朗らかで活動的なファーストレディ、娘2人にペットの犬2頭の家族構成に加え、私的なスキャンダルも無く、まさに理想の一家だった。こうした諸々の背景があり、アメリカ人は支持する大統領を「マイ・プレジデント」と呼び、支持できない場合は「ノット・マイ・プレジデント」と言う。大統領との間に個人的な強い繋がりを見い出しているのである。

 最初に記したトランプの言動により、リベラルはトランプを「理論的でない」「人道に反する」として大統領と認めていない。しかしトランプ支持層はトランプの強硬な姿勢を「強い大統領」と受け取る。移民やテロリストの流入、不景気や失業を恐れ、白人種とキリスト教徒の優位性を取り戻したい人々には「頼もしい大統領」なのである。着眼点がまったく異なる2つの層だが、どちらも大統領の存在に非常な重みを置いている点は同じだ。アメリカは良くも悪くも大統領あっての国なのである。

(初出)インサイト2017年3月号 パワーと多様性の都市をサバイバル〜ニューヨークを生きる第69回



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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 16:17
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オバマ元大統領:演説で4,000万円稼ぎ、若者支援に2億円寄付〜ヒューマン・バラク・オバマ第16回
オバマ元大統領:演説で4,000万円稼ぎ、若者支援に2億円寄付
〜ヒューマン・バラク・オバマ第16回


■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■

 8年間の任期を終えたオバマ元大統領は南洋のパラダイスでのバケーションを存分に堪能し、その後はワシントンD.C.のギャラリーやマンハッタンのレストランに「GQマガジンのモデル」のような出で立ちで現れては、トランプ政権に打ちのめされているアメリカ人民にひと時の幻想を与えた。バラクとミシェルの笑顔を見ると、つい、「あぁ!なんだか良いことが起こりそう!」と錯覚してしまうのである。

 しかし今、バラク・オバマの挙動に若干の批判が起こっている。オバマ氏が9月にウォールストリートの投資銀行カンター・フィッツジェラルド主宰のヘルスケア・カンファレンスで講演し、その演説料が40万ドル(4,400万円)と報じられたためだ。

 さっそく共和党のチャフェツという鬱陶しい下院議員が「稼ぎ過ぎ!大統領の年金を削る!」などと言い出している。大統領時代のサラリーは今回の講演料と同じ額の年40万ドル(※)である。あの激務でこの金額ではまったくもって釣り合わない。さらに年金を削るなど、どれほど嫌がらせがしたいのか。
※他に年5万ドルの経費、10万ドルの旅行費用、1.9万ドルの娯楽費が付く

 共和党のみならず、民主党のバーニー・サンダースやエリザベス・ウォーレン上院議員も「ウォール・ストリートからそれほどの大金を貰うのはいかがなものか」と異議を唱えている。


■若者に200万ドルの寄付

 オバマ夫妻はどんどん稼ぐべきである。贔屓の引倒しと言われるかもしれないが、あのオバマ元大統領が私腹肥やしに執着するとは思えないのだ。ミシェルはかつて、政治家になることに夢中で家庭の経済状態をまるで顧みない夫にため息を付いていたという。(そう言えば、ヒラリーも同じことを言っていた。)

 そんなバラク・オバマは大統領時代にすでにマイノリティ青少年支援のNPOを立ち上げ、「一生続ける」と宣言している。ミシェルはつい先日、ファーストレディ時代に始めた開発途上国の女子教育支援プログラム「Let Girls Learn」を共和党に「廃止する」と発表され、その2日後には新たに建てるオバマ大統領センターで同じプログラムを続けるとツイートしている。貧しい若者や子供を救うための活動資金はいくらあってもあり過ぎることはないのだ。

 そもそも40万ドルの演説で騒いでどうする。バラクとミシェルはそれぞれ来年あたりにホワイトハウス時代の伝記本を出版するが、契約金は2人で6,500万ドル(71.5億円)と伝えられている。出版契約の一部として、出版社は貧しい子供に本の供給を行っているNPOに100万冊の本を寄付することとなっている。

 また、オバマ夫妻は今夏、地元シカゴの「サマー・ジョブ・プログラム」に200万ドル(2.2億円)の寄付を行う。サマー・ジョブ・プログラムとは夏休みの間、14 〜24歳の若者に仕事を斡旋提供する半ば公的な仕組みだ。アメリカの都市部では特にマイノリティの青少年が夏期だけのアルバイトを見つけることは難しい。若者はサマー・ジョブ・プログラムによって仕事を見つけて現金収入を得られるだけでなく、このプログラムに参加したこと自体が「真面目に将来を考えている」ことの証しと捉えられるので履歴書に書ける。また、ここでの仕事=未知の体験が将来のキャリアへのきっかけになることも有り得る。オバマ夫妻の寄付金の多くは若者への賃金として、一部は団体の運営費として使われるはずだ。


■警備の経費

 元大統領および元ファーストレディとして、オバマ夫妻には大きな出費が必要であることも事実だ。次期大統領の就任式1月20日をもってホワイトハウスを出たオバマ一家は、二女サーシャが高校を卒業するまでの2年間、ワシントンD.C.に留まることとした。D.C.の高級住宅地区にある邸宅は白亜の寝室が9つもある豪華かつ歴史ある建物で市場価格は600万ドル(6.6億円)だが、月22,000ドル(240万円)で賃貸している。単なる贅沢ではなく、警備のしやすさを条件に探した結果と伝えられている。

 現行法では元大統領夫妻にはシークレットサービスによる警備が生涯にわたって付く。実は1997年にそれまでの終身警備から引退後10年に変えられていたものを、オバマ大統領が終身制に戻したのだ。

 アメリカの大統領は引退後も何かしらの攻撃のターゲットに成り得るので10年に縮めたのは非常なナンセンスだった。特にオバマ大統領は米国史上初の黒人大統領である。オバマ氏の政治家としての資質、政策、人格ではなく、「黒人である」ことに信じられないレベルの怒りを抱えた人種差別主義者がどれほどいた(いる)かを考えると、夫妻には終身警備が必要である。しかし、この法は将来、また変えられる可能性もある。そうなればオバマ夫妻は自費で警備を賄わなければならない。(過去8年間にオバマ夫妻が受け取った脅迫の類いをホワイトハウスは一切公表していない。アメリカの史実資料としての公開を望む。)

 さらに現行法でも元大統領の子供たちは16歳までしか警備が付かず、すでに18歳で今年の9月からハーヴァード大生となる長女のマリアには公費警備が付かない。この件についてオバマ家からの発表はないが、なにかしらの警備を私費で付けるのではないだろうか。

 いずれにせよ、いわゆる1%のスーパーリッチ企業から多額な講演料や本の出版契約金を受け取り、それをマイノリティの青少年のために使うのである。その活動のためにオバマ一家には少々の警備費と備えが必要なのである。(さらに有り体に言えば、アメリカは黒人奴隷の終身無給強制重労働により経済発展した国である。その結果生まれた1%から得たギャラでマイノリティ支援をするのである。)

 一体、何がいけないと言うのだ?










連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第15回「オバマ大統領が書いた絵本『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』 」+(バックナンバー)






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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 16:52
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オバマ大統領が書いた絵本『むすめたちへの手紙』〜アメリカの多様性〜ヒューマン・バラク・オバマ第15回
オバマ大統領が書いた「絵本」
 『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』
   〜ヒューマン・バラク・オバマ第15回


■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


 バラク・オバマは大統領時代に絵本を一冊出版している。大統領となった翌年、2010年に出された『of THEE I SING - A Letter to My Daughters』だ。(日本語版『きみたちにおくるうた―むすめたちへの手紙』)

(注:以下、英語版を元に書いていますが、いわゆるネタバレとなります)





 2人の娘、当時12才だったマリアと9歳だったサーシャへの手紙の形式で、アメリカの13人の偉人を紹介している。分野・時代・人種・性別・信仰がそれぞれに異なる以下の人々だ。

・ジョージア・オキーフ(画家、白人)
・アルバート・アインシュタイン(物理学者、ドイツからの移民、白人)
・ジャッキー・ロビンソン(野球選手、黒人)
・シッティング・ブル(スー族の長、ネイティブアメリカン)
・ビリー・ホリデイ(ジャズ歌手、黒人)
・ヘレン・ケラー(社会福祉活動家、視覚聴覚障害者、白人)
・マヤ・リン(デザイナー・アーティスト、中国系二世)
・ジェーン・アダムス(社会事業家、白人)
・マーティン・ルーサー・キングJr.(牧師・公民権運動リーダー、黒人)
・ニール・アームストロング(宇宙飛行士、白人)
・シーザー・チャベス(農場労働運動家、メキシコ系二世)
・エイブラハム・リンカーン(第16代米国大統領、白人)
・ジョージ・ワシントン(初代米国大統領、白人)


 絵本は「君たちがどれほど素晴らしいか、お父さん最近言ったことあるかな?」と、父バラクから娘たちへの問いかけで始まる。

 以後、一人の人物につき見開き2ページずつを割いていく。ともすれば「偉人伝」から抜け落ちる黒人、ネイティブ・アメリカン、アジア系、ヒスパニックが含まれているのは意図的だろう。移民、移民の親を持つ二世、障害者も含まれている。オバマ大統領はアメリカ白人の母親、ケニア人である黒人の父親、インドネシア人の義父を持つ。自身はクリスチャンだが、父と義父はイスラム教徒だった。妹は白人とアジアのミックス。その夫はアジア系アメリカ人なのでオバマ大統領の姪っ子は外観は完全にアジア系。オバマ大統領はアメリカ中のどの子どもも親近感とプライドが持てるよう13人を注意深く選んだのだろう。

 13人の職業もバラエティに富んでいるが、憲法学者であるオバマ大統領がリンカーンを深く敬愛していることはよく知られており、ここは当人的に外せなかったのだろうと微笑ましく感じる。

 どのページも最初に必ず「君たちは勇気があると、お父さん言ったことあるかな?」「君たちがクリエイティヴだと、お父さん言ったことあるかな?」「君たちは親切だと、お父さん言ったことあるかな?」と、やはり父が娘たちの長所を語る。

 続いて、各偉人の成したことをわずか4〜6行程度で簡潔に説明する。

 ここにオバマ大統領の文才が表れている。ちなみにオバマ大統領は過去に2冊の自伝をゴーストライターを使わずに書き、ベストセラーとしている。かつては多忙にもかかわらず、演説の原稿を自ら書いていた。ロースクール時代には大学院内新聞の編集長だった。大統領任期中は激務からの解放感を得るために読書をしたと言い、昨年、高校を卒業した長女マリアにはキンドルにたくさんの本を詰めて贈っている。バラク・オバマは本読みであり、かつ優れた文章書きなのである。

 たとえば、1947年に黒人初の大リーガーとなったジャッキー・ロビンソンは他の選手や観客から激しい人種差別を受けた。しかしオバマ大統領の文には「黒人」「白人」「人種」「差別」といった言葉は見当たらない。絵本画家ローレン・ロングによる、ホームランを打った瞬間であろうロビンソンの絵に「バットを優美さと強さで振る」「恐れを敬意に変える」と書き添えてある。

 最後のページにはアメリカは異なる人種,宗教、思想を持つ人々で出来ているとある。

 その後に手をつなぐ父と娘たちの姿がある。現代のアメリカに生きる娘たちはこうした過去の偉人たちと繋がっており、それが娘たちの未来に反映すること、そして父バラクが娘たちを心から愛していることが綴られている。

 つまりこの絵本は単なる偉人伝ではなく、幾つもの目的がある。アメリカを形作った偉大な人々を讃え、その精神を子どもたちに伝える。同時にアメリカの多様性を訴え、そして何より、娘たちへの父の深い愛情を表した一冊なのである。


英語版


日本語版
※スペイン語版、中国語版、ドイツ語版、韓国語版もあり



連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第14回「オバマ大統領は私にも『同胞なるアメリカ人』と呼びかけた」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 02:53
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オバマ大統領は私にも「同胞なるアメリカ人」と呼びかけた。〜ヒューマン・バラク・オバマ第14回

オバマ大統領は私にも「同胞なるアメリカ人」と呼びかけた。〜ヒューマン・バラク・オバマ第14回

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


 オバマ前大統領は演説の最初に聴衆に向ってよく「My fellow Americans,」と呼びかけた。fellow は「同胞の」「仲間の」といった意味を持つ。つまり「私の同胞たるアメリカ人の皆さん」。

 多種多様な人々で構成され、米国籍を持たない人も多いアメリカ。オバマ大統領の言う「アメリカ人」とは、いったい誰を指すのだろうか。

 ここで言うアメリカ人とはアメリカ生まれの米国籍者だけを特定しているのではなく、全米人口3.2億人のすべてを含み、「アメリカに住んでいる人」の意だ。


■アメリカ人? 移民?

 アメリカでは人種も民族も宗教も、親の出身国も関係なく、アメリカで生まれた子はアメリカ国籍者であり、つまり法的にアメリカ人だ。親が外国籍、さらに不法滞在者であってもそこは変わらない。

 外国で生まれ、後にアメリカにやってきた移民は米国市民権を取得すれば法的にアメリカ人となる。市民権を取得せずとも永住権を取れば外国籍のまま永住できる。今回のトランプのムスリム7ヶ国民入国禁止令で最も問題とされたのは、永住権保持者も対象としたことだった。アメリカに永住する権利がある者を入国させなかったのである。

 ある程度の年齢以後に移住すると英語に母国語の訛りが残り、人によっては服装や立ち居振る舞いからも外国生まれだろうと推測できる。しかし幼い時期に移住した人たちの多くは訛りが無く、外観からも外国生まれとは分からない。彼らは家庭で親から祖国の文化や言葉を受け継いではいても教育をアメリカで受けているため、中身はアメリカ人だ。アメリカではこうした人々の中にも市民権保持者、永住権保持者、そして不法滞在者がいる。

 オバマ前大統領が救おうとしていたのが通称ドリーマーと呼ばれる、幼い時期に自分の意思ではなく不法滞在者としてアメリカにやってきて、アメリカで教育を受けて育った若者たちだった。

 ドリーマー擁護の理由は、まず彼らは先にも書いたように文化的にアメリカ人であること。生活の基盤がすべてアメリカにあること。不法滞在者ゆえに母国に戻ったことがなく、ごく幼い時期に渡米した者は母国の記憶すら無い。また、アメリカの税金で教育を施した若者を出身国に戻すのは頭脳や才能、労働力の流出でもある。

 家族離散の問題もある。親子で違法に国境を渡った一家もアメリカで次の子どもが生まれると、その子はアメリカ市民だ。何らかの理由で一家が強制送還になる場合、親はアメリカ生まれで米国籍の子も祖国に連れ帰るか、もしくはアメリカで教育を受けさせるために合法滞在の親戚や知人に預ける選択を迫られる。後者を選んだ場合、ドリーマーと弟妹は離ればなれになるのである。

 こうした若者たち、ドリーマーの問題は政権が移った今、宙ぶらりんのままだ。彼らは今、突然の強制送還策施行をとても恐れている。


オバマ大統領、最後の演説。2017/1/10
"My fellow americans" のフレーズは1'20"あたり。




■3つの国旗を持つアイデンティティ

 移民もアメリカ生まれの二世もアイデンティティは複雑だ。アメリカと祖国の二重国籍者も多い。多くの場合、祖国の文化を内包している。あるラティーナ女性は「私の第一言語はスペイン語!」と英語で説明してくれた。ニューヨーク生まれだがヒスパニック・コミュニティで育ったため、家庭内はもちろんコミュニティ内でもスペイン語が使われ、スペイン語が第一言語だった。小学校から英語とのバイリンガル教育が始まり、子どもたちはバイリンガルとなる。中には英語に傾き、祖国語がおぼつかなくなるケースもある。それを防ぐために今はデュアルリンガル教育もある。英語とスペイン語、英語と中国語……どちらも第一言語として卒業まで学び続けることを言う。

 ニューヨークには年間を通じてたくさんのエスニック・パレードやフェスティバルがある。プエルトリカン・デイ・パレード、カリビアン・アメリカン・デイ・バレード(ジャマイカやハイチなどカリブ海諸国)は規模も大きく有名だが他にもイスラエル、インド、ドミニカ共和国、アフリカ諸国 ……数え切れないほどある。

 そうしたパレードに行くと、祖国とアメリカの2つの旗を降っている人たちを見掛ける。例えば「ドミニカ人であり、アメリカ人でもある」と自覚している人たちだ。アメリカ生まれ、アメリカ市民権取得者、永住権保持者、不法滞在者のどれであるかは関係ない。中には3つの旗を持つ人もいる。「父はジャマイカ人、母はトリニ人、そしてボクはアメリカ生まれ」のように。

 アメリカでは人のアイデンティティに無数の組み合せがある。オバマ大統領自身、アメリカ、ケニア、インドネシアの3つのバックグラウンドを持つ。オバマ大統領はさまざまな法的ステイタス、アイデンティティを持つすべての人々に向って「My fellow Americans,」(私の同胞たるアメリカ人の皆さん)と呼びかけ続けていたのである。


連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」
第13回「トランプと黒人社会の戦争が始まる」+(バックナンバー)





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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 14:09
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トランプと黒人社会の戦争が始まる〜ヒューマン・バラク・オバマ第13回

トランプと黒人の戦争が始まる〜ヒューマン・バラク・オバマ第13回

 今回の大統領選で投票した黒人女性のうち、トランプに票を投じたのはわずか「4%」だった。黒人女性たちは歴史・経験・知性・本能によってトランプを回避しようとした。その願いもむなしくトランプが大統領となった今、黒人社会は今後4年間の在り方を模索し始めている。


■アメリカの大虐殺

 トランプの就任演説は日本語訳もなされたが、アメリカ社会の背景抜きでは伝わり切らない部分がある。

 「都市の中心部(インナーシティ)では母親と子供たちが、貧困に囚われている」

 「インナーシティ」とは都市部のゲトーを指す。住人の多くは黒人とラティーノ。「母親と子供たち」はそこで圧倒的多数を占める貧しいシングルマザー家庭を指す。

 「犯罪とギャングと麻薬があまりにも多くの命を奪い」「このアメリカの大虐殺は正にここで今、終わる」

 同じ段落の中で工業が衰退して貧困化した中西部のラストベルト地帯にも言及しているが、大筋では黒人ゲトーの犯罪を示唆し、それを「アメリカの大虐殺」と言い表している。


■シカゴに連邦軍を!

 1月24日にトランプは以下のツイートをした。

 「シカゴが酷い “大虐殺” が続いているのを止めないのであれば、2017年に228件の発砲事件で42人死亡(2016年から24%増加)、オレは連邦軍を送り込むぞ!」

 相変わらずのぎこちない文章で「!」付きであることはさておき、メディアはさっそく「トランプがシカゴに連邦介入と脅す」の見出しで報じている。

 アメリカ第3の都市であるシカゴは近年、犯罪の悪化に苦しんでいる。ミシェル・オバマの出身地で、若き日のバラク・オバマが地域奉仕家として働いたサウスサイドと呼ばれる地区も含め、大きな黒人インナーシティがあり、そこが手に負えない状況となっている。

 トランプ当選後の昨年12月、トランプの強硬な移民政策を危惧した全米14都市の市長が連名で手紙を書き、シカゴのラーム・エマニュエル市長が代表としてニューヨークのトランプタワーまで届けた。その際、市長はシカゴの状況についても説明した。

 こうした経緯があるにもかかわらず大統領が一市長に対してツイッターで軍隊を送ると唐突に脅迫したのである。ちなみにトランプがいきなりシカゴの件をツイートしたのは、昨日フォックスニュースがシカゴの犯罪率アップを報じた直後。相変わらずの衝動性である。


■ブラック・ライブズ・マター壊滅策

 ホワイトハウスの公式ウェブサイトはトランプの就任と同時にすべて書き換えられた。

 「我らの法執行機関のために立ち上がる」と題されたページに「米国のアンチ警察の空気は危険であり、間違っている。トランプ政権はこれを終らせる」とある。黒人への警察暴力に対抗するために起こったブラック・ライブス・マター運動を指しているのは明らかだ。「トランプ政権は法と秩序(警察が取り締り、法で裁く)の政権となる」ともあり、アンチ警察運動を厳しく取り締まることを示唆している。

 トランプが司法長官に指名したジェフ・セッションズ(現アラバマ州選出上院議員)は人種差別主義者として知られる人物だ。1986年、レーガン政権下で連邦判事に指名された際、Nワードを使った、KKKについてのジョークを発したなど数々の問題発言が公聴会で証言され、非常に稀な指名却下となった経緯を持つ。

 オバマ政権下の二人の司法長官、エリック・ホールダーとロレッタ・リンチは共に黒人への警察暴力問題と闘ったが、セッションズが司法長官になれば全く異なる道行きとなる。


■バラク・オバマへの恨み

 残念ながらシカゴ市民とエマニュエル市長はイバラの道を行くこととなるだろう。

 まずトランプ自身が大変な人種差別主義者である。すでに何度か書いたことだが、1989年にニューヨークのセントラルパークで若いエリート白人女性がレイプの上、瀕死の重傷を負わされ、ハーレムの5人の少年が誤認逮捕される事件があった。この時、トランプは自費で新聞に「ニューヨークは死刑を復活すべし」との一面広告を出した。全員が未成年、最年少14歳に対しての死刑である。また、トランプは経営するアパートに黒人の入居を拒んだこと、カジノの黒人従業員への差別対応などで何度も訴訟を起こされている。

 以下は筆者の主観だが、トランプは執拗な人間だ。「オバマはアフリカ生まれでイスラム教徒」と何年も言い続け、ついに自身も招待されたホワイトハウスの晩餐会でオバマ大統領から大きなしっぺ返しを衆人環視、テレビ中継もなされていた場で喰らった。トランプはこの時の恨みを一生忘れないだろう。

 シカゴはオバマ夫妻の故郷である。市長のラーム・エマニュエルはオバマ政権の初代大統領首席補佐官であり、個人的にもオバマ前大統領の親しい友人だ。トランプはシカゴを徹底的に攻撃し続けるであろう。

 シカゴだけでなく、全米で司法から黒人社会への強硬策、抑圧が善しとされる空気が生まれ、警察暴力が増え、これまで以上に人が死ぬだろう。しかし警官は起訴されず、無罪放免となり、警察と黒人コミュニティの関係はさらに悪化するだろう。子供を持つ母親たち、夫や恋人を持つ女性たちの直感は正しかった。女性たちは闘い続けていかねばならないのである。




連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」(バックナンバー)




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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 00:05
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「You are cool.」子どもたちから大統領への手紙〜ヒューマン・バラク・オバマ第12回

「You are cool.」子どもたちから大統領への手紙〜ヒューマン・バラク・オバマ第12回

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■

「ありがとう。そして楽しんで、国を治めることを〜子どもたちからオバマ大統領への手紙」という本がある。2008年にオバマ大統領が初当選した直後にアメリカの子どもたちが書いた手紙、約100通をまとめたものだ。表紙のオバマ大統領の似顔絵も子どもが描いている。

8年前に書かれた子どもたちの手紙には、当時のオバマ大統領への社会の大きな希望が反映されている。

ある9歳の女の子は「私はあなたに投票しました/私と私の家族はあなたがマケインよりも助けになると思いました」と書いている。9歳に投票権はもちろん無い。親が大統領選について、バラク・オバマについて、子どもにいろいろと話したのだろう。「史上初の黒人大統領」の誕生に国中が盛り上がっていた。希望に溢れていた。親も教師もオバマ大統領について子どもに語り続けたのだ。

この女の子の親は、もしかするとこの子を投票所に連れていったのかもしれない。投票所にもよると思うが、投票ブースに子どもを連れて入っても差し支えはない。だからこの女の子は自分自身がバラク・オバマを次期大統領にふさわしいと判断し、自分も投票したのだと感じているのだろう。この子にとってオバマ大統領はアメリカ人がよく言うように「マイ・プレジデント」なのだ。


Thanks and Have Fun Running the Country: Kids' Letters to President Obama
Edited by Jory John



手紙はワシントン州シアトルの学童保育所の指導者が思い付き、子どもたちに書かせたもの。他州にある同じ系列の学童保育所にも声を掛けたため、手紙はニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ボストン、サンフランシスコなどからも寄せられている。地名と手紙の内容から察するに、どれも都市部にあり、それほど豊かではない家庭の子どもが多いように思える。人種的マイノリティ、移民の子どもも多く含まれている。

多くの子どもが「大統領に当選しておめでとう」に続いて、「大統領として●●をしてください」と、なんらかの社会問題を持ち出している。そこに挙げられている問題は個々の子どもたちが実際に直面しているものであることが多く、子どもたちは親や先生が満面の笑顔で語る新大統領なら、きっと解決してくれるに違いないと大きな期待を寄せていたことが文面から伺える。


■リーマンショックのまっただ中で

「物価を下げるように言ってください。ボクのお母さんとお父さんは働いてなくて、あまりお金がありません」(10歳)

リーマン・ショックは2008年9月15日に起こった。多くの人々が家や職を失い、アメリカは混沌状態となった。大統領選は直後の11月4日。バラク・オバマが勝ち、翌2009年1月20日の大統領就任式を経て第44代アメリカ合衆国大統領となった。就任の瞬間から厳しい経済問題が待ち構えていた。

子どもたちは手紙の中で「増税」「医療保険」「奨学金」について大統領に支援を願っている。4年後に大学に行きたいと言う13歳にとっては、まさに切実な問題だ。子どもたちはまた、街頭で見掛けるホームレスの救済も願っている。「国民全員に毎日10ドルずつ配る」提案がある。ベーシック・インカムを、そうとは知らずに考えついているのだ。(アイスクリームを配る提案もある!)

イラク/アフガン戦争も続いていた。ある少年は「イトコが戦争に行っていた時、とても心配でした」と綴っている。アメリカの子どもにとって戦争は家族が派兵する、ごく身近な事象だ。

移民問題もある。自身はアメリカ生まれだが中南米の祖国に残っている家族をアメリカに呼び寄せる支援をオバマ大統領に願う子ども。家族がキューバ出身で、キューバの当時の窮状を連綿と訴える子ども。

少なくない子どもが自分が大統領であれば何をするかを書いている。「悪い麻薬」を根絶したい7歳児がいる。近所の犯罪を無くしたい子どもがいる。「世界中から好かれていないアメリカ」をなんとかするためにオバマ大統領の手助けをしたい子どもがいる。長官か補佐官に子どもを任命してはどうかと提案する子どもがいる。環境問題を憂い、「水で走る車」を思い付いた子どももいる。

難題を抱えた新米のオバマ大統領を応援する子どももいた。「心配しないで。私と、私の家族と、私の友だちと、私の学校が応援します」(13歳)


■「You are cool.」

子どもたちは自分とオバマ大統領の共通点を見つけようと一生懸命だ。ある7歳の男の子は「ボクもシカゴ出身で、人種ミックスで、カーリーヘアです」と書いている。ある女の子は自分はアラブ系で、オバマ大統領も「半分アラブ系」だと聞いたと書いている。残念ながら、これは大統領選中に広まった誤解なのだが。

他にも「学校に来てください」「子どもと大統領が話せる電話を作ってほしい」など、子どもたちはオバマ大統領をとても身近に感じている。5歳の女の子は「あなたのお家で会えますか?」と書いている。当時11歳と8歳だったオバマ大統領の娘マリアとサーシャに触れたものも多い。年齢が近いだけに、なおいっそうの親近感があったのだろう。オバマ大統領が当選の暁に娘たちに飼うと約束した犬について尋ねるものもある(後にポルトガル・ウォーター・ドッグ種のボーとサニーが飼われることとなった)。ミシェルがあなたを助けますというものも何通かあった。

オバマ大統領は全国民から寄せられる手紙を毎日10通ずつ読んでいる。出先で市民に歓待される際、必ずといっていいほど幼い子どもを抱き上げる。ホワイトハウスで毎年子どもの科学フェスティバルを開催し、子どもたちの発明品を見て回る。黒人とラティーノの少年支援プロジェクトを開始している。

オバマ大統領は子どもに夢と希望を抱かせることが出来る人物だった。子どもたちに「自分もああなりたい」と思わせる大統領だった。子どもたちはオバマ大統領を「Cool」だと思った。子どもたちはオバマ大統領と躊躇なく言葉を交わせた。

だからこそ子どもたちは手紙の中で率直に「ボクの家族は貧しいです」と言い、助けを求めることができた。彼らが手紙で訴えた問題は、今も重要な課題であり続けている。それらを全て解決できれば、アメリカと世界は今よりはるかに良くなるはずだ。冗談でもなんでもなく、大統領と政府は子どもの声にもっと耳を傾けるべきなのかもしれない。

8年前に手紙を書いた5歳から13歳の子どもたちは今13歳から21歳となっている。彼らにもう一度、オバマ大統領への手紙を書いてほしい。過去8年間に何を思い、何をして、これから先、大統領ではなくなるバラク・オバマに何を望み、トランプが大統領となる今後のアメリカをどう考えているのか。ぜひ聞かせて欲しい。

「あなたはぜったいに悪い言葉を使わないと思います」(7歳)




連載「ヒューマン・バラク・オバマ・シリーズ」(バックナンバー)




ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 22:08
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黒人の子どもにオバマ大統領が必要だった理由〜ヒューマン・バラク・オバマ第11回

黒人の子どもにオバマ大統領が必要だった理由〜ヒューマン・バラク・オバマ第11回

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


 オバマ大統領が無類の子ども好きなことはよく知られている。


 ホワイトハウスにはピート・ソウザという専属フォトグラファーがいて、ホワイトハウス内はもちろん、オバマ大統領が行くところどこでも同行し、大量の写真を撮ってはホワイトハウス公式ウエブサイトや公式インスタグラムにアップしている。各メディアもソウザ氏の写真を使うことが多い。政治的な緊張感が漂う写真も多いが、目を引くのは子どもとオバマ大統領の写真だ。



■オバマ大統領はホワイトハウス職員に子どもが生まれたと聞くや、「連れてきて」と頼むという。職員も激務のはずなのでそうそう簡単ではないと思えるのだが、それでも皆、連れてくる。赤ちゃんは大統領の執務室、オーバル・オフォスのカーペット敷きの床をハイハイし、オバマ大統領はスーツ姿のまま跪いて一緒に遊ぶ。時には床に寝転び、赤ちゃんを“高い高い”する。

●執務室の床で赤ちゃんと遊ぶ(写真)

●ホワイトハウス職員の赤ちゃんとご対面(写真)

●「いないいないばあ」(写真)




■オバマ大統領が全米各地、世界各国に出掛けると、必ず市民が歓迎のために集まる。オバマ大統領は人々と握手し、中に赤ちゃんを連れた人がいると必ずといっていいほど赤ちゃんを抱き上げる。過去8年間でオバマ大統領は世界中のいったいどれほどの赤ちゃんを抱っこしたのだろうか。

●赤ちゃんを抱き上げる(写真)

●プラハの米国大使館で赤ちゃんを抱っこ(写真)




■ソウザ氏によると、幼児は当然カメラなど気にせず思うままに行動する。ゆえにとても面白い被写体となる。

●お医者さんごっこ(写真)

●幼稚園で園児と共に(写真)

●時にはなついてもらえないことも(写真)




■子どもは大人が本気で自分を気に掛けているかどうかを本能的に知る。子どもたちにとっては大統領とはいえ、単に初めて会う“おじさん”に過ぎない。それでもオバマ大統領と共に撮影された子どもたちは全幅の信頼を寄せた表情で大統領に抱きついたり、大統領の目を見つめていたりする。


●男の子の頭をなでる(写真)

●リンカーンの肖像の前で(写真)

●ミネソタの学校にて、抱きつかれる(写真)




■もう少し年齢が上がり、大統領とはどういった立場の人かを理解している子どもになると、憧れと敬意の混じった眼差しでオバマ大統領を見つめている。

●オバマケアについての演説を聞く少年(写真)

●ホワウトハウス恒例の子ども科学フェアで大統領を撮影する少女(写真)

●サウスカロライナ州黒人教会乱射事件の犠牲者の娘たち(写真)




■オバマ大統領は人種もエスニックも関係なく、全ての子どもが好きだ。子どもたちも同じ。

●オバマ大統領のいちごパイをほうばる少年(写真)

●ローマ教皇に手紙を渡した不法移民の娘をホワイトハウスに招待(写真)

●マレーシアで難民の子どもたちと語る(写真)




■だが、奴隷制に基づく根強い黒人差別が今も残るアメリカゆえに、黒人の子どもにとって米国史上初の黒人大統領には格段の意味がある。それを象徴するのが、この写真だ。オバマ大統領が就任した2009年。ブッシュ政権に仕えていたホワイトハウス職員が「ホワイトハウスを去る前にぜひ大統領に謁見したい」と願い、実現した際のもの。

●オバマ大統領の髪をさわる5歳のジェイコブ(写真)

 以下は職員の息子で当時5歳のジェイコブとオバマ大統領の会話。

ジェイコブ「……ボクの髪が大統領の髪と同じか知りたいです」

大統領「自分で触ってみたら?」

ジェイコブ(ためらう)

大統領「触って、ほら!」(と頭を下げる)

ジェイコブ(触る)

大統領「どう?」

ジェイコブ「はい、同じです」

 黒人にとって肌の色だけでなく、髪の質も黒人であることの強い象徴であり、プライドとなることもあれば、白人優位の社会にあって大きなコンプレックスにもなる。オバマ大統領の存在は黒人の子どもに「自分と同じ外観の人が大統領なんだ!」という驚きと、「だったら自分も大統領になれるかもしれない」という希望(Hope)を与えた。歴史がもたらすダメージが今もあるからこそ、黒人の子どもには勇気付け、動機付けが必要となる。

 ホワイトハウスの壁に飾られているこの写真は、ワシントンD.C.のスミソニアン・アフリカン・アメリカン歴史文化博物館にも展示されることとなった。

 “大統領とファーストレディとして、バラクと私は同じ取り組み方をしています。なぜなら私たちの言葉と行動は私たちの娘だけでなく、アメリカ中の子どもにとって重要だからです。「テレビであなたたちを見ました。学校の作文であなたたちのことを書きました」という子どもたち。夫を尊敬の眼差しで見上げ、希望で大きく目を見開き、「僕の髪も大統領みたい?」と思うあの小さな黒人の男の子みたいな子どもたちにとって。”(ミシェル・オバマ)

●執務室で大統領とセルフィーを撮る黒人の兄弟(写真)

 大統領は政治的使命を果たせば子ども好きである必要はない。しかし、オバマ大統領の個人的な資質である子ども好きは、この国の多くの子どもに大きな夢と希望を与えた。子どもたちはやがて国の将来を担っていく。オバマ大統領8年間の最大の功績は、子どもという国の礎を培ったことかもしれない。

 

 

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ヒューマン・バラク・オバマ
第1回:父親としてのオバマ大統領〜「私はフェミニスト」
第2回:バラク・オバマは「黒人」なのか〜人種ミックスの孤独

第3回:マイ・ブラザーズ・キーパー〜黒人少年の未来のために
第4回:“二重国籍疑惑”の大統領候補たち〜「生まれつきのアメリカ人」とは?
第5回:ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由
第6回:大統領はクリスチャン〜米国大統領選と宗教
第7回:不法滞在者となってしまった子どもたち〜合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ
第8回:不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦〜法の不平等を正す
第9回:マイ・ブラザーズ・キーパー〜黒人少年の未来のために(全文掲載)
第10回:ミシェル・オバマを「サル」〜メディアを読まない医師・教師・町長





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ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

 

author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 09:34
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ミシェル・オバマを「サル」呼ばわり〜メディアを読まない医師・教師・町長 〜ヒューマン・バラク・オバマ第10回
ミシェル・オバマを「サル」呼ばわり〜メディアを読まない医師・教師・町長 〜ヒューマン・バラク・オバマ第10回

 「ヒューマン・バラク・オバマ」シリーズの一環として、今回はミシェル・オバマの人生について書くつもりだった。ファーストレディとなる前は錚々たるビジネス・キャリアを築き、ホワイトハウス入り後は外交的でフレンドリーなキャラクターを披露し、数々の重要な社会貢献を行い、同時にファッション・アイコンにもなったミシェル。なにより夫バラク・オバマ大統領とこれ以上はないほどの見事なパートナーシップを発揮。ミシェルは万人に愛され、昨年の大統領選で米国史上初の女性大統領になると思われていたヒラリー・クリントンが破れるや、たちまち「ミシェルを次期大統領に!」の声が巻き起こった。

 それほどの人気を持つミシェルゆえに、逆にレイシストのターゲットになり続けている。大統領選後、ミシェルへの誹謗中傷事件が大きく報じられただけで4件ある。いずれもミシェルを黒人への典型的な差別表現である「サル」呼ばわりしたものだ。驚くべきは4件ともトランプのコアな支持層とされた貧しい労働者ではなく、団体幹部と町長、医師、政治家志望で教育委員会メンバーのビジネスパーソン、そして教師によって為されたという部分だ。大統領選中からトランプ支持者の多くが主流メディアを嫌い、偽ニュースに翻弄されたと報じられていたが、今回の4件はそれが高学歴者にも広がっていることを示す出来事なのである。


■「ヒールを履いたサル」

 ウェストバージニア州の小さな町、クレイ郡。昨年11月の大統領選直後、パメラ(パム)・テイラーという女性がフェイスブックに以下のコメントを書き込んだ。

「ホワイトハウスに上品で、美しくて、凛としたファーストレディを迎えることにワクワクする。ヒールを履いたサルを見るのにウンザリなのよ」

 テイラーは政府からの基金を郡内の高齢者と低所得者に配分するNPOの所長だった。この書き込みを見た同郡の町長、ビバリー・ウェイリングは「パム、よくぞ言ってくれた」とリプライした。

 たちまち大きな非難が巻き起こり、全米のメディアで報じられた。二人を解雇するためのオンライン署名は20万人を超えた。町長は即、辞任。テイラーはいったん停職となった後、12月に解雇された。二人とも謝罪コメントの中で「私はレイシストではない」と主張している。さらにテイラーは「脅迫を受け取った」、激しい批判は「私へのヘイトクライムだ」と語ったとも伝えられている。

 クレイ郡の人口は8,900人。白人が98%を占めている。黒人はわずか0.02%とあり、換算すると2人未満となる。


■「モンキー・フェイス」

 12月初頭、コロラド州の小児麻酔専門医ミシェル・ヘレンはフェイスブックでミシェル・オバマを称賛する書き込みを読んだ後、以下の書き込みを行った。

「サル顔で、ずさんな黒人英語!!! ホラ!!! (これを書いて)気分がいいけれど、私はレイシストじゃない!!」

 これも瞬く間に非難囂々となり、ヘレンはメディアに対して「“モンキー・フェイス”が侮辱的だとは思わなかった」と苦しい言い訳をしている。

 ヘレンは病院を解雇され、教鞭を取っていたデンバー・メディカル・スクールも学生からの苦情により解雇された。



■「ゴリラと洞穴で暮せ」

 カール・パラディノはニューヨーク州北西部のバッファローという都市の不動産業者であり、同市の教育委員会のメンバー。トランプの友人であり、昨年の大統領選ではニューヨーク州のトランプ選挙キャンペーン共同委員長を務めた人物だ。前回のニューヨーク州知事選に立候補もしているが、民主党の現職知事に破れている。

 パラディノはクリスマス直前に地元の週刊新聞社からメールによるアンケートを受け取り、以下の内容を返信した。

Q:2017年に起こって欲しいことは?

A:バラク・オバマがウシとヤってるところを見つかって狂牛病に罹ること。裁判の前に死に、国家への叛乱煽動と背信で有罪になり、ジハーディストの同房囚人に最初は善人と思われた後に首を切断されて一週間前に死に、牧草地に埋葬されたバレリー・ジャレットの隣りに埋められること。

※バレリー・ジャレットはホワイトハウス上級アドバイザーでオバマ大統領の親しい友人

Q:2017年にうっちゃってしまいたいことは?

A:ミシェル・オバマ。男に戻してジンバブエの奥地に放ったら、ゴリラのマキシーと洞穴で快適に暮らせるだろう。

 現在、パラディノは激しく非難されているが、今回の事件以前からレイシストとして知られる人物だけに当初は「これくらい、なんだ」という態度を取った。だが、教育委員会辞任要求の声が高まると、長文の謝罪文を出した。

 謝罪はあくまで「貧困のサイクルに捉えられたマイノリティの子どもたち」に向けられ、同時に自分がいかに貧者と子どもたちに尽くしているかを長々と綴っている。ミシェルとオバマ大統領への謝罪はなく、逆に「エリート集団」を率い、「アメリカの価値観に対する裏切り者」であるにもかかわらず、「主流のメディア」が称賛するため、自分が「ユーモア」で貶めたとある。

 「ユーモア」を込めたアンケート回答は友人たちにジョークとしてメールするつもりだったが、うっかり新聞社に返信してしまったと釈明にならない釈明をしている。さらに、この件で自分を非難する層を「今は進歩的な活動家と呼ばれている寄生虫」と表し、「トランプによる教育改革をせねばならない」ので、「教育委員会を辞任はしない」とある。最後は「私はもちろんレイシストではない」で締められている。

 長文であることを別にすると、思考があちこちに飛ぶ様が驚くほどトランプを思い起こさせる手紙だが、トランプ派の考えを知る手がかりになる。

 バッファローはニューヨーク州だが、工業が衰退した中西部エリアを指す“ラストベルト”に含まれる。1960年代以降に経済が急降下し、今では住人の3人に1人が貧困。衰退に伴い、白人が減ってマイノリティが増え、現在は白人46%、黒人39%、ヒスパニック11%、アジア系3%の比率。全米の人口25万人以上の都市の中ではマイアミ、クリーブランドに次いで3番目に貧しいとデータが出ている。パラディノが言うように「エリート」「主流派メディア」「プログレッシブ(進歩派)」が嫌われる土壌なのである。

 それでもパラディノの言葉を教育者にふさわしくないと考える住人は年末ギリギリまでパラディノの辞任要求デモを続けた。教育委員会は12月29日にパラディノに辞任を求める採決を行った。パラディノが辞任しない場合は州の教育庁に訴えるとのこと。


■「ファースト・チンパンジー」

 アーカンソー州の公立高校の科学教師、トレント・ベネットはクリスマス・イブに「ミシェル・オバマはアメリカのファースト・チンパンジー」とフェイスブックに書き込み、年内に解雇された。

 オバマを "Obummer" と綴っているのは、"bummer"(嫌なこと、不愉快なこと)との掛け合わせと思われる。そのコメントを批判されると、「あの嫌らしいチンパンジーと、ダンナのクモザルが永久に居なくなるのはいい気分だ」と返信。別の書き込みでは独立戦争時の英国に対する暴動(叛乱)と、近年の黒人への警察暴力から派生した暴動を比較している。

 「これらの暴動の違いは……1776年は課税と抑圧の象徴を打ち壊すことだった。(メディアによる伏せ字)なサルどもはゴロツキ(伏せ字)みたいに、それを略奪と窃盗の言い訳にしている。『オレがどれほど(伏せ字)なロクデナシか見てみろ』以外のメッセージはない」

 この教師が勤務していた高校はアーカンソー州ホットスプリング郡にある。人口3万人。人種構成は白人87%、黒人10%で、他の人種はほとんどいない。


■ニュースを読まない高学歴者

 黒人がいつまでたっても「サル」と呼ばれ続けることに驚きを隠せないが、これがアメリカの実態なのである。同様の差別は一般の黒人にも起こっているが、ミシェル・オバマのような成功者は「黒人のくせに」と妬みの対象となり、さらには大統領夫人という立場から「自国が黒人に統治された」ことへの激しい怒りが含まれる。

 それよりも驚かされるのは、全員大卒または院卒でまともな職に就いていながら、メディアに目を通していないことだ。大統領選直後にトランプ当選に興奮して「ヒールを履いたサル」と書いた団体幹部と町長の件を知っていれば、同じようにフェイスブックに「サル」の書き込みはしなかっただろう。高校教師はいまだに「オバマはケニア生まれ」とも書いていたという。オバマ=ケニア生まれ説を延々と唱えてきたトランプでさえ選挙戦終盤には嫌々ながらも「オバマはアメリカ人」と認めたが、それを知らなかったのか。または「選挙戦略上、仕方なく認めただけ」と思っているのか。医師は「リベラル」嫌悪も見せていた。狂牛病、斬首など身内のジョークとしても度の過ぎたことを書いたパラディノははっきりと「主流メディア」を嫌っていることを示している。

 極度の黒人差別主義者は保守派でもあり、「リベラル」な主流メディアを嫌って意図的に無視しているのである。しかし、上記の件は各地域のローカル・メディアも報じているはずだ。上記の5人はそれすら無視することにより自身の生活を破滅させてしまったわけだが、ことは個々の憎悪者に留まらない。教師や教授を含め、他者に強い影響力を持つ高学歴者が報道に目を通さない社会が出来上がりつつあるのだ。これまで以上に相手の人格や能力を鑑みず、肌の色によって見下すことが「普通」になる可能性がある。何をどう頑張っても「サル」と呼ばれるマイノリティは快復不可能なまでに傷付き、社会にも歪みが生じる。

 常に凛と背筋を伸ばし、その表情から強い精神力が伺いしれるミシェルにしても、度重なる暴言を聞き流がせているとは到底思えない。深く傷付いているに違いない。

 退任後のプランを聞かれたオバマ大統領が「妻を労う」ためにも一年間は自宅に留まって本を書くと言った理由はここにある。

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ヒューマン・バラク・オバマ
第1回:父親としてのオバマ大統領〜「私はフェミニスト」
第2回:バラク・オバマは「黒人」なのか〜人種ミックスの孤独
第3回:マイ・ブラザーズ・キーパー〜黒人少年の未来のために
第4回:“二重国籍疑惑”の大統領候補たち〜「生まれつきのアメリカ人」とは?
第5回:ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由
第6回:大統領はクリスチャン〜米国大統領選と宗教
第7回:不法滞在者となってしまった子どもたち〜合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ
第8回:不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦〜法の不平等を正す
第9回:マイ・ブラザーズ・キーパー〜黒人少年の未来のために(全文最掲載)





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
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author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 01:45
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マイ・ブラザーズ・キーパー 〜 黒人少年の未来のために:ヒューマン・バラク・オバマ第9回
マイ・ブラザーズ・キーパー 〜 黒人少年の未来のために:ヒューマン・バラク・オバマ第9回
 

■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■


今から2年前、オバマ大統領は「マイ・ブラザーズ・キーパー」と名付けたプロジェクトを立ち上げた。"my brother's keeper" とは聖書の創世記にあるカインとアベル兄弟の物語からの言葉で、今では「同胞や同志を見守る者」の意味で使われている。その名のとおり、このプロジェクトの目的は教育や就職で不利な立場にある黒人とラティーノの男子青少年を成功に導くべく支援することだ。


オバマ大統領がこのプロジェクトを立ち上げるきっかけとなったのは、前号「第2回:バラク・オバマは『黒人』なのか〜人種ミックスの孤独」でも少し触れたトレイヴォン・マーティン射殺事件だった。


2012年2月、フロリダ州。当時17 歳の黒人少年トレイヴォンはジュースとキャンディを買いにコンビニに出掛け、帰りは雨が降っていためフーディ(パーカーのフード)を頭に被っていた。それを見掛けた自称自警団の男が「怪しい」とトレイヴォンの後を付け、揉み合いとなった挙げ句にトレイヴォンを射殺してしまった事件だ。


この事件は黒人社会に大きなショックを与えた。「コンビニ帰りの黒人高校生がフーディを被っていたために殺された」 - 全米の全ての黒人の若者にとって「明日は我が身」であり、親は「自分の息子にも起こり得る」と震撼した。


それはオバマ大統領も同じだった。事件後、オバマ大統領は「もし私に息子がいれば、トレイヴォンのようだっただろう」「この少年のことを考える時、私は自分の子どもたちのことを考えてしまう」と語った。オバマ大統領の長女マリアはトレイヴォンとわずか3歳違いだ。


この事件の裁判は翌2013年7月に行われ、証人喚問がテレビ中継されるなど全米が固唾をのんで見つめる中、犯人はまさかの無罪となった。黒人社会は再び大きく動揺し、人々は怒りを露にした。


無罪判決の翌週、オバマ大統領は再度のスピーチを行った。過去に「黒人として」の発言をほとんどせず、事件直後のスピーチでもトレイヴォン、自分自身と娘たちが黒人であることを敢えて「黒人」という言葉を使わずに表した大統領が、この時は黒人男性としての心情を露にした。過去に自身が受けた人種差別の例をい くつも挙げ、「トレイヴォン・マーティンは35年前の私だったかもしれない」と言い、「アフリカン・アメリカン・コミュニティ」「アフリカン・アメリカン・マン」「アフリカン・アメリカン・ボーイ」という言葉を繰り返した。「同じことが白人の少年に起こっていれば結果は全く違っていただろう」「貧しい黒人地区では暴力が蔓延し、貧困と機能不全は過去の困難な歴史(奴隷制)に繋がっている」とまで言い切った。


そのスピーチでオバマ大統領は多くの黒人少年がネガティブな環境にあり、彼らには支援が必要なこと、そのための方策をファーストレディのミシェルと盛んに話し合っていることも語っている。この時は誰も知る由もなかったが、この「支援」が翌2014年に発足した「マイ・ブラザーズ・キーパー」だったのである。


■大統領自らNPOを設立

「マイ・ブラザーズ・キーパー」が掲げる6つの指標
1)幼児への就学準備
2)小学3年生での学年に見合った読書力
3)高校卒業
4)大学または職業訓練
5)就職
6)暴力の抑止と犯罪歴を持つ若者の社会復帰

まさに「ゆりかごから墓場まで」の短縮バージョンとも言うべき、「4歳から20代まで」を対象としたプロジェクトだ。

1)早期幼児教育

アメリカでは小学校に1年だけのキンダーガーテン(5歳児対象の幼稚園)が付属していることが多く、義務教育ではないものの実質的には小学校の最年少学年の扱い。したがって4歳児対象のPre-K(プリ・キンダーガーテン)に通うかどうかで学校で勉強することへの慣れの有無が変わってくる。そこで最近は家庭の所得にかかわらず、全4歳児のPre-K入学を目指す風潮となっている。

しかし、後の学力の育成はPre-K 以前からすでに始まっている。オバマ大統領も引用したように、貧しい家庭の子どもが生まれてから3歳までの間に耳にする言葉の累計数は、豊かな家庭の子どもに比べて3,000万語も少ないというショッキングな調査結果がある。英語では「You」「are」「smart!」を3語と数えるので膨大な数となっているが、それを差し引いてもこの差を縮めるのは容易ではない。

この大きな差の理由は、親や養育者が乳幼児に話しかける頻度だ。乳児院や託児所に入れた場合も月謝が高額なほど職員の数が多く、個々の子どもへの話しかけの数が増える。富裕層はナニーを雇うため、親は不在でも付きっきりの話しかけが行われる。

子どもへの話しかけの語数と内容は親の教育レベルによって異なる。例えば親子でテレビやタブレットなどを観ている時にクジラが写ったとする。無言で観続けるか、「大きいね!」だけで済ませるか、「クジラはお魚じゃなくて動物なのよ」と教えるか。

また、黒人社会では一人親家庭が過半数をはるかに超えており、家庭に大人が一人しかいないことも影響していると思われる。子どもは大人の会話も無意識に聞き、言葉を覚えていくため、大人同士、さらに言えば高学歴者同士による豊かなボキャブラリーと正しい文法の会話が豊富にある家庭の子どもが有利となる。

こうした一見些細な日々の事象が3年間繰り返され、積もりに積もった結果、3,000万語の差となる。つまりPre-K入学の時点ですでに差がついているのだが、その差を広げないためにPre-Kの完全普及が必要と考えられている。

2)小学校3年生での学年に見合った英語力

アメリカでは子どもの話す能力と読み書きの能力に大きな隔たりがあり、大人顔負けに話せても年齢相応のレベルで本が読めない子どもが多い。読めないと問題も解けず、ELA(英語の授業。日本の国語に相当)だけでなく、全ての教科の成績が上がらない。そこで読み書き能力のリカバリーが難しくなる小学4年生以前に学年相応の読む力を付けさせることを目指す。

小学4年生の「読む力」が学年相応またはそれ以上の生徒の割合(2015)
 白人:46%
 黒人:18%
 ヒスパニック:21%
 アジア系:57%


3)高校

アメリカでは高校入学の時点ではまだ義務教育年齢なので、所得も成績も関係なく全員が高校に進学する。しかし黒人やヒスパニックの生徒は上記のように基礎教育でのハンデがあるために優秀な高校に進む率は少なく、高校中退率も高い。

高校中退率(2014)
 白人男子:5.7%
 黒人男子:7.1%
 ヒスパニック男子:11.8%
 アジア系:2.5%(男女)

中退は免れても成績の低い者は留年する。ニューヨーク市の場合、高校を4年で卒業(アメリカの高校は4年制)する生徒は白人とアジア系では80%以上なのに対し、黒人とヒスパニックは64〜65%と出ている。

また、トップレベルの高校になると黒人の生徒が極端に少なくなる。ニューヨーク市のトップ公立校、スタイヴサント高校は全校生徒3,300人のうち黒人はわずか40人程度、比率にすると1%に過ぎない。ニューヨーク市の黒人人口比は26%、公立校に通う就学年齢人口に限ると32%を占めるにもかかわらず。


4)大学/職業訓練

高校の成績と卒業率は当然、大学進学率に大きく反映する。

大学進学率(2年制または4年制)(2014)

 白人男子:40.2%
 黒人男子:28.5%
 ヒスパニック男子:30.3%
 アジア系(男女):65.2%

黒人の学生は卒業率も低い。貧困から学費不足となるケースもあるが、優秀な大学に進むほど白人の学生に囲まれることとなり、文化的に馴染めないケースも少なくない。今年5月、オバマ大統領の母校でもあるコロンビア大学の黒人女子学生が行方不明となった。携帯電話と銀行口座が契約解除され、フェイスブックも閉鎖されていたために事件性が心配されたが、11日後に無事発見された。ケンタッキー州出身、科学専攻の全額奨学金生、つまり非常に優秀な学生だったが大学に馴染めず、「逃げ出してしまいたかった」のが理由だった。

大学卒業率(4年制を4年で終えた者の率)(2008入学生)
 白人男子:38.1%
 黒人男子:16.2%
 ヒスパニック男子:25.7%
 アジア系:42.5%

5)就職

黒人の失業率は白人の約2倍。
失業率(16歳以上)(2016年第2四半期)
 白人男性:4.2%
 黒人男性:8.3%
 ヒスパニック男性:5.6%
 アジア系男性:3.8%

高校中退年齢に当たる16〜17歳に限ると差は大幅に広がる。
 白人男性:18.0%
 黒人男性:43.0%

2年制または4年制の大学を卒業直後の若者が含まれる20〜24歳の男性の場合も、やはり大きな差が出ている。
 白人男性:7.5%
 黒人男性:18.9%

黒人男性の中でも特に若者の就職が非常に難しいことがはっきりと出ている。

6)暴力の抑止+犯罪歴のある若者の社会復帰

学歴が無く、親や親族もまた学歴や職歴のないことから就職のコネも少ない黒人の若者たちは現金を得るために犯罪に走ることになる。

刑務所収監率(18歳以上、人口10万人当たり)(2014)
 白人男性:465人
 黒人男性:2,714人
 ヒスパニック男性:1,091人
 その他(アジア系男性を含む):968人


黒人男性100人中2.7人が刑務所に入っていることになるが、このデータは懲役1年以上のものであり、短期刑の者、裁判待ちの間に留置場にいる者、17歳以下は含まれていない。また、すでに出所済みの者を加えると膨大な数の黒人男性が犯罪歴を持っていることになり、就職の大きな障害となっている。

収監者も年齢別に見ると、やはり高校留年後の中退や卒業の直後に当たる18〜19歳で最も人種別の差が開き、なんと10倍となっている。この数値の高さは、これもオバマ大統領が示したように「司法の不平等」も理由となっている。同じ犯罪を犯しても白人と黒人では起訴/不起訴、有罪/無罪、そして量刑が変わってくる。

刑務所収監率(18〜19歳、人口10万人当たり)(2014)
 白人男性:102人
 黒人男性:1,072人


■負のサイクル

子どもの貧困率(2014)
 白人:12.3%
 黒人:36.0%
 ヒスパニック:31.9%
 アジア系:12.0%

幼児期からの基礎学力を上げて高校中退を防ぎ、大学の学費を支援すると同時に、黒人が精神的にも中央社会に入りやすいよう他人種との交流を広げる必要がある。大学卒業率を上げ、職業訓練も充実させることによって就職率を上げ、犯罪に加担する者を減らす。すでに犯罪歴のある者には職業訓練と就職斡旋を行う。これだけの支援を行って初めて黒人とヒスパニックの若者たちは貧困から脱することが出来る。しかし、そもそも貧困家庭では幼児期の基礎学力育成が難しく……

この負のサイクルを打ち破るためには、上記6つの指標達成を同時に進めていくしか道はない。


■生涯を通じての使命

「マイ・ブラザーズ・キーパー」設立1周年のイベントで、オバマ大統領はプロジェクト参加者のアレックスという少年を紹介した。

「アレックスは米領ブエルトリコで生まれ、ニューヨークのブルックリンとブロンクスという粗っぽい地区で育ちました。11歳の時、お母さんの親友で、アレックスが尊敬していた男性が射殺されるのを目撃してしまいました。アレックスの兄たちは高校を中退し、ドラッグと暴力に搦めとられてしまいました。アレックスは自分自身も人生の選択など無いと思い、より良い将来への道を思い描くことが出来ず、やがて学校を中退。しかし、お母さんが復学してGED(高校中退者対 象の卒業資格)を取得しました。このことが彼にも復学してGEDを取ろうと思わせたのです。『何が起ころうと人生にはセカンド・チャンスがあると母が教え てくれた』ー これがアレックスがお母さんについて語った言葉です」

オバマ大統領は自分にも父親がいなかったこと、しかしアレックス同様に母親がロールモデルであったこと、そしてアレックスは今、弟たちのロールモデルであることを付け加えている。

「マイ・ブラザーズ・キーパー」は設立2年目には600万ドルもの資金を集め、アメリカ全50州の250地域が参加。各地でそれぞれ生徒へのメンター手配、夏休み中の仕事/インターン手配、ギャングの暴力抑止プログラム、過剰な停学処分の緩和、そしてホワイトハウスでの科学フェアなど様々な活動を展開している。

「なぜ男子だけへの支援なのか」「しょせん焼け石に水」といった批判もある。しかし、誰かがどこかで始めな ければならない仕事だった。オバマ大統領は自身が持つパワーをフルに使い、このプログラムを開始した。きっかけはトレイヴォン・マーティンだった。トレイヴォンの死を無駄にはしないことをバラク・オバマは誓ったに違いない。オバマ大統領は「マイ・ブラザーズ・キーパー」を「生涯を通じての使命」と宣言して いる。 -END-

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連載ヒューマン・バラク・オバマ
第1回:父親としてのオバマ大統領〜「私はフェミニスト」
第2回:バラク・オバマは「黒人」なのか〜人種ミックスの孤独
第4回:二重国籍疑惑の大統領候補たち〜「生まれつきのアメリカ人」とは?
第5回:ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由
第6回:大統領はクリスチャン〜米国大統領選と宗教
第7回:不法滞在者となってしまった子どもたち〜合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ
第8回:不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦〜法の不平等を正す





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

 

author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 21:14
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不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦〜法の不平等を正す
不当長期刑のドラッグディーラー1,300人を恩赦〜法の不平等を正す
〜ヒューマン・バラク・オバマ第8回


■人間としてのバラク・オバマと、彼がアメリカに与えた影響を描く連載■

 先週の金曜日。オバマ大統領は冬の休暇で故郷ハワイに赴く前に、153人の刑務所収監者に恩赦/減刑を与えた。これで累計1,324人となる。うち395人 は終身刑だった。すでに過去11人の大統領が与えた恩赦の合計数を上回っている。

 オバマ大統領の大量恩赦はアメリカが長年格闘してきた「ドラッグ戦争」に基ずく。ドラッグ戦争の「解決策」は大量の黒人を刑務所に閉じ込めることだったが、それは黒人社会を崩壊させこそすれ、何の解決にもならなかった。

 ベトナム戦争帰りの兵士が大量にドラッグ中毒となったことからニクソン大統領の時代からドラック対策が本格的になるが、決定打となったのは1986年にレーガン大統領が制定したADAA(アンチ・ドラッグ・アビューズ・アクト)と呼ばれる法だ。

 どれほど取り締まってもドラッグは無くならないどころか、1980年代に入るとクラックと呼ばれる安いコカインが大流行した。クラックを取り締まるため作られた非常に厳しい法律がADAA法だった。クラックは同じコカインであっても粉末に比べると甚大な害悪をもたらすとされ、クラック所持の刑罰は粉末コカインの100倍と定められた。クラック5グラムの所持で最短5年の刑となり、対して粉末コカインは500グラムの所持で同じく5年の刑。これが最短の刑期と定められ、判事たちはケースごとの判断や情状酌量を禁じられてしまったのだった。

 上記の説明から漏れているのは、粉末コカインの利用者は白人、クラックの利用者は黒人だったことだ。

 以後、刑務所の収監人口は爆発的に増えていく。以下は全米の刑務所/留置所の収監人数の合計。現在は230万人を超えており、アメリカは世界最大の刑務所王国となっている。ドラッグにまつわる受刑者は5人に1人。

1970年 - 357,292人
1980年 - 513,900人
1986年 - ADAA法施行
1990年 - 1,179,200人
2000年 - 2,015,300人


 現在、黒人の全米人口比は13%だが、刑務所人口の実に40%を占めている。男性に限ると黒人の3人に1人は生涯のうちどこかで刑務所に入り、白人は17人に1人の計算になるとされている。

 なぜ、それほど多くの黒人がドラッグ密売をするかと言えば、黒人社会に貧困と犯罪の無限ループがあるからだ。まず、職がない。就職できない理由は人種による雇用差別ももちろんあるが、教育(学歴)の欠如が大きく作用している。なぜ教育を受け損ねるかというと、貧困地区に生まれ、勉強をしようにも出来ない環境に育つからだ。加えて子どもの頃から親も含めて周囲の若者や大人に犯罪に手を染めている者が多く、感覚がマヒしていく。やがて自身も落ちこぼれると、高校中退の黒人男子に就職などあるはずもなく、結果的に犯罪に走ることとなる。そうした若者がやがて子を作り……貧困と犯罪の再生産である。


オバマ大統領から恩赦/減刑の受刑者に宛てた手紙。

「民主主義では人は間違いを犯した後もセカンドチャンスに価します」「元犯罪者を疑うたくさんの人々と出逢うでしょう」「しかし、あなたは正しい選択ができることを忘れないでください。そうすれば、あなた自身だけでなく、親しい人々の人生にも良い影響を与えます」「懐疑的な人々が間違っているとあなたが証明できることを私は信じています。グッドラック、成功を。バラク・オバマ」


 オバマ大統領は2010年にADAA法のクラックと粉末コカインの刑罰比率100:1 を18:1に縮小する法にサインした。本来は1:1とするはずが、反対派との妥協により18:1となった。今ではクラック・コカインと粉末コカインの身体への影響に差は無いことが定説となっている。

 以後、オバマ大統領はADAA法によって不当に長期の刑を受けた非暴力犯の恩赦と刑期短縮を行っていく。対象の圧倒的多数はドラッグの所持、運搬、密売を行った者。2015年には現役大統領として初めて連邦刑務所を訪れ、6人の受刑者と膝を突き合わせて語り合った。

 この時、オバマ大統領は「運が悪ければ自分もここにいたかもしれない」と考えたのではないだろうか。ニューヨーク州はADAA法制定前の1973年に独自の悪名高いロッカフェラー法を施行している。4オンス(113g)のドラッグ所持で最短15年から終身刑と定められ、当初はマリファナも含まれていた。オバマ大統領は1980年代にコロンビア大生としてニューヨークに暮しており、若い時期のマリファナ使用を認めている。ジェイ・Zもロッカフェラー法については度々語っており、もしドラッグディーラー時代に逮捕されていれば、今のジェイ・Zは存在し得なかった。(ロッカフェラー法は2004年、2009年に緩められている)

 いったん有罪になると、刑期を満了して出所しても就職、進学、住居賃貸、福祉の受給が難しくなる。州によっては選挙権も永久剥奪となる。また、大量の男性が刑務所にいることから黒人地区では男女の人口比が極端に傾き、女性はパートナーを見つけることが困難だ。すでに子どもがいる場合は父親の支援が一切受けられないシングルマザーとなり、多くの子どもが父親を知らずに/会えずに、または刑務所での面会のみで育っている。

 2年前の夏に黒人少年マイケル・ブラウンが白人警官に射殺されたことから暴動となったミズーリ州ファーガソンは警察から住人へのハラスメントが常態化、男性の収監率も異様に高く、黒人女性100人に対する黒人男性の比率は60人となっている。これでは地域社会がまとも機能するはずはなく、暴動は長年積もった住人のフラストレーションがマイケルの死によって爆発したのものだと言えるだろう。

 ニューヨーク市の黒人男性比率はファーガソンに比べると高いが、市の人口は全米最大の850万人。ここに生まれ、もしくは暮していた黒人男性のうち118,000人が刑務所収監か、または若い時期の死により社会から「消えている」。全米のあちこちに、こうした黒人男性のいない黒人地区が散らばっている。これほど大量の黒人男性が社会から消え、復帰後も社会構成員として機能できない仕組みが社会全体、国全体にマイナスの影響を与えないはずはない。また、大量の長期刑はひたすらに税金の支出となる。(アメリカでは刑務所の民営化が進んでいるが、ここでは割愛する)


以下はオバマ大統領による減刑例の一部。

●カーティス・ビーズリー(サウスカロライナ州)
5g以上50g以下のクラック・コカインを密売目的で所持することを謀略、5g以上50g以下のクラック・コカインを密売目的で所持。
2004年に量刑宣告:懲役34年+保護観察8年
減刑:2017年3月に釈放予定

●リサ・ウッズ・ボール(ヴァージニア州)
50g以上のメタンフェタミン(クリスタルメス)密売を謀略。
2009年に量刑宣告:懲役20年+保護観察10年
減刑:懲役15年8ヶ月に短縮

●トーマス・ブラウン(フロリダ州)
密売目的により少なくとも5kgのコカインを所持。
1989年に量刑宣告:終身刑
減刑:2017年11月に釈放予定

●ドゥエイン・ダンパー(ミシシッピ州)
クラック・コカインを販売目的で所持。
1999年に量刑宣告:懲役30年+保護観察8年+罰金$4,500
減刑:2017年3月に釈放予定


 オバマ大統領は来年1月20日に退任するまで恩赦・減刑を続けると言う。申請は3万人を越えており、4,000人の弁護士がボランティアで審査を行っているが、全ての審査は果たして間に合うのか。トランプが恩赦を行う気配は今のところ無い。オバマ大統領と数多くの「法の犠牲者」は今、残り少なくなった時間と闘っている。



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ヒューマン・バラク・オバマ
第1回:父親としてのオバマ大統領〜「私はフェミニスト」
第2回:バラク・オバマは「黒人」なのか〜人種ミックスの孤独
第3回:マイ・ブラザーズ・キーパー〜黒人少年の未来のために
第4回:“二重国籍疑惑”の大統領候補たち〜「生まれつきのアメリカ人」とは?
第5回:ドナルド・トランプを大統領にしてはいけない理由
第6回:大統領はクリスチャン〜米国大統領選と宗教
第7回:不法滞在者となってしまった子どもたち〜合法化の道を開いたオバマ、閉ざそうとするトランプ





ハーレム・ツアー(ブラックカルチャー100%体感!)
ゴスペル・ツアー(迫力の歌声を全身にあびる!)
スパニッシュハーレム・ツアー(ラテンカルチャー炸裂!)
ワシントンハイツ・ツアー(スペイン語の街 "In the Heights"はここで生まれた!)

 

 

 

 

 

author:堂本かおる, category:オバマ大統領, 17:53
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